第5話
なんかノリに乗って1日で2つも投稿しちゃった!!やったね!それではどうぞ!
「この建物は全部で5階です。1階は死亡者のルート受付で大和君もそこで働いてもらいます。2階は、主に問題のある死亡者を連れてきて部屋で事情を聞きます。3階は食堂や実験室など、4階はトレーニングルーム、5階は社長室です。何か質問は?」
歩きながら説明を淡々とこなす様はキャリアウーマンだ。
「あの…実験室って何ですか?」
「私もよく知りませんが、いろいろ役に立つものを作ってもらっています」
うわぁ、めっちゃ怪しい。人間をカエルとかに変える実験してそう。
「あっ…また喧嘩してるわ」
多分、咄嗟に出た言葉だったのだろう。ある一点を見つめる琴葉さんに俺の目線もそちらに行く。どうやら言い合いをしているようだ。それも社員同士が死亡者そっちのけで斧なんかも持ってる。
んっ……斧?
「少しここで待っていてください」
そう言い残して、1階から下へと降りていった。
1つ言っておこう。2階の廊下は手すりがあり、ガラスや壁というものがない。その手すりも人が飛び越えられるぐらいの高さである。また、1階と2階は5メートルぐらいの差がある。何が言いたいかというと…
降りたらやばいんじゃね?
着地しても捻挫とかしそうだ。そう思って下を見るとものすごく綺麗に着地していた。それはもう、どこぞのヒーローの登場シーンだ。琴葉さん、マジかっけぇ。
そのまま、喧嘩をしている2人のところまで小走りで行く。
周りの死亡者も少し呆れ気味で見ていたそれをげんこつ2発で抑えた。2発というのは同時に2人を殴ったからである。それから2人に何か言うとまた小走りでこちらに来てジャンプして戻ってきた。
もう1度言おう。1階と2階は5メートルぐらいの差がある。あるはずなのだが……
「専務はマサイ族か何かですか?」
「いえ、日本人です」
「見れば分かります」
首を傾げていても様になるなぁ…じゃなくて。
「いえ、聞いてみたかっただけです。鍛えれば、5メートルの高さから着地できたり5メートルの高さを軽々と飛び越えられたりするのかと思いまして」
「あぁ…私は鍛錬していますので。こう見えて意外と筋肉もあるんですよ」
鍛錬してあんなことできるの超人しかできません。あっ、そっか。
「超人だった」
「何か言いました?」
「いっいえ、大したことではないので」
「そう、ならいいんです。次に行きましょう」
切り替えが早い。というか、さっきのこと揉み消そうとしてる?それは無理だろう。さっきから死亡者の目が痛いほど突き刺さっているのだから。
「エレベーターは社長室と屋上専用です。あとはすべて階段で移動します」
「エレベーターは2階だけですか?」
「いえ。すべての階に取り付けてはありますがボタンが社長室と屋上、あとはダミーのボタンばかりなので」
防犯の高さがボタンだけで分かる。そんなに防犯対策をするなんて意識が高い。
死亡者が逃げ出すことなんてありえるのだろうか。
「どけどけ~!!!」
そのとき、後ろから白装束の男が走ってきた。なんつータイミング。
どうやらかなり必死なようで目が血走っている。うん、ちょっと役に立ちたいから頑張ろう。
「あっ、足が滑った」
ほぼ真横に来たとき俺は片足だけを滑らせた。すると案の定、ずっこける死亡者。
「でかした、大和君」
琴葉さんが死亡者の前でしゃがみ込み、一本背負いを披露する。ホワイトボードがその拍子で倒れる。壊れてないよな。
「助かりました」
「いえ、偶然足を滑らせただけですから」
ちょっと冗談めかして笑うと、琴葉さんは「そうね」と少し口角を上げた。
「それにしても気絶しましたよ。どうするんですか?この人」
「まぁ、他の社員が気付いてくれるでしょうし……放置です」
キリッとした顔で残酷なことを言う琴葉さん。まさかの放置である。
「起きたらやばいんじゃ…」
「大丈夫です。もう回収に来てくれたみたいですし」
そう言うと、俺の後ろを見る。俺も後ろを振り向くとそこには―――犬がいた。あっ違う違う。確か、狛…だったよな。いや、ここはなんて言えばいいんだ?
