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07



 その後ケイトは、神殿の朝のお務めに行った。


 その中には歌唱や踊りなどの稽古も含まれるそうで、ケイトは、


「一緒に稽古すれば、悩みとかも吹っ飛んじゃうわよ、どう?」


 と誘ってきたけど、皆とじゃなく、二人っきりで稽古したいな、と笑って断った。


 ぼくの返事に、ケイトは、ばか、と一言笑い、部屋を後にした。


 ケイトがお務め中、ぼくは部屋で一人で待つことにした。


 ……ベッドで横になって、少し目を閉じていよう。


 おやすみ。


 目を閉じて、深い闇の中へと進む。


 しばらくして。ぼくは自分の声を聞いた。遠くから、しかしはっきりと。


 ──ジョン・ドゥを、殺せ。


 その声に、ぼくは目を大きく見開いた。


 ……夢か。


 ぼくはゆっくりと起き上がる。その時だった。


「ジャービス様、ただいま帰りましたわ。ちょっと着替えますわね」


 風呂場の方からケイトの声がした。そして衣擦れの音。


 ケイトが、神殿でのおつとめを終えたようだ。


 衣擦れの音とともに、昨日見たケイトの初々しい裸体を思い出す。


 昨日、あの先に行きたかったのに。


 しばらくして衣擦れの音が止まったので、ぼくは呼びかける。


「ケイト、支度はできた……」


「ええ、出来ましたわ」


 ケイトが部屋の脱衣所から出てくると、巫女姿とは全く違った姿がそこにはあった。


 地味な緑色を主体とした旅の装いだ。この装いも、うん、似合ってる。


 ぼくも、外套に長期旅行用の上着を着て、背負袋を背負った冒険者の格好だ。


「じゃあ、行こうか。ディレン達が下で待ってる」


「ええ」


 ぼくらは部屋を出て、昨日の戦いの傷跡が残る大玄関へと向かう。


 ぼく、ケイト、ディレン達特殊部隊の面々は、街での聴きこみと、街にある術法制御用塔の破壊についての調査をするために、街へと出て行くのだ。


 むろん、正体は隠して、だ。


 ディレン達は旅人の装いで、先に大玄関の外で待っていた。


 その時、ふと気がついた。


 なんか、人多くない、か……。外にも人が、増えている……。


 神官と、一夜の夢である巫女達、その他の職能達……。


 首をひねる暇もなく、人波が割れる。そこにいたのは。


 オアーンの大神官、それに、他の神殿の神官達。


 そして神殿街にある騎士団や組合などに所属している人達じゃないか。


 その後ろには、大勢の姫巫女達の姿も。何か大事でもあるのか。


 神官や巫女達はぼくを見つけると、一斉にぼくの方を向く。何かを求める眼差しで。


 とその中の、オアーンの大神官──夕暮れ、ケイトと一緒にいたあの女性が前に出て言った。


 クロエさん、だった、かな。

「神々から神託が下りました。巫女であるケイトを助けてくれた貴方様は、世界を救う者、救世主メッシアだと。ならば、救世主を助けるのが巫女、ひいてはオアーズパンテオンに属する、神殿の使命であり、務めです」


