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思い付いた話

一つ言えるのは

作者: 雨森しと

カラン。

「織、またソラが剥がれてる」

そう言いながら一人の青年が入ってきた。赤い長髪を無造作にまとめた青年だ。

「おかえり、想。え、ほんとに剥がれてた?」

最初から部屋にいた青年、織が彼を迎えた。艶のある黒髪と涼しそうな目の青年。

たったと窓に近づきソラを見上げる織。そこには雲ひとつ無い透き通った青ソラと、そこに染みのように少し広がる黒があった。小さいが、終わりの見えない、人をどことなく不安にさせるどこまでも深い黒だった。

「あ、ほんとだ。少し剥がれてるね」

「んなこと嘘ついてどうすんだよ」

「ははっ、確かに。…じゃあ、片付け終わったら直しに行こうか」

そう言って窓から顔を離し、部屋を見渡す。この部屋、二人の家なのだが、かつて倉庫と呼ばれたほど物で溢れていた。主に物を捨てられない織のせいである。

「…よくここまで片付いたな…」

「でしょう‼」

そんな倉庫、もとい家は織の頑張りでかなり片付いていた。因みに想は最初から部屋を汚さないタイプの人である。

「だから早く終わらせるために手伝って‼」

「やなこった。片付いたら直しに行かなきゃなんねぇもん。…はぁ…なんで俺たちがソラ直さなきゃなんねぇんだよ」

あぁめんどくせぇ、と窓に切り取られたソラを見た。

「…想…13年前のこと忘れたの…?」

織が片付けの手を止めて想を見た。そんなわけないよね、というニュアンスを含んだ目。

「忘れた訳じゃねぇけどさ。アレだろ?アレが降ってきたやつ」

「そう、アレ。街が真っ黒になって、真っ赤になって。聞こえる音は唸る黒と悲鳴だけ。酷かったよね。だから僕たちはもう一度アレが降ってこないようにソラを何度でも塗り直さなきゃいけないんだ」

想ではなく、自分自身に言い聞かせているようだった。

織は重くなった空気を払うように、にへらっと想に笑いかけた。

「片付け再開しようか。今度こそ手伝ってくれるよね?」

有無を言わせない笑顔。それを向けられた想は少しひきつった顔をした。

二人は片付けを再開する。

「てかさ、なんでソラが剥がれるわけ?」

片付けも終盤に差し掛かった頃。想が思い出したように織に問うた。

はい?と織のすっとんきょうな声。常識だよ?と言わんばかり傾げられた首。

「…幼年学校で習ったよね?この世界の人なら誰でも知ってるよね?」

はぁ?と、今度は想のすっとんきょうな声。んなもん習ってねぇよと言わんばかりに眉間に寄せられたシワ。

「…想、寝てたでしょ。授業聞いてなかったでしょ」

…はぁ…と織は一つため息。想らしいや、と勝手に納得して話し出す。

「えぇと、何から話そうか。そうだね、この国の歴史かな。今からずっと前、それこそ伝説とかお伽噺にあるように、国に大厄災がおこったんだ。有名だよね。大地震だか大津波、大飢饉だかそれとも全部か、厄災の内容は話によっていろいろ言われてるけど。ようは人々が絶望するようなことが起こったってこと…で…」

「織、これ捨てていいよな」

「あぁうん。ありがとう。で、そこに現れた聖者様。彼は人々の絶望を少しでも軽くしようと考えたんだ。それがソラが剥がれる原因。聖者様は人々の嫌な気持ち、つまり"負の感情"をソラへ逃がすシステムを作ったんだ。ほら、嫌なことがあったらソラを見ろって言われるでしょ?心が軽くなるよって」

「……あぁ確かに…確かにソラ見ると軽くなるわ…すげぇな聖者様…」

織は話ながらもその手は止めない。

「でしょう。ていうか幼年学校でほんとに寝てたんだ…あ、睨まないで。す、すごいのはここからだから‼聖者様はね、逃がした"負の感情"がソラを剥がすことを予想していたんだ。だからね、それに対応する術まで考えてた」

「…それが塗り直しか…」

「そう、そういうこと。剥がれたら塗り直せばいい。簡単でしょ?想でもわかるよね。因みにソラを塗り直すためのペンキって原料何か知ってる?…その顔じゃぁ知らなさそうだね。まぁこれは僕たちみたいに塗り直す人たちだけが知ってるから常識って訳じゃないんだけどさ」

「…普通のペンキじゃないのか…」

「あははっ。普通のペンキで塗り直せる訳ないよー。じゃあ教えてあげよう‼ペンキはね、人の"喜び"や、"感謝"でできてるんだよ」

「…はぁ…?ふぁんたじぃ…ってやつか?」

「いやいや、違うって。国の中央に、大きな樹があるでしょ?あの樹の、普通の樹でいう樹液が、ペンキの材料になるんだけど、その原料が"喜び"とか"感謝"。毎日この国の人々が喜んだり、ありがとうって思ったりすると、その…気持ち…感じ…ううん…上手く言えないけど、そういうものが国の中央の大樹に集まるんだよ。それが集まって樹の外に流れ出たのがペンキの原料、材料」

「はぁ…上手くできてるんだな…壮大すぎて訳わかんねぇけど…」

「そう。聖者様はそのシステムを一人で作り上げた。ほんとにすごい人だよね。こんなに進んだ時代の僕たちさえこのシステムは作れないからね…一つ言えるのは、悲しみと喜びの二つで世界は成り立ってるって言うことかな……っと…」

織は最後まで机の上に残っていた本を本棚に納めた。ことん、と心地いい音を響かせて掃除の終わりを告げる。

「終わったー‼これで直しに行けるねー‼」

二人は手早く作業着に着替える。

「あー終わっちまったー。直しに行くのか…めんどくせぇ…てか織、ほんと片付け苦手だよな。また来月これやるのかと思うと気がめいるぜ…あぁヤだヤだ」

仕事道具を持って扉を押し開ける。想はソラを見上げた。青いソラには似つかわしくない黒い染みが少し広がっていた。

「想、そんなこと言うと仕事増えちゃうよ?」

「はいはい、ご忠告どーもありがとうございますー」

「それでよし。原料が少し増えたかな?」

カラン。

…恥ずかしい…(/-\*)

稚拙すぎて恥ずかしい…

ふわふわしたファンタジーを書きたかった

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先ず独創的な発想…… 私には考えられない(ヾノ・ω・`)凄いです… 二人の会話がふんわりと世界観を作っていてとてもよかったです! [気になる点] ペンキ等に就いての説明?をもう少し簡潔に解…
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