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学校の聖域  作者: 田仲真尋
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宣言

樹の宣言は莉緒や直にとって衝撃的なものだった。


「それは無理よ。だいたい樹君は途中からの参加で、私たちの半分しか聖域に行けないのよ。」


「僕もそう思う。さすがにそれは無理だ。」


しかし樹は余裕の表情を浮かべていた。単なる思いつきか、と二人は思ったが、その目には確固たる自信を覗かせていた。


「じゃあ、俺と賭けをせえへんか。二人とも。」


莉緒と直は顔を見合わせた。そして興味を示した。

しかし、二人の興味には若干のズレがあった。莉緒の場合、やれるものならやってみなさいよという感じだ。しかし直は、樹ならやるかもしれないという期待感であった。


「何を賭けるの?」


樹は、それを考えてはいなかったような態度で、

「ああ、そうやな。ベタやけど勝った方のいうことを一つだけ、何でも聞くっていうのはどうやろ?」と、答えた。


二人は、「乗った!」と、声を揃えた。



鳥組に聖域の順番が回ってきた。樹が学校へ着くと、すぐに莉緒が寄ってきた。


「樹君。きょうはスロットマシンが、お勧めだよ。」


「ほんまに、ありがとう。」


前回と同じように体育館に集まって地下へ降りる。今回は鳥組の生徒しかいない。学年集会はなしだ。

樹は莉緒を視界の端に捉えた。かなり集中している様子だ。この間のテストでは相当、点数が悪かったと言っていたので自分なりの作戦でも練っているのだろう。


ほどなくして、

「お待たせしました。これより開店になります。なお、中に入られたら私語厳禁でお願い致します。」と、前回とは違う三十代前半くらいの男が自動ドアの前で声を上げていた。


生徒たちは音もなく移動を開始した。その先頭付近には、莉緒の姿があった。直は休憩所に留まるみたいだ。樹に向けて軽く手を上げていた。それに樹も応えて、いざ聖域へ。


莉緒は迷っていた。今日はスロットマシンが良い筈だ。その根拠は前回、当たりが出ていなかったから。莉緒は候補の二台、どちらにするか迷って手前の台に決めた。ふと見ると先程、莉緒が迷っていた奥の方の台に樹が座っていた。莉緒の脆弱な予想を信じたのだろう。

莉緒は心の中で「頑張って」と、呟いた。



「――五時になりました。生徒の皆さんは速やかに体育館へ、お戻りください。」


場内アナウンスが流れ、生徒たちは聖域を出ていく。樹も席を立ち、大きく背伸びをしてから後にした。


体育館での点呼が終わり解散した直後だった。


「樹君。どうだった?」


「俺はあかん。全部負けてもうて無一文って感じやな。莉緒ちゃんはどうやったん?」


「勝ったよ。ってか点数は残してるんだよね?」


「いや。全部使ってもうた。」


「ゼロってこと!?何点あったの?」


「九十八点。」


莉緒は体から血の気が引いていくのを自覚した。


「どうして全部使っちゃうのよ。ゼロになったということは運を持ち合わせていない上に冷製な判断ができない人ってレッテルが貼られるのよ。この先、相当盛り返さないと留年しちゃうよ。」


「ええ、まじで?そら、やばいな。」


莉緒は能天気な樹に愕然としながらも、どこかホッともしていた。もし自分が樹の座った方に座っていたら……。そんな風に考えると他人事ではない気がしたのであった。


その後、二人は別々に電車に乗り同じ駅で下車した。莉緒は樹に対して罪悪感のようなものを抱いていた。辺りをさっと見回して、同じ学校の生徒が居ないか確認してから樹に声をかけた。


「樹君。今から少し時間ある?」


「莉緒ちゃん。もちろん、あるで。」


二人は以前、訪れた公園へと無言で歩いた。そして公園に着くなり莉緒は樹の方へと向き直り、

「樹君。今日はごめんなさい。」と、頭をさげた。


「どうしてん、急に?」


「だって……私が朝、余計なこと言ったから……スロットマシンなんかに行ったんでしょ。」


「謝らんでええよ。俺が勝手に行って自爆しただけやん。」


莉緒は心苦しかった。本当は言わなくていいことまで言ってしまう。


「実は私、樹君が座った台と自分が座っていた台と、凄く迷ったんだ。それで私の方が当たりを引いちゃったみたいで……なんか、ごめん。」


「ハハハ。そんなん関係ないやん――素直なんやな莉緒ちゃんは。」


莉緒は人に素直だ、なんて言ってもらったことがない。むしろ、その逆にひねくれている、とはよく言われた。


「もし、俺が外れの方を引いて莉緒ちゃんの役に立っていたんやったら、俺は嬉しいで。」


「――えっ?」


樹は莉緒の頭をポンポンと軽く叩いた。体中の熱が全て顔に集まっていく。恐らく真っ赤になっているのだろう。もう、樹の顔をまともに見れない。


「大丈夫やで。俺は有言実行する男や。残り三回でトップになるで。だから莉緒ちゃんも頑張りや。」


莉緒はうつむいたまま沈黙を貫き、ただただ頷いた。







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