表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2015年/短編まとめ

微睡めもしない

作者: 文崎 美生

寝息は聞こえてこない。

ただ窓に頭を当てたまま、静かに目を閉じている彼女は多分寝ているはずだ。

彼女の授業中のポーズはだいたいこれ。

右手で頬杖をついて、頭を左の窓側へと傾けて静かに目を閉じる。

そうじゃなかったら目を開いて黒板と担当教科の先生とノートを交互に見る。


だけど、そんな眠る体制でもチャイムと同時に目を開ける。

チャイムよりも先に担当教科の教師が声をかけても、パカリ、と目を開くのだ。

その度に寝起きがいいんだ、なんて思っていた。


「……何」


そう思っていたら隣の席の彼女が、いつもの体制のまま目を開けて口を開いた。

授業中とあってか小さくて低めの声。

長いまつ毛に縁どられた瞳が俺を映している。

言葉が喉の奥で絡まって出てこなかった。


彼女は面倒そうに息を一つ吐いてから、窓側に寄せていた体を起こす。

寝起きの気だるさを見せることなく、サッサと指先で髪を撫で付けてからもう一度俺に「何」と問いかけた。

問うというよりは尋問に近い気がするのはきのせいだろうか。

俺が気にしすぎなだけだろうか。


「あっ、と……寝起き、良いんだ」


絡みに絡んだ結果に喉から飛び出してきたのは、こんな言葉で彼女も眉を寄せた。

現在五時間目。

昼食も取り終わり、眠くなってくる時間におじいちゃん先生の現代文。

子守唄のように聞こえてしまい、机に突っ伏しているクラスメイトが多数。


彼女もその状況を確認するように、教室全体に視線を泳がせてから黒板を見た。

今日は授業の頭から寝ていたから、きっと板書なんて一切してないのだろう。

彼女は大して気にした様子もなくノートを閉じる。


「寝てないし」


「え?」


ノートを閉じてから俺を見た彼女がそう言った。

だから俺は首を傾げる。

そうすると彼女は同じ言葉を繰り返す。

「寝てないし」と「寝てるなんて言ってない」と。

減らず口だとは思うけど、それ以前に寝てないってどういうことだ。


彼女は頬杖をついて目を細める。

うつらうつらと船を漕ぎながら「寝れない」と一言。

猫みたいな犬歯剥き出しの欠伸をする彼女は、本当に眠そうだった。


「人の気配とか、物音とかそういうのある場所で寝られる人とか信じられない」


そっと目を閉じる。

そうすれば長いまつ毛が伏せられて彫刻のようだった。

彼女の寝息にもならないそれは一定ではない。

寝息のように穏やかにはならない。


人の気配で眠れない。

物音で眠れない。

神経質なだけか、それとも癖になっているのか。

彼女は良く分からないけれど、相変わらずいつもと同じ体制で目を閉じている。


「お休みなさい」


何となくかけた声に、彼女のまつ毛が微かに震えたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