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 一、新しい友達

「おはようございまーす!」

 そんな元気なメリルの声が響くのは、星の森の北側、メリル達の住む村、オージュ村にある、品揃えが自慢の生活用品店、風見屋(かざみや)

 親のいないメリルは、村の人達のお手伝いをして、その対価に物やお金をもらいながら生活しています。

 今日は、この風見屋でのお手伝いの日です。

「ふわ……、おはよーぅ」

 メリルの挨拶に、欠伸混じりにのんびりと答えたのは、風見屋の自称看板娘で、メリルと幼馴染みのフランです。

 今年十三歳になるメリルより一つだけ年上のフランは好奇心旺盛で、昔はよくメリルを連れ回して村や森を冒険しては、一緒に怒られていました。

 今は流石に幼い頃のような無茶はしないけれど、こっそりと村の外の世界に憧れているようです。

「やあ、メリルちゃん。今日も元気だねぇ」

「今日もよろしくお願いね、メリル」

 そう声を掛けてくれたのは、フランの父親であるゲイルと、母親であるカリナです。

 二人とも、いつもメリルのことも家族のように気に掛けてくれていて、メリルはとても感謝しています。

「じゃ、メリルはそっちの箱を持ってね」

「……? これは?」

「新しく引っ越してきた家族が、昨日、必要な物をあれこれとたくさん買ってくれてね。全部を一度に運ぶのは大変だから、すぐ必要じゃない物は私たちが今日運びますよ、ってことになったの」