「え……」


「どうか。この巫女姫達を、御使いください」


 そして、大神官の後ろから、巫女の騎士や術法士ウィザード達が進み出てきた。


 その中には、影や闇、死などの自然や現象、人間の暗黒面などを司る神格達に仕える、巫女や女騎士などの姿もあった。


 巫女達の体から放たれる、香水の華やいだ香りと女体の臭いが、ぼくの鼻奥を刺激する。


 これは、まさか。ちょっと待てよ。


「これが、神託。オアーズの神々すべての総意ですか……」


 ぼくがオアーンの大神官に尋ねると、


「その通りでございます。これはオアーズすべての神々から、すべての神殿や組合、騎士団などに下された神託でございます」


 彼女はそう恭しく、ぼくに答えた。


 なんてことだ。


「で、ぼくに与えられた使命って……」


創世ジェネシスです。世界を創世し、民を約束の地に導け。それが神々のご意思です」


「創世……」


 オアーズの神々の力が封じられている今、その神託は本物なのか、と思えたけれども。


 神官達の、そして巫女達の眼は、与えられた神託を本物と信じている瞳だった。


 救世主メッシア


 世界を、グレホニアを、オアーズを救うために、神格達により選ばれし者。


 かつてこの世界が幾つもの世界とつながり、亜人や竜、魔獣達が数多く徘徊し、神格達の力もはるかに強かった頃。


 竜王の横暴、魔王の陰謀、あるいは、異界の神々の侵略。それらに対処するため、オアーズの神格達は、人間や亜人の中から、救世主とそれに従う従者、巫女、仲間達を選び、それらに対する戦いへと向かわせたという。


