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1-1

私ことリシン・グスターは、グスター男爵家の令嬢である。魔王に呼ばれて異世界からやってきた英雄である。


今は不思議な事に前の世界の記憶と、この世界の記憶を持っている。


グスターという名前は、私が考えた筈なのにこの世界では歴史があるということに魔王の凄さを感じた。


取り敢えず、魔王との対面との記憶を元に一つの魔法を発動してみる。


【ステータスオープン】


すると、目の前に文字が現れた。


名前:リシン・グスター

筋力:並

魔力:少

知能:??


これだけが出てきた。


まだ使い慣れていないから情報が少ないのだろう。


筋力が並で魔力が少というのは、私のこの年齢的には低いのだろうか?他の人のを見てないから比べられないな。


知能の??というのは、おそらく他の世界の知識を知っているから測定不能ということなのだろう。


取り敢えず、この程度の筋力と魔力では魔王に通じないだろうから鍛えるしかない。


あとは、乙女ゲームのメインであるヒーロー関連ももちろん同時に進めて生きたい。


となれば、王道のヒーローである王子様もいいが、騎士団長の一人息子と接点をつなげていきたい。


一緒に切磋琢磨して、鍛えていくのもまたいいだろう。


もちろん他へのアプローチも忘れないが、本気で狙いにいく人は決まったわけだ。


さて、それでは学園に向かうべく、学園の近くにあるグスター男爵家の家の私の部屋から出る。


流石に毎日毎日を他領から学園に通うのは厳しいということから、学園の近くに家を建てる貴族はそれなりにいる。建てれない人は、学園が運営している寮に住むことになる感じだ。


主に建てれない人は貴族の中でも位の低い人達で、逆に言うと私の家なんかがこの家を建てられたのが不思議なくらいだ。


「おはようございます」


部屋を出るとすぐに声がかかった。


その声を発した人物は、私のお付きの1人である執事見習いのヴァンだ。


毎日、この様に私が部屋を出ると一番に挨拶してくれる。そして、次に身なりは整ってるかを確認してくれる。


私は自分のことはなるべく自分でするという、貴族の中では珍しい希少種らしい。だから、身なりなども基本的に自分だけでやってしまう。


まあ、朝食は作ってもらうものを食べるのですけどね。


そうして、身なりも許しが出て、朝食を頂いて、学生服に着替えて、また身なりを整えて、馬車に乗って学園に向かうといういつものパターン。


学園には生徒1人につき1人だけお付きの者をつけることができて、ヴァンに来てもらっている。


さて、そんなわけでいつも通りに学園に着いたわけだが、いつもはそのまま教室に向かうのだが、今日は騎士候補生の訓練場に向かうことにした。


ヴァンは基本的に着いてくるだけで何も聞いてこない。


そして訓練場の近くに着くと、外からでもその訓練の音が聞こえて来た。


これは期待できそうね。


そう思って中に入ってみると、そこには剣や槍を素振りしている騎士候補生がいた。振ると同時に声を発し、また素振りの音をさせてそれが乱れない。


これだけ乱れないのなら、それなりに鍛えているのだろう。


そう思い、私は自分と能力を比較するために、適当な人間に魔法を使う。


【ステータスオープン】


そして目の前に現れる文字。


名前:??

筋力:並

魔力:激少

知能:並


と出て来た。名前については知ってる人にしか表示されないのかもしれない。


魔力や知能も魔法をあまり扱わない騎士候補生ならば納得できる数値だ。


しかし、筋力はどうだろう。なぜ私と同じ並なのだろうか?


