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 ジョン・ドゥの教鞭は、未だ続く。


「その世界──演算器に、何かで直接接触できれば、世界を操作する、改変する事が可能になるかもしれない、という説がある」


「ふむ……」


「というより、術法などが、その接続する方法の一つではないか、という考え方があるのだ」


 術法が、世界などを直接変化させる方法の一つ、か。


 なるほど、言われてみればそういう効果があるものが多いな。


 ぼくは、頷きながら話を聞く。


「術法がどのように起きるかについては、まだわかっていないことが多い。信仰術法などは、神々に接触することでその効果が発揮されるという説もあるが、そうでもない場合もあって、実のところ、今でもわかってないことが多いのだ」


「だから、術法を神の業の法、神業とか神法、って呼ぶこともあるんですよね」


 巫女の一人が口を挟む。


「そのとおりだ。さすがは神に仕えし巫女、だな」


「術法が世界に接触し、変化させる手段の一つ、か……」


 ぼくは、一連の会話を聞いて、ある術法のことを考えていた。


 創造術法。そこにはないものを創り上げる、術法の体系の一つだ。


 食べ物を作ったり、壁を作ったり、家を生み出したり。


 もし。もし、それを極めたとしたら。もしかすると……。


「もし、もしも」


 ぼくは思わず、言葉を口にしていた。


「世界を操作すること、何かを創造することを極めたら。世界を創造することも、できるのかな……」


 ぼくがふと投げかけた問いに、その場にいた一同すべてがこちらを向く。


 そして沈黙が訪れる。しばらくの後、


「それは……。神の御業、じゃないですか……」


 巫女の一人が、うめいた。


彼女のうめきに、ぼくは自分の拳を強く握った。


 そう。そうだ。


 そういうものがあれば、ぼくは、神になれるのかもしれない。


 ぼくが夢見た、あの天国を創れるのかもしれない。


「でも、そういうことって、できるんでしょうか? 世界を創造することなんて……」


 別の巫女が、どこか不安げな声色で、誰にでもなく問いかける。


 そこに割り込む声が一つ。ジョン・ドゥの声だ。


「さすがだね、ジャーヴィス君。さて、その前にひとつ話をしよう」


 その声に操られるように、一斉にぼくらは彼の方を向く。


「……?」


 ぼくと巫女達は、首を傾げる。


 ぼくらを見て、ジョン・ドゥの唇の端は更に大きく歪んだ。


「我々の世界にも似たようなものがある。世界サーバー論だ。これは世界が、ネットゲームのサーバー上にあると見立て、世界のすべてを情報として捉え、別の情報などを対象に与えることで、対象を変化・変質させたりするものだ」


 何を言ってるのかわからない。


 が、世界機械論と似たようなことを言ってるのはわかる。


「意識、そして言葉、言語こそが、人を、世界を形作るものだ。そして言語が、世界機械サーバーを駆動させる」

 ジョン・ドゥは、いつの間にか持ってきた、自分のコーヒーを飲んだ。彼は続けて言う。

「その『世界機械』に介入する<ツール>がある」

「ツール……」

「<ツール>には様々なものがあってね、人の心を自由自在に操るもの、物の形や性質などを操るもの、世界の気象などを操るものなど、様々なものが存在する」


 それで。それで人々に虐殺を引き起こさせていたのか。この男は。


 ぼくは拳を強く握りしめながら、ジョン・ドゥの話を黙って聞く。


「その<ツール>のうち一つが、『裏切り者』と呼ばれる何者かによってバラバラにされ、別の形へと姿を変えたらしい」


 裏切り者。ジョン・ドゥの裏切り者。一体誰なんだろう。


 そう思いながら、黒豆茶を飲む。別段味などに変わりはない。


「その<ツール>は世界の物理法則などを改変し、蘇生術法を使わずに人を蘇らせたりできる。すべて揃えば、世界を創造することすら可能になる。まさに神になれる究極のツールだ」


