エピローグ
日の入りはもう随分と早くなっていて、辺りにはすっかり夜の帳が下りています。
だけど、見下ろす先には明るい光が。
その光は、オージュ村の中央広場を中心に広がっています。
それは、本格的な冬を前にして、今年一年の恵みや実りを星霊樹に感謝するお祭りの光でした。
その光の中には、いつものように村の人達が、そして、いつもと違って妖精達の姿も見られます。
――村にあれだけの数の妖精がいるのを見るのは、初めてだな……。
――きっと、多くの村の人の目には、たくさんの光が飛び交っている光景が見えるのでしょうね。
――そういった人達には、この森が星の森と呼ばれる由来が、きっと目に見える実感として分かるのだろうね。
――ええ、森の中にはまだまだたくさんの妖精達がいるもの。
村の中を照らす光の中で、たくさんの花や飾り付けが美しく街の姿を彩っています。
楽しげな音楽が演奏されて、人も妖精も、みんな思い思いに歌ったり、踊ったり。
美味しい食べ物や、美味しい飲み物も振る舞われ、みんなみんな、心の底から楽しんでいるのが分かります。
――これが、君の夢見た光景なんだね。
――ええ、あなたが一緒に成し遂げたいと言ってくれた、夢のような光景。
――だけど、僕は結局、何も出来なかった。
――いいえ。あなたが私を愛してくれたから、夢は叶ったの。
――そうか、僕と君の愛の結晶が、叶えてくれたんだものね。
たくさんの人や妖精が、入れ替わり立ち替わりに集まるその中心には、メリルの姿がありました。
親しい人達に囲まれて、照れたり、笑ったり、冗談めかして膨れたり。
それは確かに、夢のように幸せな光景に見えました。
――あの子ったら、本当に幸せそう。
――うん。笑顔にしてるのが僕たちじゃないのは、ちょっと悔しいような気もするけど。
――ああやって笑っていてくれるのだもの。それだけで私は幸せだわ。
――そうだね。これなら本当に、心置きなく行けそうだ。
――ねえ、生まれ変わっても、またあなたに逢えるかしら?
――ああ、そうだと、いいな……。
――もしかしたら、あの子の子供に生まれ変わったりして。
――それは……、いやしかし……、結婚……、ぐぬぬ……。
――もう、あなたったら。あの子の幸せを願うんじゃなかったの?
――古今東西、父親っていうのは、娘の結婚について複雑な思いを抱くものなんだよ……。
――あなたと私のお父さんとは、すぐ仲良くなってた気がするけど?
――それは……お義父さんが人格者だったからさ。……でもまあ、あの子なら変な男に引っかかったりはしないだろうけど。
――そうね。きっと、幸せな家庭を作ってくれるに違いないわ。
――それを見届けられないと思うと、やっぱりちょっとだけ心残りだけど。
――きっと、私達に残されている時間はもう、少しだけね。
――寂しいけれど、仕方ない。だけど、さよなら、って言うのは嫌だな。
――そうね、私も。……だから、またね、あなた。
――ああ。またいつか、必ず。……後は……。
――ええ。
――――いつかまたね、メリル――――。
次の瞬間、少し強い風が吹いて、星霊樹の梢を揺らしました。
そしてそれからはもう、二人の声が聞こえることはありませんでした。
突然頬を撫でた風の中に、メリルはそれを聞き止めて、咄嗟に後ろを振り返ります。
視線の先には、月の明かりに照らされて、ぼんやりと浮かび上がる星霊樹の姿がありました。
「どうしたの? メリル」
「うん? えっと、声が聞こえた気がして……」
「声?」
「そう、優しい、声が……」
その星霊樹の梢は、風を受けてゆっくりと揺れています。
その姿は、まるで星霊樹がこちらに手を振ってくれているように、メリルには思えました。
だからメリルは、不思議と溢れてくる気持ちを込めて、精一杯、星霊樹に手を振り返したのでした。
―――― おしまい ――――
以上で、本作は完結となります。
この作品が、あなたの費やしてくれた時間に対して、少しでも返すものがあったのであれば良いな、とは思っているのですが、いかがだったでしょうか。
あなたに何かを与えたにせよ、与えなかったにせよ、また、与えたとして、それがポジティヴなものであれ、ネガティヴなものであれ、その率直な感想をいただけたら、とても嬉しく思います。
或いは、感想とは言わずとも、評価だけでも残していただければ、それだけでも有り難く思います。
ともあれ、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。