 時には、神格同士の戦いに、それぞれの救世主達が選ばれたらしいけれども。


 その権限は絶大で、その使命のためなら、神殿が持つ騎士団や軍隊などを、自由に動かすことができた。


 また、王や領主、貴族、富豪などにしか許されない一夫多妻──あるいは一妻多夫婚が、平民でさえ、救世主に選ばれたのなら、巫女や従者、仲間達との間で、許される。


 その救世主メッシアと、ぼくは巫女達に、神官達に呼ばれた。


 こんなぼくに、世界を救う力があるのだろうか。創世する力があるのだろうか。


 ぼくは、ブリティアの王子に過ぎない。


 世界を救う力なんて、ぼくにあるわけがないし。


 神官や巫女達は、大げさに言いすぎだ。


 そもそも、救世主に選ばれたというのは、本当なのだろうか。あやしいものだ。


 ぼくは、自分の拳をじっと見つめる。


 たしかにぼくは、巫女達を使いたいとは頼んだ。


 だけど、救世主に選ばれるとは想定外だ。


 本当かどうか疑わしい話に乗ってもいいものなのだろうか。


 ぼくは大神官達に騙されているんじゃないだろうか。


 利用されてるんじゃないだろうか。


 ……でも。けれども。


 断る利点も特にない、か。


 ぼくはこの神殿に泊まらせてもらっている身だ。


 もしかすると長期滞在するかもしれない。


 それで巫女や神官達の頼みを断ったりしたら、心象が悪くなるだけだ。


 最悪、神殿を追い出されるかもしれない。


 そうなったら、本当にどこに行けばいいのかわからなくなる。


 これから出かけるにしても。


 一応、ディレン達が護衛をしているけれど。


 もしディレン達がいない時に、なにかあったりしたらいけない。


 そんな時、巫女達がいれば、助けてもらえるかもしれない。


 もともと利用するはずだったし。


 ……うん。ここは申し出を受けておくべきだ。そうしよう。


 例え嘘だとしても、ぼくらの目的達成に利用できるのならば、何でも利用してみるべきだ。


 それにぼくには理由がある。


 重ね重ね言うが、ルイム十五世に、ぼくはケイトと枕を重ねるのを邪魔された。


 それだけでも、彼は万死に値する。


 さらに付け加えるなら、ケイトを始めとする、大勢の美しい女性達と一緒にいるのは、とっても楽しいし。


 そんな一緒にいて楽しいケイトや巫女達が、ルイム十五世やジョン・ドゥなどによって苦しめられているのなら、その悩みを解決してあげるべきだ。


「せっかく申し出てくれたのですから、喜んでお受けいたします」


 ぼくがそう言うと、巫女達は一様に喜びの顔を見せた。


 が、ケイトはちょっぴりすねた顔をのぞかせていた。


 なんだよ、ケイト。そんなにすねちゃって。


 でも。そんなケイトは、可愛いと思うけどな。


 そんな事を思い、心のなかで笑った時だった。


「ケイティニア姫様」


 オアーン神の大神官が、厳かな声でケイトに呼びかける。


 その口調に、思わずケイトは背筋を伸ばす。


 王族らしい、美しく力の入った背の伸ばし方だ。


「な、何でしょうか……」


 恐る恐る尋ねるケイト。すると、彼女はこう続けた。


「姫様、神々はあなたを『救世主メッシア正姫巫女メディウム」にご指名なされました。以後、救世主様に仕え、巫女姫メイデン達を指揮しなさい。宜しいですね?」


 その思いがけない通告を聞いた瞬間、ケイトの眼と口は大きく見開かれた。そして数瞬の後、体全身を震わせ両腕をブンブンと振りながら、


「ち、ちちちょ、ちょっとなぜですか! わたくしはそういう柄ではございません!」


 と言い、続けて、


「辞退します! わたくし、メディウムの責務を辞退させていただきます!」


 と言いながら数歩後ろへ下がりながらお辞儀する。


 ぼくの顔も、多分似たようなものだった。


 なんでだよ。なぜケイトがぼくの正姫巫女って……。ちょっと。


 と、ぼくはなにか声を上げようとした時だった。


 周囲にいたそれぞれの神殿の巫女達が、施しに集まる貧民達のように神官達の周りへと、わっと集まった。そして、


「どうしてですか!」


「やっぱり彼女なんですか!」


「ケイトがメディウムでいいんですか!」


「納得がいきません! 大神官様、再考をお願い致します!」


「それに、こんな空から落ちてきても死なない類人猿みたいな男に、救世主を任せても良いのですか!? 私ちょっと怖いですよ!」


「本当に神々は、この男を救世主にお選びになられたんですか!? 神々って本当はボンクラじゃないでしょうか!?」


 と口々に叫びながら、大神官達に詰め寄っていた。


 やっぱりぼくを疑わしいと思っているんだな。まあ、仕方がない。


 というかその悪口の言い方って、ちょっと問題あるよね……。


 ケイトは他の巫女達の抗議を、ただ顔を青くして黙って見つめている。


 巫女達の太鼓を叩くかのような抗議の声を、大神官達は黙っていたけれども。



 やがて口を開くと、


「理由はただひとつです。神々がジャービス殿を救世主に選び、ケイト嬢を相方としてお選びになったからです。それは神々の総意であり、運命なのです」


 私情も感情も挟まず、答えた。


 運命かよ。あのシュレナとやらが言っていたことと同じじゃないか。


 そう思った時、今度は鋭く大きな声が飛んだ。


 酒場で出会ったオアーン神殿の顔、シュレナ先生その人だ。


 彼女の周りには、幾人もの巫女が控えていた。


 戦士や術法士の巫女がいるのは勿論だが、戦場では爆破などを担当する〈戦場工兵ウォー・エンジニア〉の巫女。瞬間移動テレポート術法を専門とする〈瞬間移動術士ウェイファーラー〉の巫女の姿もあった。


 こんな職能の巫女までいるのか。この神殿街は本当に人材が豊富だな。


「あんた達! それでも神々に仕える巫女かい!? 信仰篤きものなら、救世主と正姫巫女に仕えるのは、巫女として最大の喜びだろうに! ……文句があるなら、あたしにかかってくるがいいさ!」


