1回裏 激しい攻防
初回はなんとか0点に抑えた。…いや、訂正しよう。
初回は0点に抑えた。
練習したとはいえ、一月だ。有紗とミキを除いて他の子達は初心者だ。この一月の練習も付け焼き刃であることは否定できない。だが、内野の守備の安定感を見て不安を感じていた自分が馬鹿馬鹿しくなった。彼女たちは大丈夫だ。外野はわかんないけど、少なくとも内野の守備は大丈夫だ。達人に近いスーパープレイ集ばかりを見せてきた神野ツインズは見事にその達人プレイをやってのけた。そして、ファーストに配置した恵美も期待通りだ。
普段から雪音に無茶な送球ばかりを必死に追いかけ捕球していた。そのせいか多少の悪送球はなんなく捕れるようになっていることに気付いてファーストに配置した。雪音の捕球が難しいショートバウンドも、スーパープレイの影響から左樹の逸れた送球も捕ってのけた。
「ナイスプレイだったぞ、恵美」
と眼鏡を外して汗を拭く恵美の頭を撫でた。
「べ、べべべ別に普通ですよ」
顔を真っ赤にして照れる。
「そうね、普通ね」
「うるさいですよ!私だから捕れたんですよ!今度はちゃんと投げてください!」
「私なら捕れるんでしょ?うぬぼれ発言ね」
その雪音の指摘にさらに顔を真っ赤にする。
恵美の発言はまるで雪音みたいだった。
「移った!」
「移った!」
「雪音ちゃんが」
「恵美ちゃんに」
「移った!」
「移った!」
神野ツインズの素直な指摘にバットで攻撃を仕掛けそうになる雪音。
「そこ!いい加減にケンカするな!」
チームの姉さんの一言で沈静化する。
「ミキちゃんお母さんみたいだね」
「有紗?なんか言った?」
「は、早く打順回って来ないかなぁ~」
ケンカするほど仲がいい。雪音と恵美の関係はこのままいいのだ。ケンカし、高め合う。良きライバル関係だ。
その雪音が一番打者として打席に入る。
打席に入る前、ふーと一息吐いてヘルメットをかぶり直す。そして、打席へ。
「表情が違うね」
「そう?いつもといっしょよ」
「強がって、キュートね」
「………」
相手キャッチャーの銀髪の六道と雪音が言葉を少し交わすのが聞こえた。前と同様の挑発だが、あまり気にしているように見えない。それだけ、彼女は四之宮と勝負し勝つことにこだわってきた。
行け、雪音。お前の今の全部をぶつけろ。
「プレイボール!」
四之宮は六道とのサインを最初から決めていたようにすぐに大きく振りかぶる。打者に考える時間を与えないいい戦法だ。だが、それは雪音にとっては好都合のようだ。体格を最大限に使った投球ホームから繰り出される力強いストレートは風を切りながら六道のミットに―――。
収まらなかった。
カキーン!
