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真に淀むは私達だった。  作者: あすたると
第一章 私の枷
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5話

 未だに居づらい空気感が漂う中、私は無事に登録を済ませ、説明を聞き終わったのが現状。


「他に不明点等はございますか?」


 受付の彼も居心地が悪いのか、気持ち控え目の声量で問うてくる。


「いえ、丁寧に説明して頂いたお陰で、私でも何とか理解できました。ありがとうございます」


「と、とんでもございません。至らぬ点の方が多いとは思いますが、今後とも宜しくお願いします」


「こちらこそ宜しくお願いいたします。それでは早速で申し訳ないのですが、この薬草採取の依頼を受けさせて頂いても宜しいでしょうか?」


 掲示板に貼り付けられていた依頼書を受付に提示し、受領を願う。


「畏まりました。手続きを致しますので、少々お待ち下さい」


 場の空気から目を逸らせるように、いそいそと手続きを行う彼の姿を眺めつつ、可能性は低いが『次』の構成を練る為にギルド会館内に居る冒険者達の雰囲気を感じ取る。


 先程の一幕が起因しているのか、ぎこちない動きの冒険者が多い。私は、彼らは荒事に慣れていないのだと判断すると共に、その中でも人数が多いグループの顔ぶれを記憶しておく。


 次いで、動揺を見せない冒険者には、周辺視野で雰囲気だけを視る。一通り記憶し終わった頃には、受付の彼が手続きを終えたようであった。


「お待たせ致しました。今回は採取依頼という事ですので、簡易的な植物図鑑を貸し出しておりますが、御入り用でしょうか?」


「それは助かりますね。ですが私は物を無くしやすい(たち)でして。採取対象の薬草だけ、確認をさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「畏まりました。どうぞ。お手数ですがご返却の際は、あちらの引取受付までお願いいたします」


「はい。ご丁寧にありがとうございました」


 受け取った図鑑から、薬草の特徴や群生地の情報を確認し、ついでに他の草花の詳細を流し見しておく。ある程度、草花の知識を頭に入れ込んだ後、引取受付にて図鑑を返却。私は静かに施設を出た。


 これからの行動の選択肢は二択であるが、どうしたものかと街の外へと向かいながら潜考をする。


 一人。


 先程の軍を名乗る団体の中にいた人だろう。目をつけられないように立ち回った筈だが、彼は余程、目がいい(・・・・)のだろう。軍が魔女探しに来ていると伝える事が先決であるのだが、私の黒い感情が釣ってしまった彼を、屋敷へと招待する訳にはいかない。


 よって、彼が私から目を離すまでは、依頼に意識を集中させる他ない。そう結論付いていたのだが存外、簡単に諦めてくれたようで、街の外に出れば尾行の気配は消えていた。


 とは言っても、直ぐに街に戻っては余計に疑われる故に、私は依頼された薬草採取に力を注ぐ。


 今回受けた依頼は、街の外ならば何処にでも生えているような、群生地が各大陸全域と書かれた薬草を数十束、取って来るというもの。私のような、魔物とやらを相手取れない者にはうってつけの依頼である。


 無意味になる可能性が高いと分かっていても、それでも街の周辺の地形を確認して行きながら。私は、指定された数量の薬草を集める。


 図鑑から得た知識は偉大であったと、素人当然の私でも簡単に判別出来ていたのが何よりの証拠。見た目的にも雑草とは大きく異なっている為、それほど意識をせずとも判断できるのは大きい。


 よって、空いた思考回路は別の事へと利用する。


 それは私がごく自然と読んだ『文字』について。大した問題ではない為、後回しにしていたが、思い付く限りの優先度の高い懸案事項は考慮済み故に、今更ながらに経緯を思索した。


 とは言うものの、原因となっている事など一つしか思い当たらない。それは私が意識を覚醒させた時の状況。明らかに異常な現象の事である。


 私は他者に成り代わっているのではないか、という浅知恵を働かせた事もあったが、あながち間違いではないのかもしれない。そうでなければ、無意識で知らない筈の文字を書けたりはしないし、読む事も出来なかっただろう。


 と、適当に物を考えるも、結局はどうでもいい事案だと、全てを切り捨てる。私の身に何が起こったかを知ったところで、私はどうする気も無いのだから。


 無駄な事に労力を使ってしまったと嘆くとともに、他にも優先度の低い些事は無いものかと顧みて、止めた。その理由など、言わずもがな。


 私は時間を見計らってから、指定数の薬草を持ってギルド会館に戻る。


 その途中に軍の兵士達は居ないかと、彼らに対する警戒の比率に重きを置いたが、不自然な視線に晒される事はなかった。比較的安全にギルド会館へと戻り、達成報告を行ったところで、一先ず一息つける状況となる。


