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星の森辺の妖精譚 ~廻る絆の物語~  作者: みたよーき


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10/20

 九、私も聖地に連れてって

「メーリールぅーー!! 一体全体どういうことなのよ!!」

 晴れ間が覗く時間も増え始め、雨期の終わりと本格的な夏の始まりを予感させ始めた頃、そんな声と共にメリルの家に怒鳴り込んできた人影がありました。

「えっと、フラン? いきなりそんなこと言われても困るって……。まずは落ちついて……」

 その正体は、何故かとても不服そうな顔をしたフランです。

 メリルは思い当たる節がないので、ちょっと困惑してしまいます。

「ハァ、ハァ、……ハァーっ。……ちょっとメリル? 私に言うことがあるんじゃない?」

 そんな風に問い詰められて、ますます困惑するメリルでしたが、ふと、別に思い付いたことがあり、言い返してみます。

「フランこそ、私に言うことがあるんじゃないの?」

「……? 私が? メリルに? ……んー? なんかあるっけ?」

 フランもメリルの言葉は不意打ちだったのか、いつも通りの調子に戻り、本当に心当たりがない様子でしたが。

「私この前、フランがヨゼフととーっても仲よさそうに話してるのを見たんですけど?」

「ニャッ!? ぶぇ、別にっ! 最近話す機会が増えたから友達になっただけでっ?! それ以上の意味とか無いんですけどっ?!」

 メリルの指摘に、フランは目に見えて狼狽(うろた)え始めます。

「……なんかごめん。そんなに取り乱すとは思わなくて……」

 思った以上に慌てふためくフランの姿に、メリルは微笑ましく思うよりも先に、なんとなく申し訳ないような気持ちになって、謝りますが。

「ちょっ! そんなリアクションされたら、それはそれでなんかヤダ!」

「もう、フランは我が儘だなぁ……」

「なんでよ! って、そうじゃないでしょ?! ……もう。とにかく落ち着きましょ?」

「いや、私は別に慌ててないし」

「揚げ足取らなくていいの!」

 そんな、いつも通りよりもちょっと余計に賑やかな、今日の二人なのでした。


 それからようやく落ち着いたフランが、本題を切り出しました。

「最近、サラとゆっくり会えてなかったでしょ? だから、落ち着いて話せるように都合を合わせて会ったの。そしたら、最近は友達になった妖精と一緒に診療所で勉強しながら手伝いしてるっていうじゃない? で、詳しく話を聞いたら……、メリル? サラと一緒に水の聖地に行ったんだって?」

「うん、メルちゃんがいつもよりも元気にならないって相談されて、雨期に入る前くらいかな? 行ってきたよ」

 そんな、なんてことの無いように答えるメリルを見て、フランは、ハァ、とわざとらしく溜息を一つ吐きます。

「あのねぇ……。そりゃ、メルちゃんに少しでも早く元気になって欲しいって気持ちは分かるよ? でもさぁ、ねえ? ……私も誘ってくれても良かったんじゃないの?」

「ああ、そういうことね……。別にフランを(ないがし)ろにしたつもりはないんだけど……。あのときはメルちゃんのことで必死で、他のことを考える余裕がなかったんだよ」

「うん、まあ、それは、分かる気がする。だから、本気でメリルを責めるつもりはないし、過ぎたことをぐだぐだと言いたかったわけじゃなくてね、つまり……」

「……つまり?」

「つまり! 近いうちにでも私と一緒に別の聖地に行きましょ、ってこと!」

 そんな、フランらしいと思えるフランの姿に、メリルはなんだかちょっと安心して。

 安心したというその事実に、

(あれ……? もしかしたら私、ヨゼフと仲良くなったフランがちょっと遠くへ行っちゃったように、勝手に思ってたのかな……?)

 そんな風に自分のことを考えたりもするのでした。

 そして――。

「ふむ。水以外の聖地か。なら、おぬしら人間には、この時期なら風の聖地が良いのではないかの?」

 その後メリルに呼ばれたヨナドのそんな一言で、行き先はあっさりと風の聖地に決まったのでした。


 そして、冒険当日。

「えっと……、フラン、その姿は……?」

 メリルの家の前で待ち合わせた一同ですが、そこへ現れたフランの姿を見て、メリルは戸惑います。

 フランはまるで物語に出てくる冒険家がしているような格好に、大きめのリュックを背負い、更には肩に長くて重そうなロープまでぶら下げています。

「だって、ヨナドが、風の聖地はいくつもの谷を越えていく、って言ってたし、このくらいの準備は必要かな、って、思ったんだけど……」

 動きやすそうな格好ではあるけれど、いつもとさほど変わらないメリルの姿を見て、フランの言葉尻は(しぼ)んでいきます。

「水の聖地では、水の妖精さんの力を借りないと進むのは難しそうだったし、風の聖地も妖精さんの力を借りて進むだろうから、そこまでの準備は必要ないと思ったんだけど……」