甲高い金属音が鳴り響く。
鋭く低い弾道の当たりが一二塁間抜けて行く。ファーストとセカンドが一歩も動けなかった。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!」
ベンチにいた全員が一斉に喜びを爆発させ飛び上がった。雪音は余裕を持って一塁に到達した。
「いいよ!雪音ちゃん!」
「ナイスバッティング!雪音ちゃん!」
「やるじゃない!」
「な、ナイスです」
「いいぞいいぞ!雪音!」
「いいぞいいぞ!雪音!」
「かっこいいですぅ」
「さすが、闇の力を使うだけある」
若干、ほめてるのかどうかわからない発言もあるが、全員が全員雪音を褒め称える。
「う、うるさいわね!大げさよ!」
大げさじゃない。四之宮の剛速球、その初球を見事に捉えたのだ。若干振り遅れたが、それでも剛速球に負けないスイングとバットの芯に当てる感覚があったからこそ、ヒット性の当たりを前に飛ばすことが出来たんだ。
「クールダウン、詩織。熱くなってると自滅するよ」
初球のストレートを打ち返されたことに動揺を見せる四之宮を声をかける六道。
「わかってしますわ」
汗を拭って次の凛子と対峙する。
マウンドに立って数分。その汗が何を意味するのか。ピッチャーだった俺は知っている。
それは動揺。
前情報で聞いていた打撃が苦手な打者に自分の得意球を打たれた時にそれは似ている。
点をとるなら今しかない。
「よーし!私も続くぞー」
「いけー!凛子ちゃん!」
盛り上がる星美高校ナイン。2番は俊足の凛子だ。
四之宮はセットポジション。ランナーの雪音はチーム内では足が遅いわけじゃない。だか、盗塁するほどの技術はない。なんせ、期間が短すぎた。走塁の基礎は教えているが、簡単にしか練習をしていない。
この一月、それぞれの子達がそれぞれコンセプトを持って練習を重ねた。雪音は打撃を、神野ツインズは守備を。それぞれがそれぞれ得意なこと、好きなこと、集中できることを選び練習を重ねた。短い期間、ひとつことを極めてそれを武器にする。そのひとつことなら誰にも負けないように努力した。雪音はその成果としてあの四之宮からヒットを打った。神野ツインズは神がかった守備を魅せた。そして、凛子も、忘れっぽくてどうしようもない凛子も、誰にも負けないひとつことを極めて今ここにいる。
セットポジションの四之宮。左投げはファーストランナーがよく見える。睨むようにファーストランナーの雪音を威圧する。その影響か、リードをあまりしない。そもそも、走らせる気はないからあれでいい。
「先生」
ネクストバッターサークルにいる有紗が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫」
四之宮と六道がサインなしに初球の配球を決めていたようにこっちもサインなしに決めていることがある。
それをあの忘れっぽい凛子が覚えているか心配しているのだ。
でも、大丈夫。なぜなら…。
セットポジションの四之宮が振りかぶって再び豪速球を投げた。
それと同時に凛子はバットを寝かせ、バットの根本よりもほんの少し芯側を握る。
「送りバント!」
六道がそう叫ぶとサードの三村が一気にホームに向かって走る。
この一月、凛子にはひとつのことしか教えていない。それはバントのやり方だ。
ガキン。
鈍い音をたててボールはバットにしっかり当たった。
バントはボールの勢いを殺して自分をアウトにする代わりにランナーを次の塁に進塁させるのが目的だ。
しかし、四之宮の凄まじい豪速球にボールの勢いが緩まずファースト方面へ転がった。
「瞳!」
「りょーかい!」
当たり損ないのファーストゴロのようなバント。しかし、不意を突いた送りバントはほぼ成功し、雪音の進塁は確実そうだ。だが、凛子の真骨頂はここからだ。
ボールが前に転がった瞬間、スターターピストルがなったかのようにバットを投げ捨て前傾姿勢で腕を大きく降る。それはまるで陸上の短距離走のスタートダッシュだ。
それからはまさに電光石火だ。
「早すぎでしゅ!」