 シュレナの言葉に、その場が静まり返る。まるで朝の人なき道のように。


 そしてしばらくの後、その静けさは続いた。


 シュレナはその静けさを見渡すと、


「さっ、これで決まりだわね。……お前ら、神官達にしたがって、準備しな!」


「はあい……」


「……あんただって選ばれたかったくせに……」


 その言葉に、他の巫女達の多くは、蜘蛛の子のように散ってゆく。


 巫女達の様子を見るなり、シュレナは一つため息を付く。


「やれやれ、あの娘達は能力も高いし個性もあるけど、その分プライドも高くてねえ。こうして怒鳴らんといけないのさ」


 シュレナの言葉を聞いてぼくは納得した。


 シュレナはあれだな。


 貴族とかによくいる、職務に熱中しすぎて婚期を逃すタイプの女性そのものだ。


 そんなぼくの心中を知ってか知らずか、シュレナはぼくの方を向き、


「救世主様。わたくしシュレナめは、貴方様に忠誠を誓い協力を惜しまない所存であります」


 ひざまずいて頭を垂れる。その声は、遊女というよりも、聖女に思えた。


「そんなに大げさにしなくてもいいよ。でも、ありがとう」


 ぼくがそう言うと、彼女は蛇のようにすっと立ち上がり、


「で、早速だけど。救世主メッシア様、契約術式を執行するかい?」


「契約術式……」


「救世主と主姫巫女、それに、配下にある全ての巫女を術式網で繋げるという情報術式さ。これを行えば、情報の共有や呪文の共有などを行える術式なのさ」


「すべての巫女とつながるのか……」


 ぼくはその有り様を想像して、なんだかいやらしい気分になった。


「いや、今はいいよ」


 ぼくは手を左右に振った。


「それが必要な状況じゃないから。今は」


 ぼくの返事に、シュレナは嫌悪などを示すかと思ったが、さっきとまったく変わらぬ笑みで、


「……ああ、救世主様の意志を尊重するよ。でもね。いつかあたしらとつながる時が来る。そのことを覚えておきな。救世主様」


 そう言いながら、シュレナはぼくらに背を向けて去っていった。


 つながる時が来る、か。


 ぼくは彼女の言葉を反芻しながら、ケイトの方へと振り返る。


 彼女は先程よりだいぶ落ち着いたようだった。


 それにホッとして、ぼくは冗談めかして言う。


「どう、主姫巫女に選ばれた気分は……」


「どうにもこうにも、生きた心地がしませんわよ! あー、主姫巫女ってほんとうに大変なんですわよ! 皆の指導者にならなきゃいけないんですから!」


「まあまあ。あのシュレナとか、神殿の人達も支援してくれるみたいだし……」


「そのシュレナさんが、わたくしは苦手なのです!」


「なんで苦手なんだ……」


「だっていつも学院でしごくから……」


「ああ、そういうことか。まあ、主姫巫女になったんだし、仕返しでこき使ってやれ」


「逆にこき使われそうで……」


 ため息をつくケイトを見て、ぼくは微笑んだ。


 そして。巫女達も、旅装束で待っていた。


 巫女達はぼくを見かけると、恭しくお辞儀をした。


「おはようございます。救世主さま」


「おはようございます、みなさん」


 挨拶を交わし合い、それからあたりを見渡す。


 通りのあちらこちらでに、神官などを中心として巫女達が集まり、話し合っている。


 その中の数人が、ぼくの方をちらりと見る。その瞳は必ずしも好意的ではなさそうだ。


 やれやれ。苦労しそうだ。ぼくはその光景から、目を背ける。


 この状況を、心の何処かで否定するぼくがいる。


 もう一方で、この状況を利用せよとささやくぼくがいる。


 お前は誰だ、と心の奥底に呼びかける。返事はない。


 その声を振り切るかのように、ぼくはもう一度その光景に向き直る。


 ことはどうあれ、ぼくは巫女達を、ケイト達を導いていかなければならない。


 それが世界を救う、救世主メッシアの役割なのだろう。例え偽りだとしても。


 恨みは、晴らさなきゃならないし。


 ぼくは、強く拳を握りしめた。


                     *



 空は、灰色のじゅうたんを敷き詰めたような色。


 午後には、雨が降り出しそうな感じだ。


 そしてその下にある街は、花の街と呼ばれた面影は薄れ、退廃が支配している。


 ぼくとケイトと姫巫女達は、旅人あるいは冒険者の装いで、パリスの街を歩いていた。