 世界を創れるツール。神になれる道具……。


 ぼくの夢見る天国を創れる、奇蹟の道具。


 それが現実にあると知り、ぼくはつばを飲み込む。


「その片割れを、前タイクニア国王の娘、ケイティニア王女が持っている。我々はそれを探している、君は、それがどこにあるか知らないか?」


 ジョン・ドゥは、ぼくを見つめると、そう、さらりと言った。


 突然の問いだった。


 ぼくはその問いに、ただ一つ首を横に振り、何のことです、と返した。


「……彼女は、ルイム十六世に城を追い出された、ということだけは知っていますけど」


 男はぼくの答えに、さらに問いを重ねる。


「そういうものがもしあるとしたら、君はどうしたい?」


 ぼくは間髪入れずに、静かに、力強く答えた。


「……誰にも邪魔されない、誰も邪魔しない天国を作りたい、です」


 ぼくが、あの絵を見ていたからかもしれない。あの夢を見ていたからかもしれない。


 ともかく、この答えが、ぼくの望みだった。


 ぼくの答えに、ジョン・ドゥは顔をやや下に傾け、考え込む様子を見せた。


 しばらくして、彼は、そうか、と一言だけ答えた。


 それから、ところで、だ。と、話を急に切り替える。


「ケイティニア王女の話だがね」


「突然、なんですか」


「さっき君は、彼女がルイム十六世に城を追い出された、そう言っていたね?」


「ええ、そうですが。うわさ話ではそう聞いています」


「実は、そうではないのだよ。真実は別のところにある」


「どういうことだ……」


「彼女は父親に対する反発から、自ら望んで遊郭に行ったのだよ。なぜ反発したのかは、よくわからないがね」


「え……」


 ぼくはその告白に、心臓がドクンと高鳴った。


 やっぱりケイトは、嘘をついていたのか。ザウエナード王子の話は本当だったのか。


 ではなぜ。なぜ、ケイトは神殿にいるのか。父親に対する反発。


 どんなことに反発したのだろうか。


 身を乗り出し、その疑問を訊ねようとした時だった。


「あと、君についての話だ。ジャーヴィス王子。いや、クロヴィス王子」


 突然、ジョン・ドゥがそんなことを言ったので、一瞬、心臓が止まったかのように思えた。


 ぼくの正体を見ぬかれている。まさか、ぼくがここへ来た理由も。


 目の前の光景が歪む。頭のなかがグルグルし始める。


 吐き気が突如としてこみ上げ、吐こうとするけど、かろうじて抑える。


 何かを言おうとして、何も言えず、もがき苦しんで。


「ジャービス様っ!?」


 巫女達の驚く声が聴こえる。


 体が揺さぶられるような感覚がしたが、それがどこかぼんやりとしている。


 ようやくのことで、言葉を絞り出す。


「なぜ、ぼくのことを……。それに、クロ、ヴィス、って……」


「おや、ジャーヴィス、いや、クロヴィス王子。あなたは、自分の記憶を思い出してないのか。まあ、それがきみの罰だからなあ」


 何のことだ。ぼくの罰って。


 言ったか言えないかわからないほどの問いに、ジョン・ドゥは不気味なほどの笑顔を見せ、


「それなら、思い出させてあげよう」


 と言った。


 すると、ジョン・ドゥの胸にぶら下がっているペンダントの青い宝石が、輝きだした。その光を見つめるうちに。


 この、かがやき。


 どんどん広がって。吸い込まれていく……。


「ジャービス様っ、ジャービス様っ……!?」


 巫女達の悲鳴のような呼び声が聞こえてきたけれども、それに応えることすらできない。


 誰かに押されるように、ぼくの体が傾く。


 衝撃。圧迫される肺。呼吸ができない。


 視界が真っ暗で、姫巫女達がどうしているのかわからない。


 硬いものが打ち鳴らされる音が、次々と鳴り響く。


 そんな時、上の方から見下ろす声が響いてきた。


 ジョン・ドゥの声が。


「この男……。クロヴィス王子は、望まれない子として生まれたのだよ。クロヴィスは、皇太子が、庶民の娘である実母を誤って妊娠させて生まれた子供だった」


