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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
3章 敗者が学ぶこと
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ミキの再起

「ミキちゃん」

 昼休み。雪音さんと別れた後にお昼を済ませた後のようでブレザーを腰に巻いて弁当箱を片手に自動販売機の前にいた。カップのフルーツ牛乳を購入してストローに口をつけようとするところだった。

「こ、こんにちわぁ~」

「なんで声が震えるわけ?」

 なんでだろ。先生にも言われた。ピッチャーは堂々としないいけない。勝負するのはミキちゃんじゃなくて私なんだ。だから、おどおどしたらダメだ。負けちゃダメだ。

「ミキちゃん!!」

「なんでそんな喧嘩腰なの?やるの?」

 身構えるミキちゃん。金色の髪と容姿がマッチしてこのままぼこぼこにされるんじゃないかって少し身を引いてしまう。でも、私は知っている。ミキちゃんは妹、弟想いの優しいお姉ちゃんだ。見た目で人を判断したらダメだ。四之宮さんの威圧してくる雰囲気で勝てないと思い込んでしまった。負けちゃダメだ。

「別に喧嘩するわけじゃありません。私はミキちゃんと野球がしたいだけだから」

「はぁ?」

 やばい。何言ってるんだろ?私?

「何わちゃわちゃもたついてるのよ?」

 少し苛立って声にとげが生える。それでまだ身が縮まる。

「わ、私は今日もミキちゃんに練習に来て欲しいだけなんだけど……」

 ボソッと私が言った言葉を聞いてミキちゃんはため息を吐く。

「あんたね、もっと堂々としたらどうなの?そんなにあたしが怖いわけ?」

「べ、別に怖くないよ。ミキちゃんは弟妹想いのいいお姉ちゃんだから悪い人じゃないって知ってる。でも、その……」

「見た目が怖いって?」

「…………」

「わかりやすい図星ね」

「ごめん」

 と頭を下げるとその頭をミキちゃんはなでてくる。猫みたいに。

「え?」

「まぁ、あたしも厳しく言い過ぎたかもしれない。先生の言うとおりピッチャーに気持ちよく投げられないキャッチャーはキャッチャーじゃないわ。それに相手の挑発に載せられたのは事実なわけだし」

 頭を上げるといつもとは違うミキちゃんの表情に驚く。いつもどこか不機嫌そうで機嫌が悪そうだ。でも、優しく金髪のヤンキー風のお姉さんは微笑んでいた。かわいい妹と弟をあやすようなそんな優しい表情に。

「え!なんで泣くわけ!」

「ごめん。なんか急に優しくされたから」

 私と同い年なのにお母さんみたいで暖かかった。

「あたしは辞めないわよ」

「え?」

 ミキちゃんは幼い妹と弟の面倒を見るのと平衡して部活に来てくれている。先生にあんなことを言われたらもう来てくれないじゃないかって思っていた。でも、辞めないと言ってくれたことが信じられなかった。

「それ、本当に言ってる?」

「はぁ?」

「ご、ごめん」

 反射的に怯えてしまう。

「まぁ、あたしもいろいろ忙しいから無駄な部活に参加する暇ないのよ。でも、悔しいのよ。まんまと口車に乗せられて、歯が立たなかった。それに有紗にはあんな言いかたしたけど、あたしもあんたと同じだったのよ」

「え?」

 少し歯切れ悪く教えてくれる。

「あしたも四之宮に勝てる気がしなかった。打席に立ったときに剛速球を見て、タイミングを外しながら大きく曲がるカーブを見て、打席に立つ威圧感を見て、ああ、あたしたちはこいつには勝てないなって思っちゃって。勝負する前から負けてたのよ。それを隠すために有紗に当り散らしてあたしって本当にバカよね」

 苛立っていた。乱暴に飲み干したフルーツ牛乳のパックを投げ捨てる。いつもならここで怯えて何もいえなくなってしまう。でも、今は違った。その苛立ちは私に向けられたものじゃなくてミキちゃん自身に向けられているものだったから。

「有紗はどうなの?」

「え?私?」

「悔しくないわけ?手も足も出なかったこと。それと先生に言われたこと」

 先生に言われたこと。

「悔しくないわけないよ。先生は私がいれば勝てるって言ってくれた。それは嘘とか私を安心させるためとかじゃなくて本気で思ってくれていた。それなのに私は、自分で負けを認めちゃってた。悔しいよ」

 もう私は野球が出来るだけじゃ満足できない。

「私は勝ちたい。私だけの力だけじゃない。みんなの力で」

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