 ついでにディレン達もいる。


「どこもかしこも、チンピラと革命家と売春婦でいっぱいでいやがりますね……」


 ディレンがあたりを見回しては、うんざりとしたように悪態をつく。


 ぼくとケイト達巫女は、同時に顔をしかめた。


「あなたって礼儀がなってないわね!」


 ケイトが、軽くディレンを蹴飛ばした。


 蹴飛ばされた黒肌の男は、軽く悲鳴を上げる。


「ワッツ!?」


「ディレン、空気を読め」


 ぼくは、言葉を厳しくして注意する。


 とは言っても。パリスの街が荒れ気味なのは、認めざるをえない。


 神殿の、神官や騎士巫女などが警らなどを行っている風俗街、もとい神殿街を一歩出ると、とたんに空気が悪くなる。


 街には昨日会ったようなチンピラがうろつき、彼らにきわどい衣装の売春婦が朝からたかる。


 そして遠くでは、革命家達の集会の声。


 風光明媚の街として知られていたパリスの街は、どこか世界の終わりの色を帯びていた。


 昔はもっといい街の筈だった。


 パリスは綺麗で、物は豊かで、行き交う人には笑顔が絶えない。


 そんな街だと、ぼくは話に聞いていた。


ぼくは、もう一度空を見上げた。


 灰色の空の下、その天を裂くようにそびえる一本の塔。術法制御塔だ。


 あそこから発せられる術法制御用大規模術式を何とかしない限り、このパリスの街で、まともに攻撃用の術法は使えない。


「あれをなんとかしよう、か」


「そっすね」


 ディレンも隣に並んで、塔を見上げる。


 その時だった。胸にいくつもぶら下がっている小箱の一つに、見慣れないものを見かけた。


 最初は火薬式銃の弾倉かと思った。しかし、それにしては妙に小さい。


 それに、その上部に赤い鈕が付いているのが気になった。


 おかしいな。あんな装備、軍にあったっけ。


「ディレン、その小箱にあるの、なんだ……」


 ぼくの問いを聞いたディレンは、幽霊を突然見たような顔を見せ、


「あ、ああ。これはですね、ま、術導式爆弾の起爆装置でさぁ」


 と軽くそれを小箱の上から叩いた。


 ディレンの声は、どこか母親にお釣りをごまかす子供のようにも思えた。


 その時、ぼくの胸が痛くなったような気がした。


 なぜだろう、と思う間もなく。


 ディレンは、不自然なほど朗らかな声で言った。


「では、ちょっと調べてきますわー。王子はゆっくり散歩するなり、姫様とイチャイチャするなりして、吉報をお待ちくださいなー」


「ディレン!」


「じゃ、行ってきますわ。ほな、またあとで」


 なんてやつだ。


 ぼくの怒りを軽く無視して、ディレンは歩き出した。


 背中越しにぼくらに向けて右手を振ると、部下に指示する。


 部下達は自然に散らばり、それぞれの方向へと歩き出す。


 ディレンも、まるで街に溶け込むように人混みに紛れ、姿を消していった。


 ぼくとケイトは、互いに顔を見合わせる。


 他の巫女達は警戒の瞳の色を宿していた。周りにだけではない。ぼくに対してもだ。


「さて、どうしようか」


「どういたしましょうか……」


 しばらく考えていた様子のケイトだったけれども。


 いいこと思いついた、というふうな顔をして言った。


「ねえ。ここはわたくしが街を案内してあげるわ。いいところがあるのよ」


「というと」

「一緒に行きましょう」


 そう言いながら、ケイトはぼくに寄り添ってきた。


 そして、腕を絡める。服越しに、ケイトの豊満な胸の感触が伝わる。


 いきなり、なんなんだ。と思ったが、すぐに察した。


「ね。こうしていれば、恋人同士に見えるでしょう……」


 ちょっとうっとりした目で、ケイトが微笑む。


 なるほど。


 こうしていれば、政府の奴らとか、ゴロツキとかから怪しい者じゃないと思わされる、か。


「ああ」


 ぼくも笑い返した。

「じゃあ、皆様行きましょうか。まず訪ねる場所がありますので」


「はあい、ケイト、様」


 どこか不満気も混じった声。


 ケイトがそんな声を無視するかのように歩き出す。


 ぼくもその笑顔につられるように、歩き出した。


 さて。どこへ連れて行ってくれるのかな……。



                     *


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