観月ミキは部員のようだ
次の日。放課後早々に凜子ちゃんを捕まえて先生の下へ。
「凜子。本当に観月ミキは女子野球部の部員なのか?」
「部員だよ!」
と自信満々に答える。
「そもそも、9人じゃないと部活として認めないって言われたんだから当たり前だよ!」
「じゃあ、なんで観月さんは自分が野球部じゃないって言ってるの?」
「う~ん」
凜子ちゃんは腕を組んで首をかしげながら考える。そして、思い出したようにポンと手を叩く。
「そうだ!そうだ!」
「何を思い出したんだ?」
「確かにミキちゃんを野球部に誘ったとき断られた」
それは本当なんだ。
「だから、代わりにミキちゃんの名前で入部届けを作って提出した」
何してるの、凜子ちゃん。
「そんな力技で9人集めたのかよ。つか、他の6人も」
「他の子達はちゃんと自分で入部届けを書いて出してくれたよ!これはちゃんと覚えてるからね!」
不安なんだけど。
「でも、ミキちゃんは野球部に絶対必要なんだよ!」
「なんで?」
「ミキちゃんは中学の頃、ソフトボール部だったらしいの!ソフトボールって野球の親戚みたいなものなんだよね!」
間違ってはいない。ボールの大きさとかベースの距離とかルールとかいろいろと違いはあるけど、ボールを投げてバットで打って走る。グローブを使って守る。基本的な動作はほぼ同じ。少なからず野球のルールも知っているはず。凜子ちゃんよりも。
「有紗ちゃんしか経験者がいないと野球にならないと思ったから!」
凜子ちゃんは考えていないようで時々考えている。
「名前上は野球部に所属してるってことなんだな」
「でも、本人が野球部に入るつもりもないみたいでしたよ」
ああいうタイプは苦手なんだよね。
「恵美が聞いたら怒りそうだな」
「恵美ちゃんはルールに厳しいですもんね」
「私の名前を呼びましたか?」
「わぁ!」
噂をしたら背後に!
いつも通りのおさげにめがねにジャージ姿。
「何か私に聞かれたら不味いこともあるのですか?」
「あるわけないよ!ミキちゃんの同意なしに野球部に入部させるわけないよ!」
「凜子ちゃん!」
慌てて凜子ちゃんの口を押さえる。
「同意なしに入部?どういうことですか?綾元さん!」
え?なんで私?
「まぁまぁ、落ち着け。ちょっと書類上のミス的なことが起こっててそれを解決しようと奮闘してるところだったんだよ」
ナイスフォローです!先生!
「松葉先生は黙っていてください!今の件に関してあなたは部外者です!」
フォローを蹴り飛ばしてきた。
「綾元さん!林田さん!あなたたちは野球部を創部させたいがために他人の名前を勝手に使っているということですね!それは不正行為ですよ!その観月さんの同意なしに強制的に入部させていることは恐喝!そして、学校側を騙して観月さんとして入部届けを作製した詐欺!そんなもので出来ているこの部が存在していけません!」
なんかいろいろ言い方が大げさだよ!
「ちょっと待って!これには事情があってね!」
「事情?事情とはなんですか?林田さん。それは現状を打破できるようなどうしようもない事情なんですか?」
ある意味恵美ちゃんは観月さんよりも怖い。
「あ、有紗が知ってるよ」
なんで私に擦り付けるの!
「綾元さん。事情とはなんですか?」
「え、えええっと、え~と……」
助けて先生。
「騒がしいわね。チンパンジーが喚いてるから動物園だと思ったじゃない」
救世主、雪音さん登場。
「今重要な話し合いをしています!邪魔しないでください!」
「そう言われると邪魔したくなるわね」
「それは人として最低ですよ!冬木さん!」
「ごめんなさい。私にはあなたがチンパンジーにしか見えないから人とかどうでもいいのよね」
「冬木さん!その言葉はいじめと捉えられてもおかしくないですよ!暴言は他者を傷つけます!控えてください!」
「いやよ。あなたみたいなバカがバカみたいに喚く姿を見て罵ること以上に楽しいことがこの世に存在しないわ」
雪音さん。性格悪いですよ。
「ちょっとこっちに来てください!あなたには道徳の授業が必要です」
「別にいいわよ。道徳の授業なんて適当に受けてればいいから楽なのよね」
「サボってたってことですか!」
「そのとおりよ。生真面目に受けるほうがバカよ」
「それはですね!」
なんか言い合っている。ルールに厳しい恵美ちゃんと不真面目で他人を小ばかにする雪音さんと馬が合うはずがない。このふたりが同じチームで大丈夫なのか不安。
「有紗。今のうちに逃げるぞ」
先生も先生で姑息だ。




