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星の森辺の妖精譚 ~廻る絆の物語~  作者: みたよーき


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13/20

十二、創り出したいものは

 火山の(ふもと)に出たメリル達の前方には緩やかな傾斜が続き、しばらく先から草木が見え始めます。

 そこから徐々に右手に視線をやると、平地の方でも少し離れたところから森になっていて、今居る辺りは人の手によって整備されている場所なのだと思われました。

 今度は斜面を左に見ていくと、地面が途切れている部分が見えます。少し移動してその下を見ると、山の斜面を切り取ったようなその先に、立派な扉が口を開いているのが見えました。

 メリル達はその聖地の入り口と思われる扉へ向かおうとしましたが、その時、後ろから突然、声が掛けられました。

「お前達、一体何処から来た?!」

 その声に振り返ったメリル達は、向き直った視線の向こう、おおよそ二百メートルほど先に村の入り口と思しき場所を認め、そして、そちらから歩いてくる、先ほどの声の主であろう体格の良い老人を目に留めました。

「こんにちは。私達はオージュ村から来ました」

 メリルは老人が近付くのを待ってから、そう答えましたが。

「オージュ……いや、そうじゃ無い。村を通らなかっただろう? まさか森を通ってきたのか? オージュ村からそんな軽装で……? ん? それは……。なるほど、ちゃんと目的を持ってこの地へ来たということか」

 メリルの答えは老人の求める答えとは違ったようで、老人は多少困惑したような表情を見せましたが、アイールの背負う槌に目を留めると、その表情は一変し、どこか愉快そうでもありながら、とても真剣なものになりました。

「お前は火の試練を受けに来た者か?」

 そしてその表情でアイールをしっかりと見据え、厳粛(げんしゅく)な様子でそう問いかけます。

「はい、そうです」

 アイールも目を逸らさず、ハッキリとそう答えると、その老人の表情はふっと和らぎました。

「オージュというと、お前はカズールの孫だろう? 面影がある。懐かしいな……あいつは元気か?」

「はい、とても。……じいちゃん……祖父をご存じなんですか?」

「ああ、共に試練を受けた仲だ。しかし、あいつの孫が俺が当番の時に訪れてくれるとは、火の妖精の導きに感謝だな……」

 先ほどとは違って穏やかな声でそう呟く老人は、とても嬉しそうな表情でした。そんな老人に、今度はアイールが問いかけます。

「もしかして、ゴッツさん? それともペーターさんですか?」

「俺はゴッツだ。ペーターの奴も憎らしいほど元気だよ。カズールに言付かったのか?」

「はい、もし会うことがあったら、元気でやっていると伝えてくれ、と」

「そうか、それは何よりだ。俺もこの通り当分くたばることもなさそうだから、そう伝えてやってくれ。そうだ、帰る前にペーターの奴にも会ってやってくれ。あいつも喜ぶ」

「はい、分かりました」

 そんな風に、和やかに会話が行われていましたが、そこでゴッツはそれまで蚊帳(かや)の外だったメリルに目を向けます。

「ところでそちらのお嬢さんは? まさかお前さんの……イイ人か?」

「いいえ。彼女は……その、妖精と話すことが出来るんです。それで、力を貸してもらってます」

 アイールは、ゴッツのからかうような口調に、苦笑いこそ浮かべましたがさほど動じることもなく答えたので、ゴッツは少しつまらなそうな顔をしましたが、アイールの言った内容に、少し眉をひそめます。

「妖精、ねぇ……。む。確かに加護がある……?」

 しかし、すぐにメリルの側にヨナドである光を見つけ、今度は驚いた表情を見せました。

「あ、えっと、この光は妖精の加護じゃなくて、妖精そのものなんです」

「妖精そのもの……。ふぅむ。嘘を言っているようには見えんな……。良かったら詳しく聞かせてくれるか?」

 メリルの言葉にゴッツは興味を持ったようで、そう頼むのでした。


「それではゴッツ、孫を頼む」

 そう言ったのは、アイールの祖父である、カズールです。

 メリルがヨナドに力を使ってもらっても尚、半信半疑だったゴッツに、ちょっぴり? 業を煮やしたメリルは、

「アイールはお祖父さんを連れてきて! ゴッツさんはペーターって人を連れてきて!」

 と“お願い”して、その剣幕にアイールもゴッツもいそいそと言われた通りにしたのでした。

 そうして思わぬ形で再会を果たした鍛冶職人三人は、しばし旧交を温めました。

 因みに、三人はその体験から今まで側に居た妖精をその目で見ることが出来るようになって、しかし驚いたのも束の間、妖精との意思疎通が鍛冶に活きるのではないかと職人らしい顔つきに変わり、やる気を燃え上がらせています。

