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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
4章 少女たちは再起する
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神野ツインズのオリジン

 前に双子なら言葉がなくても意思疎通が出来るんじゃないのって誰かが言った。それを神野ツインズで実証してみようというとってもくだらないことをやった。じゃんけんをして何連続あいこを出せるかやってみようとした。試しに友達同士でやってみたところいきなり失敗することもあったし、連続で続いても5回くらいだった。対して神野ツインズはふざけあいながらも驚異的な数字をたたき出した。50回あいこを続けたのだ。しかも、同じものを出し続けたわけじゃない。毎回違うものを出し続けることもやってのけた。事前に話し合ったわけじゃない。ふたりは言葉がなくても通じ合っている。ふたりはそれを意識してやっていないのだからすごいと思う。

 そんなことをなんとなく先生に教えたことがあった。

 お手玉みたいにボールもグローブもバットもキャッチボールをしている姿を先生は。

「お互いに何をどこに投げてくるのかわかってるのか?」

「わかってると思いますよ」

 私は即答した。その理由は先生に話してただすごいと先生は感心した。

 そんな神野ツインズは楽しいことが大好き。反対に楽しくないことは嫌いだ。

「神野ツインズ!真面目に練習しろ!」

「えー!」

「楽しいのに!」

 相変わらず同じ声でしゃべる。もう慣れたけど、最初はどっちがしゃべっているのかわからなかった。基本的に最初に話してくるのが姉の右樹で後にしゃべってくるのが妹の左樹だって最近知った。どちらが先にしゃべって何を話したいのかどうやって意思疎通を図っているのかわからない。それでも見えないものでふたりは繋がっている。


 練習前の昼下がり、私は珍しく神野ツインズの片割れだけに遭遇した。

「えっと」

 ひとりだけだとどっちかわからない。

「左樹だよ」

「えっと」

「妹のほうだよ」

 なぜかふたりセットじゃないと見分けがつくようになってもひとりだけだとどっちだかわからなくなる。

「なんで右樹がいないとみんな私たちの区別つかないのかな?」

 こうしてひとりだけだと普段分担してしゃべっているから長くしゃべっているように聞こえる。

「右樹ちゃんは?」

「お姉ちゃんは先生に呼び出されて職員室」

 ふたりが別々に呼ばれることもあるんだ。先生は呼び出してやってきたのが右樹ちゃんだってわかってるのかな?

「本当は私が呼び出されたんだけど、面白そうだから入れ替わってみた」

 先生、見分けられてないですよ。しかも、左樹ちゃんに伝えたいことが伝わっていないですよ。双子だから右樹ちゃんの聞いたことは左樹ちゃんの耳にも入るだろうけど。

「試合の時も守備をこっそり入れ替わろうとしてたことあったけど、普段から入れ替わって遊んでるの?」

「そうだね」

 周りの人はどれだけ気付いているのだろうか。

「授業中に席を変えるのはしょっちょうだし」

 だよね。

「劇の役を入れ替わったのはさすがに緊張したなぁ~」

 ばれないのすごいよ。

「後は健康診断中に入れ替わったり」

 それはダメでしょ。

「テスト中も入れ替わったり」

 それはもっとダメ!

「たまにあれ?私は左樹だったっけ?それとも右樹だったっけってなることがある」

 左樹ちゃん。ある意味それはホラーだよ。

「まぁ、楽しいからいいんだけど」

 その楽しいことで回りは大変迷惑しているんだよ。

「あのね、有紗ちゃん」

「何?」

「有紗ちゃんは楽しそうに野球をやるよね」

「うん」

「どうやったら楽しいのか私たちにはわからないんだよ。一生懸命やっている人といっしょになってふざけるのは、遊ぶのは失礼だよね。先生の言うとおりだって私は思うよ」

 左樹ちゃんが思うということは右樹ちゃんも同じだ。

「神野ツインズは野球が楽しくないの?」

 左樹ちゃんはなに答えず下を向いた。

「右樹と楽しいことをしてると2倍楽しいんだよ。逆に右樹といて楽しくないと2倍楽しくないんだ。この気持ちはたぶん誰にもわからないよ」

 ふたりでひとつの神野ツインズは喜怒哀楽もふたりで共有している。楽しければ2倍楽しいし、悲しければ2倍悲しい。確かに私たちにはわからないことかもしれない。神野ツインズは素人の中では上手だ。守備も無難に出来るし、バッティングも雪音さんほどじゃないけどできる。でも、ふたりにはただできるだけでは物足りない。楽しいことがないと。