一瀬さんがボールを補給してファーストへ全力疾走する凜子に触ろうとする。バッターボックスからファーストベースまでは約27m。陸上選手からすれば短過ぎる距離。トップスピードになるには短い距離だが、凜子はその距離で一気にトップスピードまで持っていった。そのスピードはボールを補給したグラブに触れることが出来なかった。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!」
一番喜んでいたのは有紗だ。
凜子はファーストベースを踏んでからバランスを崩して転がって止まる。
「どうだ!」
全身砂だらけになって自分がどうなったかを確認する。
「ナイス!」
「凜子ちゃん!」
神野ツインズが息を合わせてグットを送る。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!」
両拳を上げて大きく喜ぶ。
「次は私の番ですね」
気を引き締めて左打席へ向かう有紗。
二連打を浴びたマウンド上の四之宮は少し荒れていた。
まさか、素人にヒットを許してしまうとは。一月前までは打ったらサードに走っているような奴に出塁されるなんて恥だと。しかも、ピンチの場面でバッターはチームの要の有紗だ。一番迎えたくない場面のはずだ。
「負けないよ」
挑発するようにバットを相手に突き立ててから構える。
「シオリ」
六道が立ち上がる。
「リラックス」
と脱力しながら言う。
「わかっていますわ」
まったくわかっていない。それは六道にも俺にもバッターの有紗にもわかった。
セカンドランナーの雪音は牽制アウトを気にしてリードは小さめ。凜子も小さめだ。
ファーストコーチャーボックスにはなっちゃんがいる。
「ふっふっふ。凜子よ。絶対にベースから離れ過ぎるでないぞ」
「え?なんで?」
「インフィニティアーチャーが狙っているからだ」
「わかった」
今のでわかったんかい。
ちなみになっちゃんをコーチャーボックスにおいているのは野球のルールを知っていて一月で補えなかったルールをプレイ中に指示してもらうためだ。中二っぽいキャラはぶれないがそれがなっちゃんだ。
一度凜子のほうを見てから大きく振りかぶる。大きなモーションを見る限り四之宮はクイックが苦手に見える。すさまじい剛速球は外角に外れる。
「やっぱり他のメンバーと違うね」
「ありがとう」
ファーストランナーを気にしながら振りかぶって投げる。
投げたボールは四之宮の代名詞の剛速球ではなかった。四之宮が気にしていたのは凜子の走力だ。バントだったが、ほぼファーストゴロのような当たりを内野安打にしてしまうような足の速さがある。もちろん、盗塁をする可能性もあるが、セカンドランナーがいる時点でその可能性は低い。相対するバッターはヒット性の当たりが打てる有紗だ。ワンヒットでピンチがさらに大きくなる可能性がある。その一瞬、ランナーを気にした。それが四之宮のストレートの球威を鈍らせた。
「シオ!」
六道が四之宮の名前を叫ぼうとした瞬間、有紗はその球威がなく甘いストレートを完璧に芯で捉えた。思いっきり引っ張って大飛球はライトへ。
「おおおおおおおおおお!!!」
ベンチにいたメンバーがベンチを飛び出し大飛球の行方を追った。大きな当たりはライトの九条がファンス手前で大きく手を上げて補給態勢に入った。
「捕られる?」
恵美が心配そうに呟く。
「嘘でしょ?」
「嘘だ」
神野ツインズもせっかくあたりに肩を落とす。
だが、打ち取られたと落胆するには早い。
「雪音!凜子!ベースに戻れ!なっちゃん!」
「わかっている。ダークエンペラー」
顔を覆い隠すような変なポーズをする。
「雪音…さん。凜子!ライトがボールを捕った瞬間、次のベースに向かって走れ」
「はぁ?なんで?」
「雪音さん!なっちゃんの指示に従って!」
ゆっくりファーストへ走る有紗も声を張って指示をする。
「タッチアップする気だ!文香!中継にダッシュ!」
セカンドの眼帯っ子がライトとサードの中間に走る。
