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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
2章 少女は野球を始める
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好きだから続ける

 次の日の昼休みのこと。

「有紗!お昼だよ!急ごう!」

「う、うん」

 お弁当箱を持った凜子ちゃんが元気よく私の席にやってくる。校庭の人気の高い場所はすぐにとられてしまう。

「うぉぉぉぉぉ!!」

「林田さん!走らない!」

 という恵美ちゃんの注意も聞かずに階段を駆け下りていった。私はゆっくりその後を追う。

 外靴には着替えて校庭に出ていつも木陰の下のベンチに向かうと凜子ちゃんはそこにいて手を振っていた。陸上部で短距離走の選手の凜子ちゃんの足の速さはどうがんばっても敵わない。その足の速さを使ってお弁当スペースを確保するのが凜子ちゃんの得意技だ。そのいつも通りのベンチに知らない人がすでに座っていた。校則違反の金髪にブレザーを羽織らず長袖のワイシャツ姿。不機嫌そうに腕を組む姿。

「み、観月さん!」

「綾元さんだっけ?」

「は、はい。綾元有紗です」

 とお辞儀をする。

「ふん」

 え?なんでそっぽ向くの?

「なんで観月さんがここにいるの?」

 凜子ちゃんに尋ねる。

「ここに座って有紗を待ってたら有紗と会いたいってここにきたの!」

「私に会いたい?」

「聞きたいことがあったのよ」

 それはなんでしょう?まさか、なんで勝手に野球部に入部していることになっていることを抗議しに来たのかな……。そうなったらすぐに凜子ちゃんのせいにする。事実凜子ちゃんのせいだし。

「松葉俊哉について調べたわ」

 ああ。そのこと。

「そっか、調べたんだ」

 観月さんの隣に座る。

「本当にあいつは無駄なことをし続けてるのね」

「そうだね。他人から見たら無駄だよね」

「怪我をしてそれでも無茶して続けてまた怪我して、今まで積み上げてきたものを無駄にした。全部が無駄になってるじゃない。でも、あいつはなんで野球を続けてるの?もう、あいつはまともに野球できないんじゃないの?」

 そのとおりだ。私はうなずく。

 先生の右腕はまともにボールを投げられない。いっしょにキャッチボールをしていてわかった。

「じゃあ、なんであいつは野球を続けてるの?」

 その理由は単純だ。

「先生は野球が好きなんですよ」

「……それだけ?」

「それだけです」

 お弁当を開く。

「たったそれだけの理由であいつは自分の人生を棒に振ってるのよ?もっと、別の生き方もあったんじゃないの?1回目の怪我であいつは別の生き方を模索するべきだったのよ。少なくとも最初の怪我で野球のやり方も変えるべきだったのよ。そう、ピッチャーを諦めるとか!」

「私も思ったよ。なんで頑なにピッチャーにこだわったのか。それは私に訊くべきことじゃないよ。直接、先生に訊くべきだよ。訊きにくいから私に訊いても無駄だよ。先生は自分の素性を話した以上、踏み込んで訊かれることくらいの覚悟はあるよ」

 覚悟を決めたって私に言ってたし。

「だから、放課後練習においでよ」

 苛立ちを隠せない観月さんは立ち上がる。胸倉を掴もうとしたけど、膝元に広げているお弁当箱を見てやめた。

「そんな無駄なことするわけないじゃない!」

 それだけ言って校舎の中に消えていった。

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