「誰だ?専務に触った死人は」
おいおい。この人、触ったじゃなくて触られた側じゃね。あいかわらず、琴葉さん大好きだな。
「狛、ここで伸びてる人よ。一応、ルートは確認しておいて。すぐに地獄行きにしないでね」
「チッ…」
地獄行きにするつもりだったのか。めっちゃ悔しそうだぞ。
「で…なんで死人がうちの課の服を着ている?」
キッと俺を睨む狛さん。さん付けはなんか違うなぁ。
「はっはじめまして。いや、違うか。えぇっと、明日からここで働くことになった大和といいます」
自己紹介と礼を1つ。やばいな、琴葉さんといるだけでも殺されそうなのに。死人がこの課に入るなんて許せないパターンかも。
「大和、か。僕は狛だ。狛先輩と呼べよ」
あぁ、先輩か!思いつかなかった。
「はっはい!狛先輩」
俺が嬉々としてそう呼ぶとなぜか尻込みする狛先輩。
「あら狛、良かったじゃない。後輩ができて」
琴葉さんは母親のような目で狛先輩を見つめる。
「ぅえぁっ…ぼっ僕はべべっ別に…よかったっなんて」
どうやら、琴葉さんの目に動揺しているようだ。顔がリンゴのように赤い。
「おっおい、し…大和!専務を傷つけたらタダじゃおかないからな!!」
そう言って、伸びた死亡者の襟を掴んで颯爽と走り去っていった。
あっ…「触るな」じゃないんだ。あと名前呼びだし。ちょっとは認められたってことかな。
「この課に勤務している期間が短いので、後輩ができて嬉しいんでしょう」
再び歩きながら琴葉さんの話を聞く。
「へぇ、意外ですね。狛先輩も死亡者なんですか?」
あんなに懐いているから琴葉さんと同期かと思った。
「まぁ…ある意味では死亡者ですが、少し違いますね」
少し困った表情の琴葉さん。
「違うって…どういうことですか?」
「彼は…『怨霊』なんです。生前、人族にひどいことをされたようで恨んでいるんですよ」
簡単に話してくれているけど、きっとそんなに単純じゃない。だって、苦しそうな顔をしていたから。
「まぁ、もともと犬族ですから懐くのは早いですね」
あぁ…今ので台無しだ。
しんみりになるのが嫌だったんだろうな。「ひどいこと」でさっきは終わらせたけど余程のことをされていなければあんな風にはならないと思う。昔は犬を生贄にすることも多かったし、今だって育てられなくなったら捨てている。
人間はなんて―――残酷なんだ。
「大和君、君は彼にひどいことをした人族とは違います。あなたが引け目を感じることはないんです。彼だって、そんな悲しい顔をするあなたより一生懸命頑張るあなたを見たいはずです」
琴葉さんはにっこりと…笑っているようにしたいんだな。すごく下手だ。口元、引き攣ってるし。
「専務は笑顔の練習を一生懸命、してくださいね」
「うっ…」と苦虫を噛み潰したような顔。自覚あったんだ。
「そっそんなことより!研修ですよ。余計な話は無用です」
「は~い」
「はい、と言いなさい」
「はい」
ちょっと分かりにくいけど多分、拗ねてる。
「他の階の詳細は後にして…屋上に行きましょう」
「えっ、意味あるんですか?」
唐突にそう言われ拍子抜ける。ていうか、ほかの階のほうに行ったほうが。
「いずれ、大和君には教育係を付けるので。その方にあとは丸投げです」
あっ、面倒くさくなったんだ。丸投げって…教育係の人、かわいそうだな。
「屋上は少し寒いので凍えないように」
「一応マフラーは巻いておきましょう」と琴葉さんはマフラーを俺に渡す。てか、どっから出したんですか!
