1-3
次の日からジェシカとの特訓が続いた。
ジェシカに最初に勝てたのは私に対する油断や、初見による不意をついた事が大きかった。以降は滅多に勝てなくなったものの、やっと最近になって地の力がついてきたのか少しずつ勝てるようになってきました。
その頃には周りからも認められるようになってきて、共に訓練したり、こうした方がいいと言ったアドバイスをもらったりしました。
え?攻略対象のヒーローはどうしたかですって?
今のところは、最初以外はあまり接点ないですわよ?
攻略しないのかですって?
もちろん、これもその条件の一つに過ぎませんわ。
そして、もう一つの条件も毎日やってますし、そろそろフラグがたっても良い頃なはずですわね。
そう考えながら、私は暗闇の訓練場で剣を振るう。
周りは月に照らされるくらいしか光源がなく、ほぼ真っ暗。
だが、あたかもそこに敵がいるかの様に剣を振るい、時には避ける。
あくまでも、激しいものではなく緩やかに。
「君は本当に魔王を倒したいのかな?」
すると、いつ近づいたのか、付近から男の声が発せられた。
「もちろんですわ」
私は驚かずに剣を振るのをやめて、その声に言葉を返す。
「何でそこまでして・・」
「何で貴方はこの騎士候補生に入って鍛えているのですか?」
私は彼にそう聞き返した。もちろん、彼が望む答えはそんなものでないことはわかる。
けれども、だからこそ、ここが鍵となり得るのです。
「僕は・・・、皆を守る為に・・・」
「私も、皆を守る為に、そして何よりも魔王に勝つ為にですわ」
何度も皆に言ってる言葉を返す。だが、やはり彼が望む答えはこれではないようだ。
納得してない顔でこちらを見てくる彼に、私は一つ質問することにした。
「貴方と一緒ですわ。私にも言いたくないことはありますの。その為に、私は強くならなければならないのですわ!その秘密を聞くのならば、貴方にも相応の対価を払ってもらいますわ。さて、貴方はそれを聞くだけの覚悟はありまして?」
私は声高らかに彼に言い放つ。その言葉に彼は、
「僕は・・・」
とだけ話し、声に詰まった。そこには、私と対決した時のような覇気はなく、ただの情けない男がいた。
「分かりました。ならば決闘をしましょう」
「っ!!」
私はそんな彼に一つの提案をする。それは、彼からして見たらとても美味しい話な為に彼は驚いた。
「私に勝ったならば、その秘密を話しましょう」
「君は、僕に勝てると思うのかい?」
彼は驚きや情けなさから素に戻り、冷静に聞いてくる。
「そうですわね。今の貴方になら勝てると思いますわ」
でも、その冷静さも上部だけだ。だからこそ、私は勝てると言い放つ。
「前に君に負けたのは、ハンデありだったことも含め、油断していたからもあるんだよ?」
確かに一撃を与えるだけで私の勝ちというハンデもあったし、武器である剣を捨てるという驚くような行動をしたから、以前は勝ったというのはある。
「今回は正々堂々でも勝てますわよ?」
「ジェシカさんといい勝負なのに、僕に勝てるとでもいうのかい?」
確かに普段の彼とジェシカなら、彼の方が圧倒的に強いだろう。けれど・・
「ええ」
私は一言そう返した。
「そうか・・・」
彼は私の言葉に何とも言い難い顔をした。
「では、今日はもう遅いですし、明日にでも戦いましょう」
私はそう言って、彼との話を終わりにして訓練場を出ることにした。
彼は何も言わずに私の後ろ姿を見るだけだった。
訓練場を出るとヴァンが私を待っていて、そのまま私の後ろを歩く。
「私はリシン様を信じてますから・・」
そして、そう一言だけ言ってくれた。
「そう。ありがとう」
私も、それだけを返した。
そして、そのまま無言で歩き続け帰宅したのであった。
日が明けて、私とグロウの決闘が始まろうとしていた。
その立ち位置、風景は私が初めて訓練場に来て、決闘をしたときと同じだ。
ただ、違う所もある。
それは周りの視線が、前は私に敵視していたのが、今では仲間と思われていて、応援してくれているかのような感じだったりする。
そんな中で決闘は始まった。
だが、お互いに剣を構えたまま動かない。
それはお互いに隙が無いからなのだろう。
グロウは私に隙がないことに感心したのか、目が変わった。
そうです。私はもう前の私では無いのです。だから、本気で来なさい!