「有紗ちゃんがやってるピッチャーってふたりでできない?」

「できないよ」

 やったら反則だし。

「でも、有紗ちゃんがやってる奴面白そうなんだもん!」

「例えば、ボールの変わりに水風船を投げたりとか!これぞ変化球!」

「あ!右樹!」

「やっほー!左樹!」

 職員室から右樹ちゃんが元気よく出てきた。

「ねぇ?おもしろいでしょ?」

「変化球!水風船!」

「他にもあるよ」

「グリスビー!」

 もはや野球じゃないし、変化してるのはボール本体なんだけど。

「あのね、そういうことをするから真面目にやれって先生に怒られるんだよ」

「だよねー」

「そだよねー」

 自覚しててやってるのが一番たちがたちが悪いよ。

「普通にやるのは」

「つまんない!」

 普通にやるのはつまんないっていわれてもな―――。


「先生」

 場面は練習中のグラウンドに。

「なんだ?」

「野球を普通にやるのはつまらないって言われたらどうします?」

 先生はしばし神野ツインズを見てからあごに手をやって考える。

「神野ツインズのことか」

 お察しのとおりです。

「まぁ、あのふたりには普通が似合わないのはなんとなくわかってるよ」

「何か策はありませんか?このままだと神野ツインズ野球に飽きちゃいますよ」

 普通は飽きないんだけどなってボソッと呟く。

 私もそう思う。やればやるほど野球というスポーツは深いスポーツだ。駆け引き技術いろんなものがごちゃごちゃと混ざり合っている。それはピッチャーだけじゃない。守備だって打者の得意なコース、得意な打つ方向それに合わせて守備も守る位置を変わる。それが時に打者へプレッシャーを与えることもある。考えれば考えるだけ楽しくなる。神野ツインズには難しい楽しみ方かもしれない。

「まぁ、神野ツインズにはやらせてみたいことがある」

「それはなんです?」

 先生は笑みを浮かべる。

「普通に野球をやるだけじゃ物足りない神野ツインズにはぴったりだ」

 先生はおもむろにスマホを取り出して操作し始める。

「有紗。神野ツインズを呼んでこい」

「呼んだ?」

「呼んだ?呼んだ?」

「お前らの耳はどうなってるんだよ」

 まだ、呼んでないのに一瞬でやってきた。

「まぁ、これを見ろ」

 スマホに映し出されたのはとあるプロ野球選手のファインプレー集だった。その中にあった私も知っているとあるプロ野球チームの最強コンビの華麗なプレーをまとめたものだった。その中に神野ツインズの目を釘付けにするプレーが流れた。

「え!」

「何!今の!」

「お手玉みたい!」

「遊んでるみたい!」

「すごい!」

「かっこいい!」

 食いつきがすごくいい。

 そのプレーは真面目に野球をやっているけど、普通の人にはなかなかできないことだ。言葉がコミュニケーションツールとなっている私たちには難しいけど、言葉なくして通じ合っている神野ツインズには難しいことじゃない。

「これなら遊んでるとは言わない。チームに貢献している。でも、実行するには基礎的なことが出来ないと話しにならない。これをやりたいのなら」

「真面目にやる!」

「練習する!」

 目をきらきらとさせたふたりはもう野球を辞めるとか心配していた私がばかばかしくなってきた。先生はわかっていたのかもしれない。ふたりが普通の枠の中に納まらないことくらい。

「先生はすごいです」

「それは四之宮に勝ってから聞きたいよ」

「そうですね」

 四之宮さんに勝つために神野ツインズも進み方は違っても進んでくれている。私も進まないと。

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