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ダイヤモンドの女神  作者: 駿河ギン
2章 少女は野球を始める
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神様に嫌われたふたり

「有紗。気付いてるか?」

「え?何にですか?」

 下校時刻になり恵美ちゃんの指示によって迅速に片付けをやって今日は解散となった。今日の練習は決起大会みたいな感じだ。先生は私たちが片付けをしている間に星美高校女子野球部のコーチとして学校に認めてもらうために必要なことをやりに一旦グラウンドを後にした。片付けの後、凜子ちゃんたちと別れて私はひとり先生が乗ってきた原付の前で先生を待つ。30分もすると先生はヘルメットを持って現れた。

 ちゃんとお礼をしたかったからだ。先生も気恥ずかしそうに目を逸らしながら好きでやっているからいいんだって照れるかわいい一面もあるんだなって思った。そんなときに話を変えるためにいってきたことがこれだ。

「有紗を合わせても女子野球部は8人しか人がいなかったぞ」

 私に、凜子ちゃん、雪音さん、神野ツインズ、恵美ちゃん、桃香ちゃん、なっちゃん。

「確かに!」

「気付いてなかったんかい」

 野球ができると感動が大き過ぎて気付いていませんでした。すみません。

「でも、凜子ちゃんには9人になるように人を集めて欲しいって頼んでいました」

「凜子のことだから何人集めればいいのか忘れてたっていうオチはないだろうな?」

「それはないです。部として認めてもらうには野球ができる人数が必要だったので、認めてもらえている以上9人いるはずです」

 その私と凜子ちゃんを抜いて7人が誰なのか今日始めて知ったことは内緒にしておこう。

「じゃあ、なんでひとり足らなかったんだ?凜子が呼ぶのを忘れたのか?」

「可能性としては……ゼロじゃないです」

 だって、凜子ちゃんだもん。

「明日の練習には参加してもらうように声を掛けてみます」

 凜子ちゃんに。

「そうか。まぁ、9人いるなら安心だ」

 とヘルメットをかぶって原付のエンジンをかける。

「あ、そうだ。有紗」

「はい」

「この辺にスポーツ用品店扱ってる店はないか?」

「近くにありますけど、なんでですか?」

 先生は原付にまたがって少し悩みながらも教えてくれた。

「野球の監督をするからには自分のグローブくらい持ってないとな」

「え?グローブ無いんですか?」

 次の瞬間、私は自分の言ったことに後悔する。

「野球を辞めるって決めたときに燃やして捨てた」

「……え?」

 燃やしたって。

「バカだろ。野球の未練断ち切るために全部燃やしたんだよ。グローブもバットも今まで貰った賞状も集めた雑誌も全部」

 笑って誤魔化しているけど、私には見えた。燃えて灰になっていく思い出たちを見て号泣する先生の姿。汚い土に顔を伏せながら大声で泣き叫ぶ姿。

「あの、その、嫌なことを思い出させてしまって……ごめんなさい」

「今更言うのかよ。1日くらい謝るのが遅いぞ」

 そういわれてしまうとなんとも言えない。

「それだけの決断をして俺は野球を辞めたんだ。それが有紗の涙と凜子の強引さで今こうして再び野球をやろうとしている。俺はつくづく野球の神様が嫌いだ」

 私の頭をなでながら言う。

「なんでですか?」

「俺から野球する快感を教えておきながら奪い去って、辞める決断をしても俺に野球をやれとお前たちを引き合わせた。俺はもうマウンドに立つ快感を味わうことはできないのに野球をやれというんだ。残酷で意地悪だ」

 その気持ちはわかるな。

「私も嫌いです」

「なんでだ?」

「野球の楽しさを知ったばかりの私から野球を奪い去ろうとしたんですよ。女の子だからって言う嘘の理由をぶつけて」

 先生は悲しそうに笑う。

「俺たちは野球の神様に散々な目に合わされてるな」

「本当ですね」

 私も笑う。泣きそうになる自分を隠すために。

「あの、グローブ買うならお勧めのお店がありますよ」

「そうなのか?」

「ちょっと、入り組んだところにあるんですよね。説明が難しいです」

 先生は一度乗った原付から降りてシートを開けてもうひとつヘルメットを取り出して私に投げ渡す。

「案内してくれ」

「え?」

「もしかして自転車で通ってる感じか?」

「いえ、バスと電車で通ってます」

「なら、問題ないな」

 先生は再び原付にまたがって自分の後ろに座るようにシートをぽんぽんと叩く。

 私は原付の二人乗りなんてしたこと無いけど、同じように野球の神様に嫌われた先生のために何かしてあげたいと思った。だから、ヘルメットをかぶって先生の後ろにまたがる。

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