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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
5章 今度は負けない
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2回裏 エース、四之宮詩織

 カキーン。

「サード!雪音!」

 9番の九条さん投じた4球目のスライダーを打ち損じてサードへ。

 転々を弱い打球を雪音さんは補給してファーストの恵美ちゃんへ。相変わらず厳しい送球でも何とか捕球してアウトになってスリーアウト。攻守交替(チェンジ)となった。

 ツーアウトながら六道さんにヒットを許して盗塁で揺さぶられて四球(フォアボール)とヒットで1点を返された。後続は何とか抑えたけど、2点あった差が1点になった。初回の2点は大きな2点だった。あの四之宮さんから奪った2点だ。四之宮さんにとって精神的に重い2点だったはずだ。それを相棒の力で1点差にしてくれた。ここで抑えなければエースじゃない。

 回の攻撃が始まる投球練習でミットに突き刺さる剛速球がそれを物語っていた。

「何、動揺してる!」

 先生が私の頭をなでるようにタオルを渡してくる。

「チームで一番野球が出来るお前が萎縮してどうする?」

「でも…」

「確かに四之宮はすごい。でも、そんな四之宮から俺たちは2点を取った。この事実は変わらない。ほんの少し前まで素人だったお前たちがあの豪腕から点を自力でもぎ取ったことを誇りに思え!」

「そうだ!」

「そうだ!」

 元気印の神野ツインズが元気良く返事をする。

「取られたら取り返す!」

「倍返しだ!」

 凜子も同じく場の空気を軽くする。

「そうね」

「そうです。まだ、2回。7回まであるんですから」

「まだ、負けてないわ」

「がんばりましょ~」

「この調子で闇の兵団に攻撃を続けるのだ」

 とそれぞれが士気を上げる。

「お前が落ち込んでいてどうする?」

 と再度先生に言われる。

「そうですね!」

 私は前を向く。

「行けー!右樹ちゃん!」

「何?」

 と隣にいる左樹ちゃんが返事をする。

「…あれ?」

「有紗。あれ(バッター)が左樹でこれ(ベンチ)が右樹だ」

「逆に先生はなんで見分けがつくんですか?」

「ロリコンだからよ」

「おい。雪音。誤報を流すな」

「通りでアイと仲良くしてたわけね」

「あ、あの、ミキさん。なぜバットを握ってるんでしょうか?」

 ミキちゃんは極道のお父さんによくに似ている。雰囲気が。

「ヘイ!ユーたち!声出して行くよ!」

 おー!と良長川女子野球クラブの面々が声を上げたところで2回の裏の攻撃が始まる。

 バッターは7番の左樹ちゃんからだ。

「いくぞー!」

「いけー!左樹!」

 全員が全員全力で応援する。

 それだけこの野球にみんなが熱中している。私はその事実を目の当たりにしただけでうれしかった。

「だがしかし」

 六道さんのそんな声が脳に響いた。

 四之宮さんの剛速球が2球連続ミットに収まる。左樹ちゃんはバットを振るけど当たらない。3球目のストレートがようやくバットに当たるけど、当たったところはバットの根元で音は鈍く弱く転がった当たりはセカンド正面で簡単にアウトになる。

「イターーー!!手がしびれる!」

 手を振りながら戻ってきた。バットの根元はボールの衝撃が一番伝わってくる位置だし、あの剛速球だからバットに当たったときの振動はすさまじいはずだ。

「やばい。私も手がしびれてきた」

 右樹ちゃん。それは気のせいだよ。

「双子あるある」

「世にも奇妙な物語」

「なぜか妹の傷が!」

「姉にも移る!」

「遊んでないでアイシングするぞ」

 先生もこの神野ツインズに大分慣れてきましたね。

「くっくっく。我輩にかかればあんな剛速球。止まって見えるわ」

「なっちゃん。足が震えてるよぉ」

「べ、別に怖くないし」

 8番バッターのなっちゃん。大丈夫かな…。

「とりゃー!」

 2球目に投じたカーブがたまたまバットに当たったが、当たりは弱くてキャッチャーの前で止まった。そのままファーストに投げてアウトとなる。

「闇の力がまだ足りない」

「だったら、補充するか?」

 先生は黒いパッケージのミンティアを渡す。

「よくわかっているではないか。これで闇の力を補充できる」

「先生。なんで眠気を覚ますミンティア持ってるんですか?」

「なっちゃんが好きそうだったから。劣勢になったときにくよくよされないようにするための小道具だよ」

 先生。慣れ過ぎてません?

「次は私ですぅ」

 9番、桃香ちゃん。

「あれぇ~」

 三球三振。バットにかすりもしなかった。

 四之宮さんは桃香ちゃんを三振に抑えるとガッツポーズでベンチへと駆け足で戻って行く。初回に失点してからギアを上げてきている。その勢いをさらにつけてきている。桃香ちゃんに最後に投げたストレートは今までと比較にならないほどの闘志がみなぎっていた。

「大丈夫よ、有紗。まだ、あたしたちは勝ってる」

 キャッチャーのプロテクターを着けたミキちゃんが声を守備へ向かった。

 その言葉は私じゃなくて自分自身にかけているように思えた。

「そうだよ、そうだよね。私たちはまだ勝ってる」

 それに習うように私も自分自身に声をかける。すると少しだけ震えていた自分が落ち着いた。

「よし!」

 勢い良く立ち上がって3回の表の守備へ向かう。

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