観月ミキとの出会い
観月ミキ。この子が昨日練習に参加していなかった。ふたつ隣のクラスだ。だから、聞いてもピンとこないわけだ。接点がない。写真を見せてもらったけど、それをみて少し腰が引けた。でも、凜子ちゃんいわく集めたメンバーの中で一番戦力になる子だと教えてくれた。なぜなら―――。
いつでも練習にジャージ姿になって通学用のリュックを背負ったまま校門で待つ。
「あれ?有紗?」
聞き覚えのある男の人の声に振り返る。松葉先生だ。今日は昨日と違って動きやすいジャージ姿だ。ちなみに着ているジャージも昨日私といっしょに買ったものだ。小さな袋には買ったばかりのグローブが入っている。まるでデートみたいだった……。考えるだけで顔が熱くなる。
「なんでこんなところにいるんだ?練習は?」
「ちょっと、人を待ってます」
「人?」
「昨日言ってた。9人目の部員です」
あ~。と思い出したようだ。指定された場所に原付を置いてくると私のところに戻ってくる。
「あの、別に私の構わなくてもいいんですよ」
「有紗ひとりだと心配だ。言いたいことを言い出せなくてそのまま見過ごすって考えられる」
凜子ちゃんと同じことを言ってる。ひとりでがんばるって宣言してここにいるのに、結局ひとりじゃなくなった。私はいつも誰かの力に頼って生きている。
「来た」
校則違反の金髪ポニーテール。ワイシャツのボタンを大きく開けて短いスカート。ブレザーを腰に巻いてバックを肩にかけて猫背に歩く。そう風貌は誰が見たって不良だ。私の姿を見るとぎっと刺すように睨む。それに後ずさりしてしまう。
「大丈夫かよ」
「だだ、大丈夫ですよ。余裕ですよ」
「声が引きずってるぞ」
きききき、気のせいですよ。
「あ、ああ、あの、観月さん」
「なに?」
きつく睨まれた。このままナイフで刺されて殺されるんじゃないかって思った。
「なんであんた泣いてるわけ?」
「わかりません」
舌打ちされた。怖いよ~。
「あれ?君は昨日も見たな」
「……ども」
小さく会釈を私たちの横を通ろうとするときに先生が止める。
「フェンス越しに練習見てたよな」
観月さんは足を止める。
「はぁ?何言ってるの?あんた?」
けんか腰だよ!先生!大丈夫なの!私は大丈夫じゃないよ!
「やりたいなら混ざればいいだろ。野球部に所属してるんだから恥ずかしいことじゃないぞ」
先生がいてくれて助かった。ひとりでやるとか意地張ってごめんなさい。凜子ちゃん。
「別にやりたいとか思ってないし。つか、いつからあたしが野球部の部員になったのよ?」
「え?だって、有紗が部員だって」
なんで私に振るの!
「え、凜子ちゃんが観月さんを誘ったって言ってたから」
「あたしは断ったはずなんだけど」
「はぁ?」
「え?」
初めて聞いたんだけど。
「その凜子って奴に聞いてみな。あたしは部活なんてやってる余裕はないのよ。二度とあたしに話しかけるな。部活なんて、野球なんて時間の無駄よ」
何も言えず観月さんは帰っていった。