タッチアップとは進塁方法のひとつだ。バッターがフライでアウトになった場合でも補給後に一度ベースに戻れば次の塁に進むことが出来る。この場面、ライトが深いところでフライを捕球すればサードまでは距離がある。だから、セカンドランナーの雪音がタッチアップした場合は進塁できる可能性は高い。しかし、ファーストランナーの凜子はライトと距離が近いから進塁できる可能性は低い。俺は10年近く野球をやったり見たりしてきているが、ファーストランナーがタッチアップするプレイを見たことがない。
「凜子ちゃん!」
「何?有紗?」
「あの子がボールを捕ったらピストルが鳴るんだよ」
「え?」
「短距離走だよ。距離は短いけどね。頼んだよ。凜子ちゃんにしか出来ないことをやってみせて」
「私にしかできないこと」
だが、俺と有紗は確信した。凜子ならできる。
凜子はゆっくりファーストベースに戻ると両手を突いてクラウチングスタートの構えを取った。片足をベースにおく。それは短距離走のスタート前のようだ。
「胡桃!捕ったらセカンドに投げろ!」
四之宮が大きく叫ぶと同時にライトが捕球をする。塁審がアウトの宣告と同時に。
「ゴウ!!」
有紗の掛け声は凜子にとってはスターターピストルだった。
同時に雪音もサードへ進塁する。
身を低くして両手を大きく振りかぶる。瞬時にトップスピードへ持っていく。
「胡桃!セカンド!」
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
ライトの九条はほとんどステップせず全力でセカンドへ鋭く返球する。
凜子は自分は必要ないと言って一時期練習に来なかった。だが、俺は凜子の足の速さは十分戦力になると有紗に早い段階で話していた。ルールを覚えるのが苦手ならその都度指示をすればいい。そのためになっちゃんはすぐに指示を出せるファーストコーチャーをやっている。なっちゃんの他にも有紗もミキもいるし、恵美もある程度できる。そうやって出来ないこと、苦手なことを全員でカバーする。それがチームだ。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
雄たけびを上げながらセカンドベースに向かって頭から飛び込む。ライトから鋭く正確な返球を受け取ったショートが凜子にタッチしようとした瞬間には凜子がセカンドに頭から飛び込んでいた。砂埃を大きく上げてセカンドベースに抱きつくように顔を上げる。
「セーフ!」
セカンドの塁審が両手を広げる。
「いいよ!凜子ちゃん!ありがとう!」
凜子は有紗に向かってブイサインを送る。
ワンアウトながらランナーは二三塁。同時に二つのアウトを捕るゲッツーをするには不利な状況だ。
「くっそ!」
苛立ちを最高潮の四之宮は次のバッターに威圧をぶつける。
「おー怖いね」
しかし、ミキはまったく動じない。
有紗はサードコーチャーに入る。
ばっちりだ。
ミキと目を合わせて頷く。
「ド素人にいいようにやられて気が立ってるわね」
「別に動じていませんわ!」
逆だ。動じている。
セットポジションをとって六道とサインを交わすが、四之宮は首を振った。また、首を振った。ここに来て六道とサインが合わない。小さく頷くと大きく振りかぶる。ランナーの進塁はもうないと気にせず投げてきた。今度もストレートだった。なぜか球威はあまりなかった。それを見逃さず、ミキは捉えた。
カキーン。
甲高い音がグランドに響く。鋭く引く打球はマウンドでバウンドすると軌道が変わった。
「嘘!」
ボールの正面に回っていたショートの五十嵐さんの逆に転がっていった。
「やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
本日何度目かわからないが、間違いなく一番爆発的な喜びだ。サードランナーの雪音が悠々とホームベースを踏む。そして、マウンドでバウンドが変わった打球は打球の勢いが弱々しくなってセンターへ転がる。足の速い凜子をホームへ有紗がまわす。センターが捕って内野に投げた頃には凜子はホームに戻ってきていた。
「いえぇぇぇぇぇい!!」
「いえぇぇぇぇぇい!!」
全員とハイタッチを交わす凜子。
「当然よ」
とクールに汗をぬぐう雪音に。
