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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
2章 少女は野球を始める
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四之宮との出会い

 線路の下をくぐって駅の北側を原付で進む。初めての原付の二人乗りは想像以上に怖くて思いっきり先生の背中から抱きついている。野球を辞めて2年くらいたつはずだけど、筋肉質な体は健在だった。鍛えていないと維持できるものじゃない。この人も私と同じで足掻いていたんだ。野球を辞めても体が求めてしまうんだ。野球をしたいって。私は野球ができたけど、この人はできない。体を鍛えることで忘れようとしていたのかな?

「あ、有紗」

「は、はい!」

「どこで曲がればいいんだ?」

「次の信号を右です」

「お、オッケー」

 なんでうろたえてるの?

 原付は交差点を右に曲がって駅前の商店街を北上する。

「そこを左です」

「わ、わかった」

 なんか先生の体温が上がってる気がする。

「先生。大丈夫ですか?」

「さっきからさ……おっぱいが」

 2人乗りが怖くて先生の背中にぴったりくっついていた。

「わぁ!変態!じゃなくて!」

「おい!暴れるな!」

「わぁわぁわぁ!」

 ふらつく原付は減速して止まる。止まったところでちょうど目的地に到着した。

 胸を抑えて先生に背を向ける。顔が熱くて爆発しそうだ。みんなの前でお願いをしたとき以上に熱い。私は始めて意識をする。そう、先生は男の人なんだ。

「その……すみませんでした」

 謝る先生。

「別に、いいです。私が自分でやってたことなんで」

 ってバカじゃん!私!

「先に入ってるぞ」

「……私もいきます」

 あ~、先生にどんな顔すればいいのよ!

 下を向きながら歩いていると何かぶつかる。

「あー!す、すみません!先生!」

「先生じゃないですわ」

「はぁ?」

 それは見上げるような背の高い女の人だった。背が高いなって思う桃香ちゃんよりも高く190センチくらいあるんじゃないの。ウェーブのかかった黒い髪に大きな釣り目。整った顔立ち。大人っぽい風貌のせいでセーラー服姿が少し似合わない。それよりも目を引くのがはちきれそう大きな胸、じゃなくて。

「ご、ごめんなさい」

「別にいいんですの。私も考え事をしているときは良く頭をぶつけますもの。得に好きな殿方のことを考えているときは」

「べ、別に、わ、私は好きな人なんか!」

 ポンと肩を叩かれる。

「でも、先生を好きになるのはちょっとどうかなって思いますわよ」

「べ、別に好きじゃ……ないわけでもないのかな……」

「どっちですのよ」

 野球選手としては好きだけど異性としては……ない!

「有紗?」

「今行きます」

「グローブ探してますの?あの人は野球でも始めますの?」

「え?」

 なんでこの人は先生がグローブを探しに来たってわかったの?

「野球を始めるというか、再開するって言うほうが正しいですね」

「ふ~ん。あなたも野球をしますの?」

「え……と。は、はい!そうなんです!」

 少し返事するのにのど奥で何かが引っかかって遅れた。長年野球をすることを周りに公言することを嫌ってきたことで体に染み付いてしまっている。もっと、堂々と野球をすることを言っていこう。野球は女の子がやってもいいスポーツなんだから。

「その制服は星美高校ですね。これはいいことを聞きましたの」

「え?」

「私は四之宮詩織といいますの。あなたは?」

「あ、綾元有紗です」

「そう、綾元さん。以後お見知りおきを」

 とスカートの裾を少しだけあげて上品な貴族みたいにお辞儀をして去って言った。

 なんで私の名前を聞いてきたんだろう。それになんで自分の名前を教えてきたんだろう。あのセーラー服はどこの学校はわからない。見たことない制服だったし。でも、あの短い会話でわかったことがある。

「どうしたんだ?」

 いつまでたってもお店に入ってこない私を心配して先生が表に出てきた。

「どうしたんだ?にやけた顔して」

「そんな顔してませんよ!グローブ選び私も手伝います!」

 店に小走りで入る。

 にやけているって言われて否定はしたけど、自分でもわかっている。うれしいことが起こったんだ。

 あの四之宮さんって人は野球をしている。それだけでうれしかった。

 でも、四之宮さんとの出会いはこれだけじゃ終わらない。この出会いが私の野球人生を大きく前進させるきっかけとなる。

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