「クロヴィス、王子……?」


 巫女の一人から疑問の声が飛ぶ。


 突然、そこにはいないはずの人物の話が始まったからだ。


 彼女には、そう思えるに違いない。


 だが。

「その母親は、乳母的な地位で入室した。けれども、妃として認められることはなかった。皇太子が母親にクロヴィスを産ませたのは、皇太子が信仰する宗教が救世教で、胎児を堕ろすことを認めなかったからだ」


「それぐらいは知っております。知識神の神殿の新聞の保存所で見ましたわ。それが何?」


「生まれてから、クロヴィスは王族の地位を与えられて育ったが、しかし事あるごとに、庶子ということを周りに責められていた。いじめられていた」


 そうだ。


 そしてぼくをいじめていたのは……。


「特に、兄であるジャーヴィス王子にだ」


「ジャーヴィス……?」


 そこで巫女達の間からざわめきが走る。


 救世主であるぼくが、そういう人物であることに、違和感を抱いたのだろう。


 それはわかる。


「クロヴィス王子はいつの間にか、人を恐れ、卑屈になり、自分の部屋に閉じこもるようになっていた。そこにジャーヴィス王子が訪れ、引きずりだして、剣とかの稽古に付きあわせた。とはいっても、体力も技術もないクロヴィスのことだ、すぐに打ちのめされて、気がついたら地面で伸びていたそうだ」


「……」


「そんな時、乳母である母親は割って入り、止めさせようとしたが、ジャーヴィス王子は、彼女を叩き伏せて続けた」


 そんな母さんを助けられず、ぼくは、いつも自分を責めていた。歯噛みしていた。


 もっと力があれば。強大な力を持った、機械になれたら。


 神になれたら。


 新しい世界を、創れたら、と。


「そして、つい三ヶ月ほど前の事だ。クロヴィスがいつものように部屋にこもっていると、侍女が部屋に飛び込んできて言った。『乳母様が、事故に遭われました』と。母親は、随伴した狩りの途中で、誰かに誤射されたのだという。その狩りに出かけていたのは、ジャーヴィス王子達だそうだ」


 そうだ。母さんは……。


 母さんは、


「その搬送先の病院で、医者にこう告げられたそうだ。『殿下の母上には、魂が半分以上消失しています。半ば脳が死んでいるんです。生命維持術式で、かろうじて生きている状態です』と」


「それは……」


「つまり魂が壊れ、蘇生呪文でも復活できない状態だな。ま、そもそも、救世教では蘇生呪文の使用は認められていないけれどね」


 診察室。消毒液などが多量に漂い、鼻につく、部屋。


 術式の白い明かり。白衣を着た無表情な医者。机の上に投げ出された診療録カルテ


 あの時の景色が、脳裏で次々と輝き弾ける。


「そして医者はクロヴィスに告げた。殿下の母上を、このまま生かしておくか、生命維持術式を切るかどうか、とね」


「生死の選択……」


「勝手なことに父親の皇太子は決定を拒否していた。自分には権利がない。それに、救世教は蘇りを否定しているとかいう下らない理由でね。そして、母親の唯一の肉親は、クロヴィス一人。それは辛かっただろうね」


 ふざけるな。あの時、どれだけぼくが思い悩み、苦しんだのか。お前に理解できるのか。


 薄暗い病院の待合室。


 誰の付き添いもなく、一人で下を向き、長く悩み苦しんだあの長い時間。


 そして。


「クロヴィスは、術式の停止に同意した。こうして、彼の母親は死んだのだよ」


 そう。ぼくの母さんは、ぼくが殺した。ぼくの、この手で。


 すべてが終わり、病院を出て外に出た時、雨が降っていた。


 天から降る水の槍の群れは、ぼくの心に消えることのない穴を空けた。


 ぼくの心は、穴だらけになった。無数の流れ星が降り注いだ、荒野のように。


「母親の葬儀の後、クロヴィスはある疑いを持った。母親が死ぬきっかけになった、誤射事故。あれを起こしたのは、一体誰なんだろう。そしてそれは本当に事故なのか。それとも故意なんだろうか。とね。その疑いは彼の胸の中でとどまることを知らなかった。そして依頼したんだよ。あのディレンとか言う騎士にね」


