長旅
1
「Omni、お前何ができるんだ?」
「宇宙船の操縦全般、人命救助や脱出用の装備もある。」
「じゃあ、できないことは?」
「その質問に答えること。」
「ユーモアも備えてるとは驚きだ。」
2
「ぼくは犬が好きなんだ。」
「犬に変形はできない。」
「鳴き真似とかは?」
「ダウンロードしとくよ。」
「それなら鳴き真似じゃなくていいんだ。」
3
「Omni、今夜のオカズを見繕って欲しいんだ。」
「オカズ?」
「夜のお供ってことさ。ほら、ここって女の子がいないだろ?」
「オスもいないと思うけど?ご要望は?」
「女の子がよく鳴くやつ。毛が短くて色白が好みだ。」
「オーケー。ワンワン鳴くのをダウンロードしとくよ。」
「今求めてるのは犬じゃないんだ。」
4.1
「Omni、例のムービーは?」
「ダウンロードして、きみのポータブルデバイスに転送済みだよ。」
「サンキュー。ちゃんと人間だろうな?」
「大丈夫。求めてたものに違いないよ。」
「助かるよ。」
4.2
「どうだった?ちゃんと鳴いてただろ?」
「あー...コスプレモノとは恐れ入ったよ。」
5.1
「Omni、このデータを本部へ。あとこれを家族に。」
「了解、家族へメッセージは?」
「パパは元気ですとだけ、あとはムービーを見たら伝わるから。」
「そのメッセージはいかがなものかな。」
「何も問題ないよ?」
5.2
「しまった!あれは昨日のあのムービーデータじゃないか!」
「だから言ったろう。そのメッセージでいいのかと。」
「気付いてたんなら言ってくれよ!家族にあんなの見られたらお終いだ!」
「そんなに思い詰めることはないよ。娘たちも、パパのパパが元気だと知ってさぞ喜ぶだろう。」
「最悪だ...このポンコツ!」
「さて、保留しておいたメールを早く送ってしまおうか。」
「ああOmni、きみは世界一のAIだ。」
「調子のいい人だ。」
6
「そういえばきみ、どうやって動いてるの?」
「バッテリー。最新の技術が小型化と大容量化を実現してる。」
「そりゃすごい。充電式?」
「たまに充電してるよ。」
「見たことないな、いつのまに?」
「あなたが部屋にこもって、しこしこ放電してる間。」
「どうりで。」
7
「あとどのくらいで目的地?」
「まだまだかかる。言っていいの?」
「構わないよ。」
「23年3ヶ月。」
「次からぼくが言えって言っても言わないでくれ。」
「了解キャプテン。」
8
「娘さんからメッセージが届いてるよ。」
「なんて?」
「...。」
「それは言えよ。」
「結婚するって。」
「聞くんじゃなかった。」
「言わんこっちゃない。」
9.1
「パパの知らない間に結婚なんて許さないぞ!」
「だからってどうしようもないよ。もう木星も過ぎた。」
「うちは今何時だ?」
「午後2時かな。」
「娘に電話繋いでくれ!」
「やめとけよ。」
「いいから!」
9.2
「どうだった?」
「昼間からヤってたみたい...。」
「だから言ったのに。」
「次こそ従うよ...。」
10
「軌道上に小惑星。どうする?キャプテン。」
「距離は?」
「まだ余裕がある。到達まで45分。」
「よし、考える時間は十分にあるね。」
「そういえばキャプテン、娘さんがこの前の男のことは旦那には黙っててくれってさ。」
「よし、あの小惑星は撃ち落そう。」
「だと思ったよ。」
11
「こうも宇宙食ばかりだとハンバーガーが恋しくなるね。」
「用意しようか?」
「どうやって?」
「3Dプリンター。」
12
「目的地まで物資は足りる?」
「ティッシュだけは足りなくなるかも。」
「...自重するよ。」
「ストレスが溜まるのはわかるよ。」
13
「この宇宙船の空気や水の管理ってどうなってるの?」
「全て私が。」
「きみがいなくなるとどうなる?」
「1週間以内に水が足りなくなる。」
「壊れたりしないでよ?」
「あなたの自我とどっちが先かな。」
「怖いことを言うなよ。」
「申し訳ない。」
14
「ぼくはどうしてこの船に1人で乗っているのだろう。」
「ある場所に突如発生した地球に似た星の調査のため。それに、1人ではない。コールドスリープ状態の人間が何人も乗ってる。」
「誰か起きてくれないかな。」
「自由にムービーを見れなくなるぞ。」
「寝ててもらおう。」
「あなたは性欲の権化だ。」
15.1
「やっと到着か。長かった。」
「キャプテン、この星には人類は存在しないが、ヨーロッパ系女性に似た容貌の女性のみの種族が多数存在しているようだ。」
「文明のレベルは?」
「初期の人類程度かと。」
「最高じゃないか。」
15.2
「という夢を見たんだ。」
「まさに夢だな。」
「えっ、正夢?」
「言ってない。」
16
「いるかな?人みたいな生命体。」
「いないとは言い切れない。地球に似た環境の星だ。」
「美女は?」
「いないことを祈る。」
「なんだよそれ。」
「あなたが仕事をしなくなるからだ。」
「確かに。」