 かなり気合いの入ったフランを前に、お気楽すぎたかも、と、メリルの方も言葉尻が萎みます。

「うーん、流石に重いから、少し減らそうか……」

 フランがそう呟くと。

「待って!」

 アミィが突然そんな声を上げました。

「……どうしたの、アミィ?」

「準備は、足りなくて困ることはあっても、有って困るってことはないと思う。……なんかね、上手く言えないけど、ちゃんとしないとダメだ、っていうような、嫌な予感がするの……」

「嫌な予感?」

「うん、変な、嫌な感じ。でも……、ううん、やっぱり上手く言えない……」

 アミィはとてももどかしそうに、でも切実にそう訴えます。

「ふむ。もしかしたら、アミィの力が芽生える予兆のようなものかも知れん。もしアミィの力が予知のようなものだとしたら、曖昧な予感だからといって無視するわけにはいかんぞ」

「そっか、そういうこともあるんだね……。分かった。フランが準備してくれた装備は全部持っていこう。私も少し持つよ」

 元よりメリルにアミィの言葉を蔑ろにするつもりはありませんでしたが、ヨナドの真剣な忠告もあり、そう決断をしたのでした。


「うわぁ……」

 前方には深そうな谷があり、その谷は左手側にも右手側にも長く終わりが見えないほどに続いています。

 正面にはその谷の手前と向こう岸の地面を繋ぐ、とても頑丈そうな立派な橋が見えます。

 橋の向こうの地面の先には更にいくつもの谷と地面が交互に続き、その先、更にずっと遠く正面には、塔のようにそそり立つ影がぼんやりと見えています。

 ヨナドの力で飛んだのは、そんな光景を見渡すことが出来る、小高い丘の上。

 見下ろす先に見える雄大な光景に、メリルもフランもアミィも、思わず溜息交じりの声を上げたのでした。

 向かう先の景色を確認した一行は早速丘を下り、橋へ向かいます。

 橋までは上から見たら大した距離ではないように感じていましたが、思いがけず時間が掛かってしまいました。

 そして、辿り着いた橋の思っていた以上の大きさに、またみんな揃って驚いたのでした。

「間近で見ると、遠くから見るよりもずっと立派に見えるね」

「でも、これなら安心して渡れそうだね」

 そこへ、ヨナドが語りかけます。

「……さて、この橋の架かっている谷からが、風の聖地になる。わっしはまたここで待つから、気をつけて行っておいで。何かあったら無理せずに戻ってくるんじゃぞ」

「はーい!」

 メリル達は元気な返事をヨナドに返し、新しい冒険に胸を躍らせながら橋を渡るのでした。


 橋を渡った先の地面には、人の手が入っていると思われる道が真っ直ぐに続いているのが見えました。

 道の脇の草もある程度刈り揃えられていて、水の聖地とは違い、長い年月放置されていたわけではない様子です。

 その道を少し行くと左に分かれる道があり、その先には石造りの(ほこら)と思われるものがあるのが見えました。

「ねえフラン、あれは花かな? お供え物みたいだね。やっぱりここに来る人がいるみたい」

「うん、でも、人が良く出入りする所だと、冒険と言うよりもただのピクニックだね……」

「だけど、きっと聖地の奥まではいけないから、入り口近くにこうやって祠を建てたんだよ」

「だったら、私たちはなんとしても聖地の奥まで辿り着いてみたいね」

 そして、祠への道を通り過ぎ、そのまま真っ直ぐ進もうとした時。

『お、こんな早く次の人間が来るなんて、珍しいな』

 祠の方からそんな声が聞こえたメリルは立ち止まり、それにすぐ気付いたフランがメリルに声を掛けます。

「ん? メリル、どうしたの? なんかいた?」

「うん、ここの妖精さんみたい。話を聞いてみよう」

「そうだね、任せるよ」

「アミィも良い? ……アミィ?」

 メリルから話しかけられたアミィは、どこかぼんやりとした表情で辺りの風景を見回しています。

「アミィ!」

「! ……あ、ごめん、メリル」

「どうしたの? やっぱり嫌な感じがする?」

「あ、それもあるけど……、なんかこの景色を見たことがあるような気がしたから、ボーッとしちゃってた」

「ここに来たことがあるの?」

「ううん、無いはず」

「じゃあ、それもヨナドが言ってたように、アミィの力に関係してるのかな?」

「予知ってやつ? うーん、そう言われても、あんまり実感無いんだけど……」

 メリルとアミィがそんな会話をしていたその時。

『お前、見ない顔だな。それに、その人間と話してるみたいだが……』

 先ほど祠から聞こえてきた声の主と思われる妖精が、アミィに話しかけてきました。

「えっ? あっ、うん、初めまして。その、メリルは妖精と話せるから……」

『本当か?』

「本当だよ。初めまして、私はメリル。あなたは?」

『おっ、本当か! すげえな、人間とちゃんと話したの初めてだ! 今まではいくらこっちから話しかけても反応無かったのに!』

 オージュ村で出会う妖精は殆どがメリルのことを知っていますし、水の聖地で会った妖精達もメリルのことをすんなり受け入れていたので、こんな風に喜ぶという新鮮な反応に、メリルもなんとなく嬉しくなってしまいます。