「そうしたら、どうなったのです?」


「ディレンはある物を持ってきた。『滅魂弾』。これで撃たれたものは、魂がなくなるという術式の弾丸だ。これが狩りの時に使われた。無論、通常の動物相手の狩りには使われないものがね」


「じゃあ、クロヴィス王子の母親は……」


「まあそういうことだ。そして、クロヴィスはそれを使ってあることを実行した」


「まさか……!」


「そうだ。クロヴィス王子は、ジャーヴィス王子を滅魂弾で撃った。事もあろうに、宮殿の大廊下、人が大勢いる中でね」


 ジョン・ドゥの言葉を聞いて、巫女達全員が息を呑んだのを感じ取った。


 同時に記憶が、脳裏に閃光のように次々と輝く。


 外套の下から抜き出す細い腕。術導銃の冷たい銃身。引き金を引く感触。


 悲鳴さえ上げずに、そのまま後方へと倒れていく悪党王子。


 飛び散る脳漿と真っ赤な血。


 女達から上がる、バンシーのような悲鳴。逃げ出す使用人達。駆けつける騎士達。


 警備の騎士達に取り押さえられながら、ぼくは、大声で、笑っていた。


 泣きながら、笑っていた。


 それがあの時の記憶。人を殺した、重い重い記憶。


 ぼくの心に、ジョン・ドゥはさらに鋭い言葉を突きつける。


「クロヴィスは自ら死を望んだ。もう思い残すことはない。母親を殺した復讐をやり遂げたのだから、と。しかし、祖父である国王や父親の皇太子はそれを認めなかった。そして、王子に

死罪よりも重い罰を課した。そのままその罪と罰を背負ったまま、永久に生きるがいい、と」


「どんな罰を……」


 恐る恐る、巫女の一人が尋ねる。


 ジョン・ドゥは、変わらぬ教師のような口調で応える。


「クロヴィスは、記憶、意識、感情など、いわゆる『魂』が術式化され、術導演算器の記憶装置に移動され、術導演算器の中で永遠に生き続ける罰を与えられたのさ。そして必要であれば、魂が複製され、改変され、術導人間フォージドの体に複製され、様々な『刑罰』に投入された。そう……。例えば、私を殺す刑罰とかね」


「……!」


「術式化されたクロヴィスの魂の複製が、ジャーヴィス王子を原型にしたフォージドの体に移され、残っていたジャーヴィス王子の人格や記憶と融合し、暗殺用の記述などが導入され、君は暗殺用の術導人間として生まれ変わった、というわけだ。まあ、これでわかったね」


 倒れながらうめくぼくに、ジョン・ドゥの声が届く。


 そして、奴は告げた。


「君は、我々を殺すために作られた、暗殺用の人造人間フォージドだ」


 その言葉に、ぼくはとどめを刺される。


 ぼくは、お前を殺すという罰のために、創りだされた人造人間だというのか。


 ぼくは、殺人兵器、か。


 それでも。それでも、ぼくは。


「だとしても……! ぼくには心があるし、夢も見る……!」


 宣告に抗い、ぼくは声を絞り出す。立ち上がろうとしながら。


「ジャー……、メッシア様!?」


 柔らかい感触。巫女達が支えてくれているのだろう。


 こんな時になっても。こんなぼくだとしても。


 君達はまだ、ぼくを信じてくれるというのか。


 しかし、ジョン・ドゥはそれを軽くあしらう。


「心、か。ふむ。我々人間の脳も、所詮機械と変わらんよ。意識は、脳という生体機械が創り出した、入力情報のフィルタと受動反応のための、プロセッシングオペレーションシステムにすぎない」