 ――と、そんなことがあって、今に至るのでした。

「ああ、任せろ」

 ゴッツはカズールの言葉にお互いの拳を付き合わせつつそう答え、久方ぶりの友誼(ゆうぎ)の時はひとまず幕を下ろしたのでした。


「お嬢ちゃんが聖地に入るのは構わないが、試練が始まれば外に出てもらう。それは良いな? ……なら俺は準備に村に戻るが、少し時間が掛かるから慌てずに見て回れば良い。まあ、一本道が鍛冶場に続いているだけだがな」

 そう言って村へ戻るゴッツを見送り、メリル達は聖地へ足を踏み入れました。

 扉の先は、高さ、幅共に五メートルほどの洞窟になっていて、地面には石畳が敷かれた道が、前方へ緩く湾曲しながら続いています。

 進むにつれて徐々に暑さが増していくのが感じられるのですが、不思議と気力が奪われるような辛さは感じません。

「もしかして、あなた達が何かしてくれてるの?」

 おそらくアミィを見つけて興味を持った妖精でしょう、メリル達の方に近付いてきた火の妖精にメリルがそう問いかけると、その妖精は空中でびくりと動きを止め、無言のままメリルを見つめます。

「急に話しかけてごめんなさい。私はメリル。こっちの妖精がアミィで、彼がこれから試練を受けるアイール。よろしくね」

 メリルが笑顔でそう自己紹介すると、その妖精は恐る恐るといった様子で口を開きます。

『……ア、アタイはティネ』

「ティネ、だね、改めてよろしく」

『……は、話が通じてる……』

『それは通じるよ。メリルってそういう人間なんだもの』

『あんたは、アミィ、だったね、この子と仲が良いんだ?』

『もちろん。親友だよ! ねっ?』

「ねっ!」

『へぇ、あんた達、面白いね!』

 ねっ、と言って笑い合うアミィとメリルを見て、ティネはわくわくしたような表情を見せます。

 そしてちらりとアイールを見てから、道の先へ飛んで行ってしまったのでした。

「あれ? 行っちゃった……」

『仲間や精霊様に知らせに行ったのかも』

 急に先へ向かってしまったティネの後を追うようにして道を進んでいくと、更に開けた場所に出ました。

 その広い空間の、入り口から見て左右側面下方には溶岩と思われる赤熱した流れが見え、それに囲まれて、地面が円状に道の先に広がっています。

 広場の左右には間隔を開けていくつもの炉や金床(かなとこ)が設置されていて、正面には大きな岩が壁に寄りかかるように鎮座(ちんざ)しており、ここで行き止まりになっているようでした。

 辺りを見回してそんな様子を確認していたメリル達が、広場の中央辺りまで歩を進めた、その時。

 ゴゴゴゴゴッ! と音を立て、正面の岩が横にスライドを始めました。

 メリル達が慌ててそちらへ注目すると、岩の影になっていた場所には穴が開いており、その向こうから、燃えるような髪をした、屈強な体つきの人物が出てくるのが見えました。

 その人物はゆっくりとメリル達の前まで歩いてくると、仁王立ちで腕を組み、

「お前達がティネの言う面白い人間か?」

 と、(いか)つい見た目から想像していたよりもずっと穏やかにそう尋ねます。

「はい、多分。……えっと、もしかして、火の精霊様でしょうか?」

「いかにも」

 火の精霊はそう言って、鷹揚(おうよう)に頷いて見せたのでした。


「お前達の住む村は星霊樹に最も近い分、最も早く、最も強く、影響を受ける。火力が安定しないというのも、火の妖精や風の妖精が、また力を失いつつある星霊樹の影響を受けているせいだろう。しかし……十年と少し。早すぎるな……」

 それがアイールの話を聞いた火の精霊の見解でした。

「精霊様? また、というのは? それに、十年ちょっと前、って……?」

 そのメリルの質問に、火の精霊は苦い顔をして見せました。

「……わざわざ尋ねたということは、うっすらとは気付いているのだろう? 若き守人よ」

「……やっぱり、母さんが関係してるんですね……」

「より正確にはもう少しで十二年になるか、その十二年前に星霊樹はその力を失うかも知れない危機にあった。星霊樹の守人がその心の力を、そして魂の力を、星霊樹の力に変えることでその危機を脱した。我々精霊は、星霊樹を絶やさぬ為に存在するが、今ある星霊樹を護る力は無いのだ……。……メリル、確かに今また星霊樹は力を失いつつある。しかし、お前達の住む村の方から妖精の力が増す兆しが生まれているのもまた確かだ。それはきっと、お前の力によるものなのだろう? それは、今はまだ小さいが、確かにそこにある、希望だ。だから、最後まで諦めるな。現状お前が最後の守人である以上、その命を散らしてしまえば、破滅は決して逃れ得ぬものになってしまうだろうからな」