「もしかして、この前私の家の近くに引っ越してきた人達かな?」

「うん、確かそうだったよ。もう挨拶はした?」

「ううん、まだ」

「なら、ちょうど良いね。さあ、メリル、今日も張り切っていこう!」

「おー! ……うんしょ、っと」

「じゃあ、お父さん、お母さん、行ってくるねー」

「ああ、頼んだぞ。フランもメリルちゃんも気をつけてなー」

 そうして二人は、大きな箱を抱えて、てくてくと歩いてゆくのでした。


 村の中央広場からほぼ十字に伸びるメインストリートを南の方へ進み、途中で脇へ伸びる小道をずっと進むと、森の入り口のすぐ手前にメリルの住む家があります。

 その更に手前、小道に沿うように流れる小川を渡って少し進んだ先にある、最近綺麗に直されたばかりの家が、メリル達の目的地でした。

「おはようございまーす! 風見屋でーす!」

「はーい。……あら、おはようございます、可愛い店員さんたち」

 フランの元気な呼び声を聞いて玄関に現れたのは、優しげな雰囲気の女性でした。そして、その後ろに隠れるように、メリル達と同じ年頃の女の子の姿も見えます。

「……そうだわ。ねぇ、二人とも、急いでるかしら? もしそうでないなら、ちょうどお菓子を焼いていたところなの。味見をして感想を聞かせてくれないかしら?」

「任せて下さい!!」

 その女性のお誘いに、メリルとフランの元気な返事は、綺麗に合わさったのでした。


「私はネリィといいます。よろしくね」

「私はフランです。風見屋の娘です。今後もごひいきに、よろしくお願いします」

「私はメリルです! あっちこっちでお手伝いしてます! この先の森の所に住んでるので、お仕事以外でもよろしくお願いします!」

「うふふ。二人ともしっかりしてるのね。……さあ、サラ。あなたも」

「サラです。えっと、よろしくお願いします」

「じゃあ、私はお菓子を完成させて持ってくるから、仲良く待っててね。……そうだ、サラ。メルのことも紹介してあげてね」

「うん。分かった」

 そうやって自己紹介を終えて、ネリィは厨房へ向かいました。

「それじゃ、フラン、メリル、私についてきてね」

 そしてメリルとフランは、そう言ったサラの後について行くのでした。


「メルー? あれ? またお花かな……」

 その部屋の中を覗いたサラはそう言って、また先へ歩いて行きます。

 そして次に三人が踏み入れたのは、裏庭の様子が一望できる、サンルームでした。

 その部屋の端には、プランタに如雨露で水をあげている女の子の姿がありました。

「あ、メル。やっぱりここね」

「お姉ちゃ……、あ。……あの、こんにちは……」

「うん! こんにちわ!」

 姉の声に振り返ったその女の子は、見慣れぬ人影に少し戸惑いながら、挨拶をします。

 そして、すかさず元気に返事をしてくれたメリルには、少し驚きつつも嬉しそうな様子を見せます。

「もう、メル、ちゃんと自己紹介して!」

「……はーい。えっと、私の名前は、メルです。よろしくお願いします」

「こんにちわ。私はフランっていいます。よろしくね」

「私はメリルです! ちょっと名前が似てるね。仲良くしてね!」

「……うん! よろしく!」

 妹の前ではお姉ちゃん風を吹かすサラに、メルはちょっとだけ不満そうな顔を見せましたが、素直に自己紹介をします。

 そんな姉妹の姿に、そして、新しい友達との出会いに、メリルもフランも楽しそうにしていたのでした。


 メリルとフランは、サンルームで、ネリィの作ってくれた美味しいクッキーを食べながら、サラやメルとおしゃべりに花を咲かせていました。

 今は、彼女たち一家が引っ越してきた理由を聞いていたところです。

「……メルちゃんは、身体が弱いの?」

「うん、病気になりやすくって。でもこの島の環境は健康に良いって、お父さんが聞いて」

「それで引っ越してきたんだ」

「……うん」

「そっかぁ……、早く元気になって、一緒にたくさん遊べるようになると良いね!」

「……うん!」

 ちょっと寂しそうな顔を見せたメルでしたが、メリルから明るく声を掛けられると、つられたように笑顔を見せてくれました。

 でも次の瞬間、何かをじっと見つめるように、その目がメリルの頭の上に向けられました。

「……?」

「ん? メルちゃん、どうかした?」

「……うん、なんか、さっきから、ポワって、小さい光がメリルさんの周りを動いてるの……」

「光? 私の周りって……もしかして、メルちゃんはアミィが見えるの!?」

「……アミィ?」

「メリルと仲良しの妖精なんだって。私は見えないんだけど……」

「妖精さん!?」

 メリルの代わりに答えたフランの言葉に、メルはその顔を輝かせます。

「でも、小さい光かぁ……。ちゃんとは見えてないってことだね……。ねえ、アミィ、そういうのって良くあるの?」

『えーっと、たまに、人間と目が合った、って言う子はいるから、そう見えてる人間もいるのかも』

「メリルさんは妖精さんとおしゃべりも出来るの!?」

「え? う、うん、出来るよ」

「良いなぁ、凄いなぁ……。そっかぁ、あの光は妖精さんだったんだぁ……」

「あれ? 前にも見たことがあるの?」

「うん! お庭のお花の周りを飛んでたの!」

「へぇ……。今はいないみたいだけど……、花の妖精なのかな?」

『うん、きっと草や花、土とかに関係の強い妖精だとは思う。ここも森に近いから、遊びに来る子もいるだろうし』

「そっかぁ……。知らない子なら、会ってみたいなぁ……」

 そうやって妖精となんてことないように話をするメリルを見て、メルはまるで我慢できなくなったように、メリルに話しかけます。

「あの! メリルさん! 私も妖精さんとお話しできるようになれますか!?」

「うーん、私はずっと見えてたから分からないけど……。昔は人間と妖精は仲良くしてたらしいし、きっと不可能じゃないって、私は信じてるよ」

「そぉかぁ……。うん、私も信じるの! ……ゴホッ、ゴホッ!」

「ああ、メル! ちょっとはしゃぎすぎよ! ……もう、大丈夫?」

「……うん、ごめん、お姉ちゃん」

 メルが咳き込んだ途端、サラが飛ぶような勢いで椅子から離れ、メルに駆け寄りました。

 そんな様子に、メリルもフランも、メルのことがちょっと心配だけれど、それ以上に、サラがメルのことをとても大切に思っているのが感じられて、温かい気持ちになります。

「……それじゃあ、今日はそろそろ帰ろうか? メリル?」

「そうだね」

「……ごめんなさい」

「謝らないで、メルちゃん。私は、今日は二人と友達になれて嬉しかったから。ね、メリル?」

「そうだよ、メルちゃん。だから、ごめんって言われたらちょっと寂しいよ」

「……うん、ありがとう、二人とも」

「うん。……サラ、また遊びに来てもいい?」

「もちろん。歓迎するよ」

「メルちゃんも、いい?」

「うん!」

 きっと、病弱なことを引け目に感じているせいでしょう、メルは、帰ると言ったメリルとフランに申し訳なさそうに謝っていましたが、その二人からの言葉に、最後は素敵な笑顔で応えてくれたのでした。


「じゃーねー! またねー!」

 そう言って元気に手を振るメリルに、見送りに出てきてくれたネリィ達三人も手を振り返してくれました。

 そして、メリルとフランは帰路につきます。

「ねえ、メリル、私にもいつかは妖精が見えるようになるのかなぁ?」

「うーん、メルちゃんに言ったとおり、信じていれば見えるんじゃないかって本気で思ってるけど。でも、というか、だからこそ、そんな風に疑問形になってるうちはダメなんじゃないかなぁ……」

「あ……、そうか……。私、メリルの言うことを信じてるつもりだったけど……。そうだよね……、ああ、そうかぁ……」

 フランはそう言って、少し落ち込んだ様子を見せました。

「えっと、大丈夫? フラン」

「……うん、大丈夫。……ねえ、メリル。私も本気で妖精のこと、信じてみることにする」

「うん、それは嬉しいな。もしフランもアミィや他の妖精達とお話しできたら、きっと楽しいもん。ね、アミィ?」

『そうね……。私たち以外にも、妖精と人間が一緒に……。うん、そんな時が来たら、きっと楽しいね!』

「アミィは何て言ってるの?」

「私たち以外にも、妖精と人間が一緒に過ごせたら、きっと楽しいね、って」

「そっか、うん、私も頑張るよ。……信じるって、頑張ってするようなことじゃないのかもだけど」

 そう言って、フランはメリルと笑い合うのでした。


 だけど――、そんな二人の楽しい時間は、長くは続きませんでした。


 風見屋に帰り着くと、そこで二人を待っていたのは、にこやかな顔をしながらも、その背中に鬼のオーラを(まと)ったカリナの姿。

 二人は、連絡も無しに他の仕事をほっぽらかして帰りが遅くなったことを、カリナからこってりと叱られたのでした。


カギ括弧の使い分けは、その場にその声が聞こえない人物などがいる場合は『』(二重カギ括弧)、そうで無い場合は「」(普通のカギ括弧)としています。

そのルールに合っていない場合は誤字ですので、見つけた場合はご指摘いただけるとありがたく思います。

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