私はこの世界きて、普通の令嬢としての行動しかあまりしてこなかった。すこし他に比べて活動的な面はあったかもしれないが・・


とはいえ、それだけでは騎士候補生とおなじになるとは思えない。


つまり、私は前の世界の記憶がある以外にも、何かしらとイレギュラーなのだろう。


そんなことを考えていると、


「君は何をしているのかな?」


と背後から声をかけられた。


私が振り返ると、そこにはスキの無いような格好で立っている男の人がいた。


何で私は声をかけられたのだろう。


確かに私は騎士候補生格好はしてないが、たまに訓練する姿を見学しにくる人はいるはずだ。その人たち全員にこんな対応してるとは聞いたこともないし、私は何故声をかけられたのだろう。


「騎士候補生の練習姿を見に来ただけですが?」


彼の質問の意図がわからずに、ありのままに答える私。


しかし、彼は私の目を、そして体の節々を見ながら、まさに少しでも不思議な動きをしたら攻撃をしてくるのではないかという位の集中力でこちらを見ながら、こう返してきた。


「君はあの騎士候補生にどんな魔法をかけたんだい?」


ああ、なるほど。


「私はあの騎士候補生には魔法をかけておりませんわ」


私はその言葉を聞いてすぐにそう返す。何かの根拠があって私が魔法を使ったことを確信しているみたいだ。


だから、私のこの言葉に対して睨みつけてくる彼。


「いえ、ある意味あの騎士候補生に魔法をかけたであってるのかもしれませんわね。私は彼のある程度の実力がわかる魔法を発動したのですわ」


この世界では、直接的な攻撃や呪いに似た魔法は沢山あるが、相手の力を見るような補助的な魔法は殆ど存在していない。というよりも魔法自体があまり発展していない。火を発生させて的にぶつけたりする単純な魔法や、対象にちょっとした不幸がありますようにといった願い事のような魔法しか殆ど使用されていない。


だからこそ、私があの騎士候補生を見て何かしらの魔法を発動した。けれども直接的な魔法が発動していないことから、呪い的な魔法を発動したということで、どんな呪いをかけたのか問いかけて来たのだろう。


「・・・」


そして、だからこそ、そんな魔法があるはずがないということで彼は疑わしいような目でこちらを見てくる。


この魔法は検証できるが、もし呪いだった場合は被害者を増やすだけであり、またその検証結果も魔法でなく情報として既に知っていたことであれば、あたかも魔法のおかげでこの人の実力が分かりましたと偽証もできる。


だからこそ他の人で検証させないようだ。


となると、この人はいろいろとできるという事が分かる。


私が魔法を発動したという観察眼。


どのような魔法を発動したかを聞き出す際の油断の無さ。


考えられないような魔法であったとしても、その魔法の検証が意味あるのかどうかを一瞬で考えられる思考力。


私が見るに今ここにいる人の中で一番強く、一番賢いのだろうと直感している。


さて、こんな事を話をしていても進まない。


「そんな事よりも、今日から私も訓練に参加させて欲しいですわ」


そう。もともとの理由の一つは、この騎士候補生の力を見て、私に利があるのならここで訓練をするという事でここに来たのだ。


そして、今、目の前にいる強者がいるのだから、ここで訓練するのはとてもいい事になる。この人に近づきさえすればいちばんの目的に近づくのだから。


「君みたいなご令嬢が、何の為に訓練するというのだい?」


普通のご令嬢は騎士候補生の訓練に参加などしない。ただ優雅に暮らして決められた婚約者と結婚して、ただただ平穏に過ごしていくのが一般なのだ。


だからこそ、こういうふうに止められる。


けれども、私は違う。魔王と約束したから・・・


私がリシン・グスターである限りはそんな一般的は望むものか。


「今、世界は魔王に侵略されています。それなのに何もせずにいられますか。少しでも良いのです。力が欲しい。だからこそ!私はここで訓練をしたいのですわ!」


取り敢えず、この世界では魔王に侵略されているというのがこの国の一般常識になっている。だからこそいつでも戦闘が出来るように、騎士候補生というものがあるし数年前には勇者召喚も行なった。


その勇者は直ぐに自殺してしまったわけだが、それはそれで仕方がない。やはり、勇者といった外部の力でなく、自らの力で魔王を討伐しなければいけないということで騎士候補生などに力を入れることにしたみたいだ。


