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そして数日が経ち、騎士団の一部の人達と騎士団候補生の実力のある人達の混合編成が組まれて、魔王討伐隊が作られた。
そこには私やグロウも入っていたが、ジェシカはそこには入ってなかった。
ジェシカはそれに悔しがって、私たちが魔王討伐に出発する前夜に私にこう言ってきた。
「私はグロウの事が好きです。ですが、リシンの事も好きです。だから、帰ってきてからグロウを賭けて決闘しましょう」
つまりは帰ってきてねってことだ。私は感謝しますわとだけ言って、その場を去った。
次の日に出発して、魔物などの姿などなく、素直に魔王城に着く事ができた。
「こう何も無いと逆に怖いね」
グロウはそう言いながらも前に進む。
「きっと魔王も私達を歓迎しているのですわ」
私は笑顔でそう応える。
私が魔王のもとに来て戦うというのだから、魔王にとってみたら、それはそれは楽しみだろう。
魔王城に魔王討伐隊が入るも、中には一人を除いて誰もいなかった。
慎重にゆっくり進軍して、おそらく王座の扉といったものの前にたどり着く。
その扉はとても大きく、人が10人は同時に入れるのではないかというほどの大きさだ。
「さあ、行くぞ!魔王を討伐するのだ!」
そして、グロウの父こと、魔王討伐軍の隊長の指揮のもとその扉を開ける。
その先の部屋はとても広かった。200人入ってもまだ余裕があるくらいのとても広い部屋。まさに、大勢を迎い入れる為に作られたかのような部屋だった。
ただ、そこに一人王座に座っている魔王がいた。
身長的には、一般人とは変わらないくらい。
だが、その威圧感からか、とても大きく見える。
そして、そんな魔王が言葉を発した。
「我は魔王。魔を司る王なり。貴君らはそんな我を倒そうとする者。間違いないかね?」
大きくはない声。しかしどこか重みを感じ、討伐軍総員の100人ほどにしっかり響く声。
ある者はその声を聞いただけで持っていた武器を落とした。
ある者は腰に力が入らなくなったのか尻餅をついた。
そんな中で隊長は、声を張った。
「我らは魔王討伐軍!貴様を倒しに来た者だ!魔族や魔物に命令して、我らの仲間を、家族を崩壊させた者め!今ここに討伐するぞ!」
「「「おー!」」」
隊長の掛け声と共に、我に返った隊員達は声を合わせた。
「ならば、くるがいい」
魔王は、立ち上がり剣を抜き、こちらに声をかける。
「総員!!突撃!!!」
「「「おーーーー!」」」
そして、隊長の声と共に、隊員はただ魔王に突っ込んで行く。
そもそも、魔王の対決の前に何度かの襲撃があると考え、10人ほどしか魔王の前にたどり着けないと思っていた。しかし、襲撃は一切なく100人ほどで魔王と戦えることになった。
1人対100人に作戦など取れるまでもなく、ただ物量作戦となる。
それで、周りも勝てると思ったからこそ、隊員は迷わずに魔王に突っ込んでいく。
隊員達が剣を振るい魔王に攻撃を当てようとする中、魔王はそれよりも早く剣を振り隊員達を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた隊員と後ろにいた隊員がぶつかりそのまま攻撃が途絶えたと思ったところに、魔王の所に火や水や雷といったものが飛んでいった。
魔王は目に見えないほどの速度で剣をふり、その魔法を切り裂き、切り裂かれた魔法は何も無かったかのように消滅した。
ただ一振りで数人を切り裂き、次の一振りで数十の魔法を無効化した。
味方に巻き込まれた人達が何人かは立ち上がり魔王に向かい、何人かは呆然として立ったはいいが立ち尽くしたままとなっている。
魔王は近づいて来た者達に向かって剣を振り・・
ここだ!