 かといって、このまま宿で一泊している余裕などなく。


 私は、こんなに早く戻るつもりはなかったのだが、と事実のみを心で囁き、細心の注意を払いながら裏路地の扉を開いた。


 視界いっぱいに広がるは毒池。浮かぶ孤島に屋敷。


 異様であるが既に見た光景だった。


「ただいま帰りました」


「あ? 随分と早く帰ってきたものだな。私が恋しくなったか?」


 嫌らしい笑みで私を出迎えるは我が主、大魔女イヴ=ロード様である。その二つ名に恥じない程度には、良い性格をしているようだ。だが今は茶番に付き合うよりも、報告を先にしておくべき状況故に、申し訳ないと感じながらも、預かっていた水晶を返却しつつ適当に肯定しておく。


「それもありますね。ただ、早急に報告すべきと判断した情報がございましたので。端的に申し上げますと、軍と呼ばれる方々が街に来ておりまして、彼らの話によりますと『賞金首の魔女』を探しているようでしたので、一応お伝えしようかと思い、戻ってきた次第です」


「ほぅ。存外、手の早い事で」


 彼女の笑みは、何かを見透すような表情に昇華する。


「既に承知でしたら、出過ぎた真似をご容赦をいただければ幸いです」


「いや、よくやったと褒めておこう。予想よりも早く、軍が私の居場所を嗅ぎ付けた事にはどうも納得いかないが、居場所が完全に割れる前に知られた事を知れたのならば、対策のしようはある。夜になったら別の街に移動するぞ」


 移動する必要がある、という事は、この屋敷から赴ける場所は、自由自在に指定は出来ない事を意味する、と仮定しておく。そうでなければ、麗しき水都と屋敷を繋いでいるこの状況を、それほど重要視する筈がなく、かつ、夜という人気の少ない時間帯に別の街へと行く理由が分からない。


 想像の埒外が事実である事もある為、断定はしないが。


「承知致しました。それにしてもイヴ様は私を疑わないのですね」


「何か裏切る予定でもあるのか?」


「とんでもございません。そう言った意味合いではなく、私が尾行されたという可能性の話でございます」


「少なくともお前の持つ警戒心は、私よりも高い。それに裏路地自体に人払いをしてあるからな。私以上に実力を持った魔女にしか辿り着けんよ」


 言外の意にも気を止めながら、褒め言葉として認識しておく。


「して、先程から居られるそちらの方々とはどういったご関係でして?」


 ソファに寝そべる、魔女と同年代くらいの少女と、傍らに立つ執事のような男性。屋敷に初めて訪れ、片付けを言い渡された際には、他にも誰かが居るとは察知していたものの、姿を現さなかった為に訳有りかとも潜考したものであるが。


「あぁ、ただの居候とその執事だ。僕はお前一人だから安心しろ」


 別に僕仲間を欲している訳でなく、然りとて対抗心が駆り立てられる訳でもない。


「安心、の意味は理解しかねますが。ともあれ本日よりお世話になりますので、宜しくお願いいたします」


「こちらこそ宜しくお願いいたします」


「よろしく~」


 身なりと同様の口調の返答を確認した魔女は、


「さて、次に向かう街だが、いい加減あの屑王子のお遊びに付き合うのも疲れたところだ。もう一度痛い目に合わせてやろうと思うんだが、異論はないか?」


 軽い口調で王国を潰そうと、発言した。正確には王子を叩きのめすだけらしいが、魔女から聞いている話からして、潰さない限り永遠と嫌がらせを続けてきそうな性格をしている王子の事だ。異論など無い。


「幸い、今いる街からはそれほど距離はない。とはいっても数日は掛かるがな。各自準備は整えておけよ。夜は魔物が活発化していて襲って来やすいが、相手にしている暇はない。だが、盗賊だけは潰しておく。そんなところだな。お前は今回は馬車の中で見学でもしていろよ?」


 戦力外通告をされた私は、大人しく頷いておく。何とも情けなく、結果的に『他力本願』になってしまった自らに憤りを感じながら。


「今は存分に休んでおけよ。夜は忙しくなる」


「承知致しました」


 彼女の命に従い、自室で瞑想でもしながら待機する事とした私は。感情を抑制しつつ、物事の整理を行い。


 ただ夜を待った。

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