「……はい。……はい!」

 火の精霊の言葉は、メリルにとってはとても残酷なものだと、アミィは思いました。

 それでもその運命に立ち向かおうとするメリルの強い眼差しに、アミィは胸騒ぎを覚えながらも、何も言葉を掛けることが出来ないのでした。


「アイール。お前の覚悟を問う。お前はなにゆえ鍛冶の道を志すか?」

 その火の精霊の問いかけに、アイールはもちろん、それ以上に神妙な表情を見せていたのは、準備を終えてやってきたゴッツです。

 鍛冶士として一人前と認められる為の、火の試練。それを始める為の儀式がこの問いかけですが、人と妖精の交流が絶えて以来、それを行うのは見習いを助け、見極める、相槌を務める鍛冶士の仕事でした。

 しかし今、伝承でしか知られていない火の精霊による問いかけが復活したのです。ゴッツはその場に立ち会えた感動に打ち震えているのでした。

 そんなことは露も知らず、アイールは火の精霊の問いかけに答えます。

「俺は幼い頃から父や祖父から鍛冶の技術を教え込まれ、それは俺にとって遊び、()しくは、ただの家族とのコミュニケーションでした。そして、そのまま疑問も持たず、ただ教えられるままに技術を習得し、先祖から続く道を自分もただなぞっていくのだと、漠然と思っていました。……だけど。父の作った器具を使ったお客さんが、感謝したり、喜んだりしていて。そして、そのお客さんの笑顔が、俺の意識を変えました。俺は自分に出来ることで、幼い頃から学んだ技術で、そんな笑顔をこそ、創り出したいと思ったんです。……だから俺は、鍛冶の道を志します。家柄とは関係なく、自分自身の意思で!」

 瞑目(めいもく)してその決意を聞き届けた火の精霊は、ゆっくりと目を開き、そして告げます。

「ならばその覚悟を、己の持てる力全てを以て、我が眼前に示せ!」

「はい!」

 そのアイールの返事は、とても力強く広場に響きました。

「……さあ、お嬢ちゃんはここまでだ。……そうだな、明日の夕方頃に入り口で待っててくれれば、そう長くは待たせずに済むだろう」

 そうゴッツに促されてメリルとアミィは外へ向かい、そして、アイールの試練が始まりました。


 翌日。

 空の端が色を深め始めた頃、ようやくその入り口が開き、目の下に隈を作りながらも充実した表情のアイールが姿を見せました。そしてその傍らには――。

「ティネ?」

 昨日メリル達が最初に出会った火の妖精、ティネが居たのでした。

「ティネがアイールの加護になってくれたの?」

「ああ、この子が俺に力を貸してくれた。おかげで今の俺に出来る最高のものが作れたと思う」

「そんなわけで、アタイもあんた達の村へ行くことになったから。よろしくね!」

「こちらこそよろしく!」

『よろしくね!』

 どこか楽しそうなティネの言葉に、メリルもアミィも、笑顔でティネを歓迎しました。

 そんな会話をしていると、遅れてゴッツが聖地から出てきて、アイールに話しかけます。

「アイール。お前のおかげで貴重な経験をさせてもらった。ありがとう」

「こちらこそ、ゴッツさんと打てて、俺も勉強させてもらいましたし、何より、凄く楽しかったです」

 そうして二人は握手を交わします。その握手はとても力強く、それだけで二人の間では言葉以上の熱い想いが伝わりあっているのだろうと、メリルには思えたのでした。


 因みにその後、アイールの父親、ラムールはというと――。

「いやぁー。このリカードさんとこの新しい酒の試作品! これが、ほんと美味くてなぁ! ……仕事? まあ、多少は落ち込んだが、この酒の美味さにそんなもんすぐ吹っ飛んだぜ! 今は急ぐ依頼も無いし、心置きなくこの酒を味わえるってぇわけだ! ははははは!!」

「…………リカードさん、ラムールさんは(しばら)く禁酒ね」

「暫くと言わず、ずっとでもいいよ……。このバカ親父は……っ!」

「この酒の生みの親とも言えるメリルちゃんがそう言うなら断れないな。と言うわけだ、ラムールさん、あんた息子さんに心配掛けたんだから、暫く酒は断って、父親として立派な姿を見せてやりな」

 そして、

「そんなぁ~~!!」

 という、とっても情けない声がオージュ村の中央広場に響き渡ったのでした。


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