それでも、やはり普通のご令嬢はそこに混じらない。


あくまでも血を残すための存在として、優雅に暮らすわけだ。それが普通になってる。


「君みたいなご令嬢は戦わなくていい。僕らが守るから後ろで見守っていてくれ」


普通になってるからこのように返ってくる。


「あら、私の事を呪いの魔法を使ったと疑っていたんではないですの?それともそんな魔法を使う人を近くに置きたくないだけかしら。なんにしても、こんな怪しげな魔法を使う者を近くにおいておくべきだと思うのですけど?そうは思いませんか?」


返ってくるとわかってるなら事前に答えることも考えられるためすんなりと答えられる。


怪しい魔法を使う相手なら遠くに離して魔法をかけられるよりも、近くにおいて見張ってたほうが安全だ。特に目の前にいるような魔力に敏感な人がいるなら猶更だ。


ちなみにこの国では怪しい魔法を発動しただけではとらえられない。実害が出ているのなら何とか捕まえることができるかなぐらいだ。


捕えてもその魔力を活かして魔王討伐軍に仕立てられるみたいだ。


「たとえ君が怪しい魔法を使うとしても、国の民の一人である君は守るべき対象であることに変わりない」


目の前の彼はかっこよくそう答えてくれる。


ああ、これが普通の一般令嬢だったら堕ちているのだろうな。


けれど、私はこれでは落ちませんわ。なによりもそれを言ってる間でも私が怪しい行動をするか注意しているではないですか。


「わかりましたわ」


私がそういうと、男はやっと少し緊張を解いたようだが・・


「貴方は私に負けるのが怖いのですね」


私のこの煽りに緊張ではなく、少し怒気を発した。だがそれも一瞬でおさまりこう返してくる。


「怖くありませんね。負けませんから」


それを聞いた時に、決まったと思った。


「なら、私と戦い(踊り)ましょう」


私は、にやりと微笑んで手の先を彼に向ける。


これを断るならば、貴方は私にその時点で負けなのですよという微笑み。


そして、それに気づいた彼は私の手を自身の手で掴み、そのまま私を訓練場の中心にエスコートしてくれる。


訓練中だった訓練生達は、何事だと一瞬あわただしくなるものの、私たちが決闘することがわかると道を開けてくれて、端に寄って行った。


訓練場の中央に着くと、彼と私は決闘前の打ち合わせに入る。


「君に武器は必要かな?」


まず初めにそう聞いてきた。


私は見るからに武器を持っておらず、魔法使いならば杖や棒を持っているものだが、それもない。


だから、まず彼がそう聞いてきた。


「そうですね。彼が所持している剣でどうでしょうか」


私は適当に目の入った訓練生を指さしてそう答える。


「まあ・・いいだろう。カール君、君の剣をこの少女に渡してあげてくれないかな」


対戦相手の彼がそういうと、私が指定した男の人が私に剣を渡してくれる。私はその剣を受け取り、ありがとうございますと言葉を返す。


どうやら、周りには私がこの剣を重さ的に扱えないと思っているみたいだな。


けれども、重さ的には勇者補正か、前の世界の補正なのか知らないがそこまで重く感じない。


問題は、前の世界でも剣を扱ったことがないことに限る。


とりあえずは、決闘であるのならば、賭け事を決めなければ。


「貴方は私に勝つのが当然なのですよね?」


しかし、その前に布石をうっておくとしよう。


「もちろんです。ここの訓練生の頭として、君みたいな訓練をあまりしてなさそうな人に負けるわけにはいけないのでね」


彼は、自信満々にそう答える。


やはり、私の魔法に気づいたこと、周りの訓練を中断できる力があるだけあって、訓練生の頭だったらしい。


そして、それ()は私の目的の一つでもあるわけだ。


「ならば、一撃でも貴方に攻撃が通ったのなら、私の勝ちにしてくれませんか?なにせ、私は生まれてから、今、初めて剣に触れましたし」