私とグロウは目を合わせて、魔王に突っ込む。
その速度は隊員達よりも早く、そして剣を魔王の剣に向かって振るう。
私とグロウの剣は魔王の剣とぶつかり、そしてお互いに拮抗状態になった所で隊員達がおいついて、魔王に剣を振るう。
「ほう・・、我の剣を二人とはいえ受け止めるか。だが、我には魔法もあると忘れるな」
そして、魔王は剣が拮抗状態になっているのにもかかわらず瞬時に魔法を発動させて、剣をふるっている隊員に魔法を放った。
だが、それを見越していたのか隊員の後ろから他の隊長の魔法が放たれていて、隊員の前で魔王の魔法と味方の魔法がぶつかった。
だが、威力が違った。
魔王の魔法は、隊員の魔法を物ともせずに飲み込んで、そのままその魔法の後ろにいた隊員達をも飲み込んだ。
「弱い、弱すぎる。その程度の力で我を倒そうと思った事に憤りを感じるわ」
魔王は拮抗していた状態から一歩下がって、剣を私とグロウに向けて剣を振るう。
私とグロウもそれに合わせて剣を振るうが、剣と剣がぶつかり、そしてその威力に負けて二人して後ろに吹き飛ぶ。
吹き飛んでわかったことがある。先ほど魔王の剣を受けたものも、魔法を受けたものも死者は一人もいなかった。
つまり、魔王はまだ本気を出していない事に。
本気を出して死闘となるならば、隊員は死んでいてもおかしくはない。だが、一人も死んでいない。つまり死なない程度に手加減されているのだ。
とはいえ、死んでないといえども、既に士気は無いに等しかった。
誰もが呆然としていた。
「やはり、雑魚が何人集まろうとも雑魚に違いは無かったか。戦うなら先鋭とやるのが楽しいのだろうな。とはいえ、そんな先鋭は果たしているのか試してやろう」
魔王はそんな事をいった後に一つの魔法?を発動した。
【跪け】
魔王がそれを唱えた後に隊員、そして隊長すらも魔王に対して跪いた。
「ふむ。やはり、そんな先鋭はいなかったか。ん?」
ただ一人を除いて・・
「ほう、貴様、名前は何という?」
そして、魔王はそんな一人に名前を聞いた。
「私の名前はリシン・グスター、皆の希望の星となる者ですわ!」
そう魔王の威圧というべきか、それから動けるただ一人の人とは、英雄補正のある私だった。
つまりは、マッチポンプというわけだ。
魔王は初めから私との一騎打ちを望んでいたわけだ。
いつでもこうやって威圧で味方を封じることが出来る。
だからこそここに来るまで敵はいなかったし、今こうして魔王と戦っても誰一人死んでいない。
魔王は英雄である私と戦うために。
この状況になって私は絶対的に不利になったわけではない。
むしろ、状況は良くなって来ている。そんな状況をあえて魔王は作り出した。
「さあ!みなさま、願いなさい!この私が、この魔王を打ち倒す所を!ただ一人動けるこの希望に、願いなさい!」
私は高らかに声をあげて剣を魔王に向ける。
隊員や隊長達が動けないからこそ、唯一動ける私に願いを託す。
そして、その願いが私の力となる。
《条件が達成されました。英雄スキル:勇者が発動しました》
頭に響く声と共に私の世界は変わった。
周りからの期待を一定以上得る事によって発動する英雄スキルの勇者。
そのスキルにより、私の能力は期待をかけられる重さに比例して強くなる。まさに勇者らしいスキルだ。
そして、私にはこれだけではない。
「魔王!これ以上は仲間を!家族を傷つけさせない!今、ここに貴方を倒す!」
私がそう宣言するとともに、さらにスキルが発動する。
《条件が達成されました。英雄スキル:パラディンが発動しました》
誰かを守るという願いを一定以上思うと発動するスキルのパラディン。
これにより、私の耐久力は格段に上がった。
「ふむ、成る程。面白い!ならば、くるがいい」
魔王は威圧のある笑顔でそう私に言った。
私は、剣を構えた。
魔王も剣を構えて、
そして、私と魔王の死闘は始まった。
スキル:勇者が発動していても魔王が剣を振るった時の剣は見えなかった。
つまり、それ程までに地の力があるということになる。
それでも、私は勘で剣を振るい、魔王の剣を受け流す。
スキル:パラディンのお陰で剣に関しての扱いも上手くなる。そのおかげで受け流すことは出来るようになった。
そのまま魔王と私の剣の振るい合いは続く。
魔王も私も攻撃スキルを使わない。ただ剣を振るうだけ。
これも魔王が合わせてくれているだけ。
攻撃スキルを使われたらこちらは、あっという間に負けてしまうだろう。
魔王は何故スキルを使わないか。
それは、この時間を楽しんでいるからだろう。
隊員達は、私が魔王と張り合ってる所をみて、もしかしたらという期待がさらに強くなって、私の能力も少しずつ上がって来た。
だが、それでも魔王には届かない。
ただ魔王の攻撃を防ぐ事しか出来ない。
「確かに硬いな。だがそれだけだ。お前の力はその程度なのか?」
魔王は剣の打ち合いの合間にそんな事を言ってくる。
つまり、そろそろ飽きて来たという事なのだろう。
それに、これ以上同じことをやっていても私が先にスタミナが切れて負けてしまうだろう。
ならば、やるしかないではないか。
「私はリシン・グスター!皆の希望の星だ!だからこそ、いまここに輝け!【レイジング・スター】」
私は叫びながらスキルを放つ。
今まで学んで来たことの集大成というべきものを。
ただ単にスキルを発動しても火力が足りない。ならば、一点集中すれば良い。
私は、剣を振るう腕や手に、そして剣にのみ英雄スキル:勇者やグロウから教えてもらったオーラを集中させる。
そして、今まで以上に皆を守る気持ちを込めて、今まで以上に英雄スキル:パラディンが発動して、剣の扱いが上手くなる。
すると剣が輝き出した。
その姿はまさに希望の星と言えるだろうか。
それを私は強化された腕で振るって魔王に放った。
魔王は剣でそれを受けた。
が、魔王の剣は真っ二つに折れ、そして私の輝く剣は魔王につき刺さる。
そして・・・
私の剣は、砕けた。
「ふむ、なかなか痛かったな。だが、それだけだ。まだ力が足りんな。それではまた会おう」
魔王はそういった後に、私は目の前が真っ暗になった。
ああ、負けてしまったんだね。
次こそは勝つから!絶対に諦めないから!
私はそう願って、そのまま考えることも出来なくなったのだった。