5話 俺と神獣
5話 俺と神獣
俺は、空を見るのを止め周りを見る。
そこは、森だった。
俺がいたのは、山の傾斜にあった洞窟だった。
そして、大声をあげた所為でナニカが近ずいてきた。
数秒後には着くだろうナニカは、おそらく強いだろう。
それでもよかった、だって一度は死んだ体だから。
もう死ぬ痛みも、死の恐怖も何も怖くなかった。
そして、それはやってきた。
それは、狼のようで少し違っていた。
体調は4メートルは有り、綺麗な白銀な毛並み。
大きな白銀の双眸に、大きい牙。
狼にしては大きく、体には白い稲妻を纏っていた。
それは、狼と言うには大きすぎて。
まるで、あの時あった女神のようで。
でも、女神よりもっと偉大な、そんな狼だった。
そしてその狼は、俺の事を品定めするように見る。
まるで、全てを見透かし見通されてる気がする。
そして、吠えるわけでもなく静かに見据える。
どの位経っただろう。
数十秒かもしれないし、数時間かもしれない。
お互いの目を見つずける。
まるで時が止まっているかの様に。
そして、そのこう着状態を崩したのは狼だった。
狼は、ゆっくりと静かに前足を前に出し、体を地面につける。
狼は、前足に顔を置き目を瞑る。
何かを考える様に目を瞑り、そしてゆっくりと開ける。
そして、予想外の事が起きる。
『人の子よ、汝はなんだ』
俺は、別の意味で時が止まった気持ちになった。
だって、俺と狼しか居ない筈の空間に、俺以外の声がしたから。
俺は、口をパクパクさせ口を大きく開ける。
『人の子よ、なんて顔をしている』
また喋った。ふはは
「喋った」
あ。
口に出してしまった。
『何を言っている。我は創造神様が唯一お造りになられた神獣ぞ』
ふはは、本当に喋ってる。
それも、創造神が作った神獣だって。
創造神って、全てを作った神だっけ?
それに、神獣か。
『それよりも答えよ人の子。汝はなんだ』
俺は意味がわからなかった。
だから俺はこう答える。
「あなたの質問に俺は答える事ができない」
『ほお、なぜだ』
「それは、俺が俺だからだ。他の何者でもないから」
俺の答えに狼は少し驚いていた。
俺は、何に驚いているか分からなかった。
『そうか、汝もそう答えるか。クカカ」
狼は、少し嬉しそうだった。
いや、正確には俺にはそう捉えられた、
『汝は、これから何をする」
また難しい質問だ。
だが、その質問も答えは決まっている。
「何……か。決まっている」
「俺は、俺の為に何かをする。全て俺だけの為に」
そして、また狼は驚いていた。
俺にはそう見えた、なぜか見えてしまった。
『クカカ。何処までも奴と同じ事を言うな」
狼が言う『奴』が、誰を指しているのか分からなかった。
それでも、狼が喜んでいると言う事だけは確かに分かった。
『なあ、人の子よ。我をお前の旅に連れていってはくれないか』
今度は、俺が驚いた。
神獣。神の獣が俺に付いて来ると言うのだ。
『我はな、人の子。1000年前に汝にした質問と同じ質問をある人間にしたのだ』
狼は、嬉しそうであり悲しそうであり、悔しそうであり誇らしそうだった。
そして、昔の事を懐かしそうに語り出した。
『その人間はな、所謂『無能力者』だったのだ。なんのスキルも魔法も持たず、それゆえ周りからは忌み嫌われていた。蔑まれ、嬲られそして捨てられた。
そして、その人間は狂ったように”強さ”を求めた。強くなれば皆に認めてもらえると思ったのだろうな。だが違った、その人間は”無能力者”だと言うのに、世界最強の能力者を倒してしまったのだ。それ故、違う意味で忌み嫌われた。
それは恐怖であり、畏怖であった。そして、世界中の人間からこう言われたそうだ。『怪物・悪魔・化け物』とな。
そして、その人間は強さを求める事をやめた。強くても、強くなくても忌み嫌われるのならば、強さを求めても意味がないと。
それからは、強くなる為ではなく、自分の為に自分を鍛えだした。
そして、その人間は70歳まで自分を鍛えつずけた。そして、老いてなお世界で奴以上に強い人間は現れる事はなかった。
我はな、その人間の人生を見ていた訳ではない。その人間が死ぬ少し前に、その人
間が居た世界に行ったのだ。我もその時は強者を求めていたのでな。
世界中を探し回り、見つけた時は驚いた。魔力が一切ないのに、我と拮抗する強さを持っていたのでな。そしてその時、汝にした質問と同じ質問をした。
今でも鮮明に覚えている。奴との会話は、一生忘れられないだろう。
『なあ、人の子よ。汝はなんだ?』
『なにだぁ?んなもん決まってんだろ。俺は俺だ、それ以外何があんだぁ』
我はな、それを聞いた時天地がひっくり返った様な気がしたわ。
それまでの我は、創造神様が作って下さった為に、創造神様の為に強くなろうとしていた。それも間違ってはいないだろうな。だが、奴の話を聞いた時、我はなんて空虚なんだろうと思った。人の為に強く成る。何かの為に強く成る。いいだろう、
立派な事だ。だが、自分の為に強く成る奴には一生勝てないと、その時思った。
だから、また聞いた。死ぬ寸前の奴に、お前と同じ質問をな。
『汝は、これから何をする」
「何をかぁ。俺は、死ぬまで俺の為に俺の為だけに何かをする。俺の”強さ”は、全て俺の為だけに使う。あたりめーの事だろ」
奴は、本当にお前と同じ事を言っていたよ。今のお前の状況と、奴の昔の状況はにているのだろう。だから、我はお前に聞いたのだ。
そして、汝は奴と同じ事を言った。ハッキリ言って驚いたわ。そして、汝の近くで汝が進む人生を我は近くで見てみたいのだ。改めて聞く、ついていっても良いか』
俺は、正直に言うと、涙が出そうになった。
俺は、俺の今の感情を理解できなかった。
俺と似た人間が居たから悲しいのか、俺が辿るだろう人生を聞いたからか。
でも、悲しいと思った。
そして、狼に聞かれた質問の答えは決まった。
「もし、お前の言っている事が嘘だったら、俺はお前をどんな手を使っても殺すぞ」
俺は、初めて自分の為以外に怒った。
なんで怒ったのかわから無いし、分かる事は無いだろう。
そして、自分の声が思った以上に低く殺気立っていた事に驚いた。
そしてそれは、神獣を怯えさせる程に殺気を出していた。
『は、ははは。我は嘘は言わぬ。創造神様に誓って、今までの話は真だ』
「そうか、じゃあ付いて来ればいいさ。俺は、したい事をしたいようにするだけだ」
俺がそう言うと、狼は嬉しそうに笑っていた。
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