「本当は」
「うれしいくせに」
と茶化す神野ツインズ。
「うるさいわね!」
「わぁー!」
「怒った!」
ベンチの雰囲気もいい。
そんなベンチの光景を見た有紗がうれしいのか泣きそうになっていた。
ミキも俺の方に向かってガッツポーズをする。俺も同じガッツポーズを返す。
さぁ、まだワンアウト。続くぞ。
「タイム」
六道が主審にそういうと四之宮の元へ駆け寄る。
「何?ローラ?」
「トウ!」
そのままとび蹴りを四之宮にかました。
「ちょっちょ!」
慌てて内野陣がマウンドに駆け寄る。
「何するの!ローラ!」
「言葉がデゥディーだ」
「はぁ?」
「汚いって意味よ」
サードの三村さんがフォローする。
「はぁ?」
「アマチュアにぽこぽこ打たれてヒートアップしていつものシオリじゃないわ。ミーの知ってるシオリはいつも冷静で上品よ。そんな上品なシオリからは考えられないような不意打ちストレート。それがユーの持ち味でしょ?そのストレートが多少荒いのもミーたちは知っている。今のユーにはユーらしさがどこにもない。上品さもいつものストレートも」
「えい!」
一瀬が四之宮を蹴った。
「痛っ!」
「やー!」
二葉も同じく四之宮を蹴った。
「ちょ!」
「ふん!」
背中にチョップをしたのは三村だ。
「何よ!」
「とー!」
五十嵐も腕を軽く拳で叩く。
「ちょっと!」
「こちょこちょ!」
六道が四之宮をくすぐりにかかると全員が一斉に襲い掛かる。
「ちょっと!や、やめなさい!」
スタイルがいいだけにもがく四之宮が妙に…エロい。
「おい。神野ツインズ。何木の枝を二本用意してこっちに向ける?」
「殺気を感じたの」
「男の人独特の」
お前らは過去に何があったんだよ。
「ショルダーの力は抜けた?シオリ?」
息を整えて。
「抜けめしたわ」
「噛んだ」
「いのり!今のは見逃すところですわ!」
穏やかな笑いが起きる。
「エンジョイよ、シオリ」
「ええ。そうね。せっかく同年代の女の子と試合が出来るんですもの」
「しかも、劣勢。楽しいのはナウよ」
「そうですわね。ローラ」
グローブでタッチを交わすと内野陣が守備位置へ戻って行く。
星美高校女子野球部にもあったように良長川女子野球クラブにも野球を始めるのに何かしらのいざこざがあった。四之宮が最初の試合で有紗たちに牙を向いたのは過去の自分たちと重なるものが合ったのだろう。
「待たせてソーリー」
「別に大丈夫です。ルールの範囲内なので」
とメガネをかけ直す、恵美。
打席に立った恵美は魔王のような威圧感とオーラに一瞬身震いした。
ベンチにいた俺たちにもそれを感じた。
「何よ?あれ?本当に四之宮?」
雪音が疑問に思うのも無理はない。さっきの戯れのおかげなのか四之宮はさっきまでの四之宮じゃない。
セットポジションから小さいモーション。クイックをしっかり使ってきた。あわよくば盗塁を狙っていたミキも走れなかった。そして、小さいモーションから力強く投じられたストレートはミットを貫く勢いだった。
バチコーン。
その音は本当にミットに収まったのか?疑問に思うような音だった。
「ナイスボール」
「ま、負けない」
「インポッシブル」
六道が呟く。
次のボールもストレート。恵美は勇気を出して振るが当たらない。
「大丈夫。大丈夫」
と自分に言い聞かせて構える。
「ポールシィング」
かわいそうに、と英語で六道は呟く。
誰もが次も渾身のストレートが来ると思っていた。それは野球の経験がある俺でもだ。だが、配球の指示をしているのはおそらく六道だ。四之宮の投じたのは気が抜けるに大きく曲がる変化球だった。
「え!」
ボールがミットに到達する前に恵美はバットを振ってしまい、そのまましりもちをつく。
「ストライクバッターアウト!」
何が起きたのか恵美自身もわかっていなかった。
「みんな」
俺はベンチにいるメンバーに告げる。
「試合はここからだ。気合を入れて行くぞ」
誰も返事をしなかった。だが、俺の重い言葉を誰一人軽視していない。
次のバッター、神野ツインズの姉、右樹だが、彼女も覚醒した四之宮の前にあっけなく三振に終わった。




