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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
5章 今度は負けない
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2回表 秘密兵器炸裂

 試合はここからだ。気合を入れて行くぞ。

 私がサードのコーチャーボックスにいたときにベンチで先生がみんな言った言葉だ。

「たぶん、もう点を入れるのは難しいって意味だよね」

「そうね。まぁ、誰が見たってあの四之宮を見ればそう思うわね」

 同じくファーストランナーでベンチにいなかったミキちゃんも先生の言葉の重さを判っていた。

 そんな気合が入って雰囲気の違う四之宮さんがこの回最初のバッターだ。

 マウンドでそんな四之宮さんをふたりで見つめる。

「有紗」

 ミキちゃんはミットで口元を覆う。これは口元の動きで相手に私たちの会話の内容悟られないようにするための動きだ。私が試合を最後にしたのは小学生の頃。その頃はグラブで口元を覆うなんて気が回らなかった。なんか野球をしているみたいで。

「何にやついてるのよ?」

「あ!ご、ごめん」

 緊張感が足りなくて…。

「まぁ、いいわ。有紗」

「はい」

「出し惜しみはなしで行くわよ」

「うん、そうだね」

 みんなそれぞれがこの一月で成長したように私だってこの一月で成長したんだから。

「タイミングはミキちゃんの判断でいいよ」

「わかった。頃合が来たらサインを送るわ。その前に」

 口元を覆っていたミットを離してそのミットで私の胸を軽く叩く。

「気張ってると何かあるって悟られるから平常心よ」

 そういわれて深呼吸する。

「うん!」

 笑顔を浮かべてキャッチャーマスクを被ってホームへ戻って行く。

 点を取られるわけには行かない。みんなで取った2点だ。

「プレイ!」

 さぁ、2回表の守り。バッターは4番、四之宮さんだ。

 すごい威圧感だ。圧倒されそうになる。でも、負けない。

 インコース低めのストレート。ボール気味でもいい。先生いわくノビのあるストレートを投げる。ボールかストライクか投げた私もわからない。いいコースだった。しかし、四之宮さんは長い手を使って豪快に打ち返してきた。

「嘘!」

 ボールは右に切れて行った。しかし、パワーの乗ったボールは10メートル以上あるグラウンドのネットを越えてグラウンドに隣接する家の屋根を跳ねて消えた。

 冷や汗が出る。

 ふーっと息を吐く四之宮さん。

 タイミングは合っている。ストレートは不味い気がする。ミキちゃんも同じ事を思ったのか今度はスライダーだ。真ん中低め。投じたスライダーは思ったよりも低くいった。ワンバウンドしてミキちゃんは捕れなかった。それだけじゃない。四之宮さんはそのボール球に微動にしなかった。スライダーも見極められている。

 ど、どうしよう。

 ミキちゃんの要求は外角のストレート。私は一瞬不安に襲われた。打たれる気しかしないからだ。先生いわくこの感情を抱いた時点でもう打たれてしまうと言っていた。そういう時は割り切って打たれに行こうと思ったほうがいいと教えてくれた。以前と違うのは神野ツインズという頼れる二遊間がいる。だから、打たれるつもりでとストレートを外角に投げる。四之宮さんは手を出しそうになるけど、バットを止める。

「ボール!」

 カウントはツーボール、ワンストライク。バッティングカウントだ。次で決めてくる。

 次のミキちゃんのサイン。コースはさっきと同じ外角。そして―――。

 そうか。さすがだよ。ミキちゃん。ミキちゃんは私より野球を知っている。さすがだよ。

 今だよね。先生から教わった秘密兵器。気を張ったらダメ。いつも通り。いつも通りにストレートを投げるつもりで、私の新しい変化球!

 グラブの中でしっかりボールを握る。振りかぶって顔で悟られないようにそれでもいつもよりも慎重に手首に意識を集中させて投じたボールはストレートのような軌道に似ている。でも、球威が微妙に不足している。まるでストレートが抜けてしまったようだ。それを見逃さなかった四之宮さんは体を開かずコンパクトにバットを振ってくる。無理にひっぱらずにセンター方向を意識したすばらしいスイング。バットはボールを確実に捉える―――はずだった。

 カツン。

「何ですって!」

 ボールはバットの先に当たって転々と私の前に転がってきてそれを捕ってファーストの恵美ちゃんへ投げる。

「アウト」

 四之宮さんはファーストへ走らず私を凝視してベンチに戻る。

 次の五十嵐さんは。

「何があったの?詩織?」

「沈んだ」

「え?」

「新しい変化球ですわね」

 笑みを浮かべる四之宮さん。

「面白くなってきましたわね」

 こっちもだよ、四之宮さん。

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