それは、馬鹿にしてるともいえる私の言葉に彼はやはり少し怒気を発した。


けれども、ここまできたら戦わないなんて選択肢はないわけだ。


「いいでしょう。けれど、もし僕に攻撃が通らず君が負けたのならば、大人しくしていてくれよ」


その言葉はもちろんわかっていたこと。だから、私はわかりましたわと返して、そして決闘が始まる。


まず私は彼のことを見る。


そして彼も私のことを見る。


それが数秒続く。


私に攻撃してこいといってるんでしょうね。


どんな攻撃をしてきても返す自信があるのでしょう。


ならば、その作戦を崩してあげましょう。


わたしは彼に集中する。そして頭の中で魔法を唱える。


【ステータスオ・・


しかし、魔力を感じ取ったのか、彼は見守る態勢だったのを変えてこちらに近寄ってきた。


このまま魔法を発動すれば、私は一瞬のうちに負けてしまうだろう。


しかし、もともと魔法を発動するつもりなんてなかった。


こうやって魔法を発動すれば彼がこうするとわかっていたから。


私は彼の事をずっと見ていた。


彼が足で地面を蹴るところも、剣を振り始める姿も。


私には、筋力だけはそれなりにあるのだ。


ないのは剣を振るう経験。


だからこそ、こうやって熟練者の技を見て盗むしかない。


そして、それを真似しただけでは敵わないのもわかる。


けれども、それさえも作戦の一つならば・・


私の前には、あと1秒もしないうちに剣を振りきるであろう彼がいる。


普通ならここで、後ろに下がるか、その場で剣を振るって防ぐかするのだろう。


けれど、私は彼がしたように足で地面を蹴り前に出る。


そして、そのまま彼がしたように振るう。


彼は一瞬驚き、しかし、こちらがケガしないように、私に直接当たらないように、剣の軌道を私の剣に変えてきた。


さすがは騎士候補生ですね。無礼なことを言う、そして仲間に呪いの魔法を使ってるかもしれない少女に、ここまであまくしてくれるだなんて。


だからこそ、あなたの負けです。


剣同士が触れる瞬間に、私は剣を離して、そのまま態勢をかがめて、ボクシングスタイルになって、そのまま拳を振るう。


そして、それは見事彼に当たり、彼はそのまま後ろに少し吹き飛ぶ。


しかし、さすがは候補生の頭というのだろうか。尻もちまではつかずに、いつでもこちらの動きについていける状態に保っている。


私の剣は、先ほど剣を離したときに、そのまま彼の剣とぶつかった勢いで、どっかに飛んで行ってしまった。


だから、このまま続ければ私の負けなのだろう。


が、しかし。


「私の勝ちでいいですよね?」


一撃は攻撃を与えたのだ。そして、その一撃は剣での一撃とは一言も言っていない。


たとえ拳であっても、攻撃は攻撃だ。後ろに少しでも吹き飛んだことがそれを証明している。


「・・・、ああ、いいだろう・・」


彼は悔しそうにそう答えた。


うまくいきすぎてるかもしれませんが、それでも勝ちは勝ちですからね。


「これからよろしくお願いします」


わたしは笑顔で彼にそう言った。


周りは私がハンデ付きとはいえ勝ったことに驚いているようだ。


しかし、そんなの関係ない。


「ああ、よろしくな」


彼も渋々そう言ってくれた。


「さて、とりあえず今朝はこれで失礼しますわ。」


このままここにいても、訓練はできないでしょうし、時期にクラスの朝礼も始まります。


身なりも整えなければなりませんし、早々に失礼することにしました。


「それでは、また放課後に。ごきげんようですわ。さて、いきますわよ。ヴァン」


私は優雅に淑女の挨拶をして、そのままずっと訓練場の入り口の端にいたヴァンと共に教室に向かうのであった。

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