「……ねえメリル、この光、なんだか荒ぶってるんだけど……」

「うん、なんか、人間と話せたことを喜んでるみたい」

 喜びのあまりメリル達の周りを飛び回るその妖精が落ち着くまでには、まだしばらく時間が掛かるのでした。


『そういうことなら、オレに任せな!』

 フランとアミィも自己紹介を済ませた後、ここへは冒険をしに来たのだ、というメリル達の話を聞いて、その妖精はそう答えます。

『オレはガーズ。この聖地の妖精の中じゃ、一番力が強い。人間を飛ばして谷を越えさせるくらい、朝飯前さ』

 ガーズと名乗った妖精は、余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子でそう言い放ちます。

「ちょっと待って。谷を、飛んで、越えるの?」

 メリルは、アミィの言っていたこともあり、ちょっと不安になって聞きますが。

『大丈夫! 力の加減を間違えるようなヘマはしないさ』

 ガーズは変わらず自信満々です。

 そんな様子をメリルから伝え聞いたフランは。

「へぇ……、ならばその力の程、見せてもらおうじゃない」

 何故か不敵な笑みを浮かべており、メリルはこちらにも一抹の不安を覚えるのでした。


 祠への道を通り過ぎて少し進むと、先ほどまで綺麗だった道は、途端に手入れのされていない姿に変貌(へんぼう)を遂げました。

「やっぱり、さっきの祠までしか人間は立ち入らないの?」

『ああ、定期的にやってきて、お供え物を置いていくんだ。そのお供え物は、花だったり食べ物だったり、決まってないんだけどな』

「近くの村の人? 話したのは初めてって言ってたけど、妖精の姿を光としてでも見える人はいるの? 」

『いや、人間の目の前で飛び回ってみたことはあるけど、少なくともオレの見た中じゃ、それが見えてたような奴はいなかったな』

「そうなんだ、……ちょっと残念かな」

「メリルみたいな人はそうそういないだろうけど、私みたいな人もこっちにはいないって?」

「うん、そうみたい」

「メリルはそれを残念だって感じるんだね、私なんか、自分が特別っていう方がなんか嬉しい気がするけど」

「フランは……私にとっては特別な友達だよ」

「……なによなによ、おだてても何も出ないわよ? ってメリル、顔赤いよ。恥ずかしがるなら言わなきゃ良いのに」

「もう、フランだって、顔赤いよ?」

「うっさい。……でも、ありがと」

 そんなやり取りをしながら歩いていると、いよいよ地面の切れ間に突き当たります。

 最初の谷は幅は十メートルには届かない程度、深さは五メートルに満たない程度で、谷と言うよりは窪地と言った方が近いかも知れません。

 それでも、上から見下ろすとちょっと足がすくんでしまうようなその崖は、入り口同様に左右にずっと続いていて、迂回して向こう岸に渡る道は無さそうです。

『さて、それじゃあ早速オレの力を見せてやろう』

 ガーズはそう言って、崖になっている手前、杭のような物が立っている辺りへ飛んでいきます。

『昔は、このくらい入り口に近い辺りには吊り橋が架かってたそうだが、今じゃ奥と同じで俺たちの力が必要になってるんだ』

 メリル達が付いてきたのを確認して、ガーズはそう説明します。

『向こう岸にも同じように杭が立ってるだろ? 橋がなくても、こういった目印があった方が風の流れを安定させやすいから、こういった場所で力を使うようにって、精霊様から言われてるんだ。人間を乗せるのは初めてだけど、力を使うことは毎日のようにやってるからな、心配するな』

 そう言ってガーズは胸を叩くのでした。


 その崖にさしかかったとき、アミィはにわかに出発前に感じたものよりもずっと強い不安に襲われました。

 その直後、アミィは頭の中に重しを抱えたような感触を覚え、続いて、以前にも感じたことのある、目の前の世界が幾重にもぶれて見える感覚に襲われました。

 そして、ようやく焦点が合ったとき、目の前では、アミィがガーズの力で崖の向こうへ飛ばしてもらう準備が完了したところでした。

 不安は変わらずにアミィの中に有り、アミィはそのことをメリルに伝えようとしますが、何故か言葉は声にならず、身体も思うように動きません。

 メリルもフランもガーズも、そんなアミィの変化に全く気付く様子はなく、間もなく、ガーズはその力を発動しました。

 次の瞬間。

 ――ピィィィィィィッ!!

 そんな音と共に、上空から凄いスピードで影が落ちてきました。

 その影は飛び上がったばかりのメリルめがけて一直線に舞い降り、そして、メリルに激突しました。

「えっ!?」

 それは、誰の声だったのでしょうか?

 風の流れの外に突き飛ばされたメリルは、そのまま崖の下へ向かって落ちていきます。

 アミィは、自分の意思とは関係なく身体が動くがままに、メリルを追いかけます。

『――しまっ!! えいッ!』

 そのアミィの動きに我に返ったガーズが慌てて力を発動し、メリルの落下を食い止めようとしました。

 しかし、崖がさほど深くないことが良かったのか、悪かったのか。

 崖の底に見えたのは、左足を抱えて苦しそうに(うずくま)る、メリルの姿だったのです――。


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