「行きますよ」
もう、マフラーを巻いている琴葉さんはエレベーターにカードをかざしていた。ここはスルーするほうがいいのか。それとも、ツッコんだほうがいいか。
否、やめておこう。そんなことで一々質問するのも嫌がられるだろうし。
エレベーターが屋上に着くまでずっとそんなことを考えていた。
「さむっ!」
扉が開くと同時に、エレベーターに冷気が入ってくる。冬みたいだ。
「あの…ここにも四季ってあるんですか?」
「えぇ、日本ですからね。日本はどちらかというと温帯に属しますから」
たしか、中学とかで最初に習ったような気が……。
まぁ、何はともあれ…マフラー巻いててよかった。
「あの…もっと近くで見てきてもいいですか?」
「構いませんよ。落ちないように気をつけてください」
「はい」
ここからじゃほとんど何も見えない。それに琴葉さんが言っていた「ドーナツ型の建物」がとても気になる。どうなってるんだろう。
屋上の淵まで行くとそこは木がうっそうと茂っている森だった。しかし森は丸くくり抜かれた形。
屋上をぐるっと見渡してもどこか丸みを帯びている。ふむ、ドーナツ型と言われると頷ける。だがしかし、俺は思うのだ。
「バームクーヘンじゃね?」
「言われてみればそうですね」
「うわ!」
ぼそっと呟いた一言を琴葉さんに拾われる。いつからそこに!と思ったが一緒に屋上に来たんだから当たり前と言えば当たり前である。
「死亡者は上から落ちてきてこの森から建物に入りゲートをくぐっていきます」
ふーん、そうなんだぁ。あれ?
「あの…上からってもしかして空からですか?」
「空…と言われればそうですね。空です」
そう言って、人差し指を上に向ける。おそるおそる上を見上げると色とりどりの玉がゆらゆらと降ってくる。赤や黄色、紫、緑、青など様々だ。
試しに赤い玉を観察していると森の中に入って見えなくなってしまった。なんか普通に人が降ってくるイメージだったから拍子抜けだ。
「あれって何ですか?無駄に色とりどりなんてすごいですね」
「あれは死亡者の魂です。色とりどりなのはその死亡者のオーラというか、性格を表しています」
そこで眉を少し上げた琴葉さん。何かに気付いた、そんな顔だ。どうしたんだろう。
するとブツブツと何かを言っている、小さくてよく聞き取れない。
うん、魂を観察しよう。それにしても色とりどりだなぁ。
「専務、白とか黒の魂ってあるんですか?虹色とか」
おおよそ聞いていないだろうが念のため質問。
「……私の知る中でそれらの魂はごく少数の中の少数です。私も片手で足りるくらいしか見たことがありません」
「へぇ、そうなんですねぇ」
答えられたことに驚きだけど、琴葉さんでもそれぐらいしか見たことないんだ。
「あの…あっち側に行ってもいいですか?」
「……構いませんよ」
俺が反対側を指差すと、無意識に言った感じで返事が返ってきた。了承は得たし、行ってみよっと。
元来た場所に歩いていくとき少しだけ琴葉さんの声が聞き取れた。
「――――て、大和君―――なんじゃ―――――」
「何…これ……?」
思わず言葉を失うほどの光景。
建物から無数に伸びた光の線。光っていてどうなっているのかよく見えないが、何かが動いている。光の線を辿っていくとずーっと向こうまで続いて何があるのか分からない。木もなく、ただ光の線があるだけ。
「ゲートをくぐると死亡者は記憶をなくし、無意識にこの光の道を歩いていきます。疲れも感じないのでどこまでも立ち止まることなくルート先に着くのです」
てことは、動いてた何かは死亡者だったのか。
「これは駅をモチーフに作られています。電車って始まりと終わりが同じ駅が多いですよね。そこはいわば、すべての電車の中心地と言っても過言ではありません。それを利用してこの光の線はできました」
ふむふむ、この光は「線路」、死亡者は「電車」っていうことか。半分納得。
「まぁ、今のところ大和君には関係ないので変な知識入れられたなと思ってくれたらありがたいです」
「分かりました」
ていうかいつの間にいたんだろう。普通に話しちゃったけど、さっきまで考え事してましたよね。いや、聞かないぞ。
「ご満足していただけましたか?」
「えっえぇ、まぁ」
「それでは、戻りましょう。今から社宅に案内します」
「えっ社宅なんですか?」
ていうか、社宅なんてあるんですか!
「えぇ。まぁでも、自分の家がある社員以外ですが。家庭を持っている者も多いので」
「へぇ、そうなんですね。ちなみに社宅ってどんな感じなんですか?」
再びエレベーターに乗って下に降りる。
「それは行ってからのお楽しみです」
そう言って人差し指を口元に当てこめかみがピクピクと動く琴葉さんの目元。その口元は変に歪んでいた。
いたずらっ子の笑みをしたいんだな。すぐにそう思った。
休載とか言って全然そんなことなかった!!