私は言葉には出さないが、そんな気持ちを込めて彼に視線を向ける。
【オーラ】
そして彼はスキルを使った。
彼の身体の周りには赤いオーラみたいな靄が出てきた。
おそらく、エッジの時に力が増す不思議な力を全身に纏ったのだろう。そしてそれを維持するだけの力を持って、私に向かってくる。
私はそれでも、まだ剣を構えたまま動かない。
【エッジ】
そしてグロウはオーラを纏ったまま、エッジを重ねて来た。
そのまま剣を私に振るってくる。
そして私は、ふつうに合わせるように剣を振るう。
そして剣同士がぶつかり、その反動でそのままお互いに一歩ずつ下がる。
その事にグロウは驚いた表情をしていた。
「っ!【エッジ】」
今度はオーラの力とエッジの力で、脚力を強化して常人ならば目も追いつかない勢いで私の背後に回って、そのまま剣を振るってきた。
私は慌てずに、後ろを向き、そのまま剣を振るう。
グロウは受けてくるとは思ってなかったみたいで、剣同士がぶつかった衝撃でそのまま後ろに軽く飛ぶ。
何故だ!?といった顔をしている。
だから、私はその問いを答える。
「私は魔王に勝つ者!」
自信をもって、皆にも聞こえるように答える。
皆もそれに乗ってくれているかの様に「おー!」とか合わせてくれた。
私は改めてグロウを見てこう叫ぶ。
「そこには男も女の性別は関係ありません!男爵令嬢や騎士団団長令息の立場も関係ありません!あるのは勝つという意思だけですわ!」
「っ!」
私の言葉に驚くグロウ。私はそれを見て当たっていたとばかりに話を続ける。
「私の名前はリシン・グスター、皆の輝く星となる者ですわ!」
堂々高らかに名前を叫び、そして自らの目標を宣言する。
それを聞いた周りの人達は、再び「おー!」と合わせてくれる。
私はグロウに一歩近づく。するとグロウは後退してそのまま躓き尻餅をつく。
私は尚も近づいて、そして先程とはうってかわって優しく話す。
「もしも自身が輝く事に疲れたのなら私に任せなさい。私が私という輝きであなたを輝かせてあげますわ」
そして、私は剣を収納し、グロウに手を差し伸べる。
私の行動にグロウは・・
呆然とした顔から、何かが救われたかのような顔付きになって、私の手を受け取った。
「僕の負けだね・・・」
グロウは戦闘による怪我を負ってはいない。けれども、私の言葉に、行動に心に負けたといった。
「僕の秘密はね・・」
そして、みんなの前にも関わらずに自身の秘密を打ち明けようとする。
「待ってください。私が勝った時の約束に、貴方の秘密を聞くことは入ってなかったはずですわ」
そう、私が決闘するのに当たって約束したのは、私が負けたら私の秘密を話すだけ。私が勝った時の話はしなかったのだ。
「え?」
私の言葉にまたも呆然とするグロウ。
これは、秘密を話したかったというやつに違いないですね。そうならば、話は変わってきます。
「けれど、聞いて欲しいっていうのなら聞いてあげてもいいですわ。そして、聞いた分だけの行動はしてあげます」
呆然とした顔から、ああ・・そうか・・と納得した顔になったグロウ。
そしてグロウは、語り出した。
「僕は騎士団団長の令息だ。だから誰よりも強い事を求められた。周りを統率する事を求められた。そして何よりも、魔王という勝てもしない強者に勝つ事を求められた。その期待に応える為に、毎日を訓練に費やした。いくら強くなっても父から褒められることは無かった。周りもそれが当然とばかりにしか思ってくれなかった。そして、僕もそれが当然だと思っていた。思いたかった。でも、違ったんだ」
グロウは一息ついて、私を改めて見てきた。
「僕は、そんな日々に疲れていた。その疲れていたのを誤魔化していた。そのまま続けていれば、いつかは心から死んでいたかもしれない。そんな時に君は現れた。初めは不思議な人だと思った。けれど日が経つにつれ、君の輝かしさに皆が見惚れていた。僕は何故そんなにも輝けるのか知りたかった。僕も君みたいに輝く為に」
輝くというのは努力している姿の事だろうか?皆も努力はしていることだと思うのだけど。まあ、頑張ってると思えるように仕向けてきたのはありますけど、出来過ぎな気もします。おそらく英雄補正か何かのお陰なのでしょう。
「そして、君はそんな僕に輝かなくていいといった。君の輝きで僕を輝かせてくれるからと・・。でも、そうだね。ぼくは、君が輝いてくれるのなら、それだけに留まらずに、君と共に輝いていきたい。どちらかが輝くのでなく、お互いに輝く。その輝きで共に巨大なる闇、魔王を打ち倒そう」
そして、グロウは私の手をとったまま立ち上がり、そのまま高らかに叫んだ。
「騎士団候補生団長グロウ・ファリアードは、輝く星リシン・グスターの騎士になる事をここに誓う!共に輝かしき未来に向かって!」
言い終わると同時に私の手をとったまま、私の前でしゃがみ私の手に接吻した。
それと同時に、周りは今まで以上に盛り上がった。
《英雄スキル:パラディンを覚えました》
そして頭の中に響く声。スキルを覚えたみたいだ。
こうして、私とグロウの2回目の決闘は終了したのだった。