「何を言っているのですか! あなたにはメッシア様をそう罵る資格などありません!」


 相変わらずジョン・ドゥは、教師の口調で告げる。


「夢もだ。夢は、脳の中で短期記憶を長期記憶へと移し替える時に起きる、記憶や経験の圧縮プロセッシングが機能する時に、副次的に起きる現象だ。あるレベル以上の人工知能や人工頭脳になると、似たようなシステムや現象が生じる」


「そんなこと言っても、ごまかされませんわよ!」


 破裂音。射撃系の術法が発動した音だ。


 おそらくは術法制御に引っかからない種類の術法だ。


 直後、金属を弾いたような甲高い音があたりに満ちる。


 かろうじて音がした方を見ると、ジョン・ドゥの目の前に、青い障壁があった。


 この障壁で、攻撃術法を防いだのだろう。


 ジョン・ドゥは一つため息をつき、悲しそうな顔をした。


 そして、感情のない声で告げる。

「世界が機械で再現できるように、心もまた、機械で再現できるのだよ。わかったかね? フォージド君」


「くっ……」


 冷酷に告げながらも、ジョン・ドゥは釈然としない声で、続けて言う。

「しかし……。君の性格は、アラン・スミシー達だけによって、性格などを条件付けられてはいないらしい。性格形成の際に、他の何者かによる介入を受けた様子がある」


 そのひとりごとにも近い声は、はるか遠くで聞こえているように思えた。


 意識の片隅で、かろうじて聞こえる。


 ぼくは。


「これは、彼らの手によるものか……。だとすると、アラン・スミシーも我々も、彼らの手のひらで踊っているだけにすぎないかもしれんな……」


 彼ら、って。


 ジョン・ドゥとアラン・スミシーの他に、誰か居るのか。


 そ、ん、な、こ、と、よ、り。


 ぼくは、歯を食いしばって立ち上がる。


 やるべきことを、やらなければ!


救世主メッシアさま!」


 周囲にいた姫巫女達から、悲鳴が上がる。


 彼女らに構わず、ぼくは一人ジョン・ドゥに相対する。


 ぼくの鼓動の中に。カチカチという音が混じっているのが聞こえる。


 そう。それは爆弾の音。ぼくの体の中に仕掛けられている、滅魂爆弾の音だ。


 これを起爆させれば!


 そう思い、脳内の導術表示を操作する。


 幾つもの階層を潜り、表示された、爆弾の領域。これですべてが終わる。


 これでぼくは楽になれる。


 大きく表示された、赤い点滅器を脳内で押そうとした時だった。


 ジョン・ドゥの胸できらめく、青いペンダントの光が再び強くなる。


 次の瞬間、赤い鈕の記号が消え失せ、頭痛が起きる。


「ぐわっ……!」


 ぼくは強く殴られたような頭痛に耐え切れず、画廊の床に転がる。

「国家や組織などによる自殺の強要は、過去、現在、未来、そして他の世界にわたって、賞賛されるべきものではないよ」


 ジョン・ドゥは、冷ややかな声で、ぼくに告げた。


 痛い痛い! 耐えられない!

「メッシアさま! しっかり!」


「ジャービス様っ」


 脳内術導機構システムの表示が、いくつもの赤い警告を吐き、歪んだ警告音が鳴り響く。


 ぼくは立ち上がろうとして、目の前が真っ暗になる。


 誰かに支えられる。


「メッシア様、この場は退散いたしましょう!」


 闇の中で誰かに両腕を抱えられる。


 その時、ジョン・ドゥの余裕のある声がした。


「ああ、コーヒーの支払い代がまだだったね。支払う気があるなら、私は宮殿で待っている。いつでも来るといいよ」



 まさか、あんたは──。


 ……。



                     *


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