ユーナ
前回のあらすじ:
美幼女
「それじゃあ、お兄さんは旅人さんなんですか?」
ユーナと名乗った女の子が青年に問い掛ける。猫みたいに人懐っこいなと思いつつ青年は首を軽く振って否定する。
「いーや、俺はただの傭兵だよ。今した諸国の話も雇われた先で見聞きしたものだよ」
「ようへい?」
ユーナが愛らしく首を傾げる。その様子は人に懐いた小動物のようで何とも言えない愛嬌がある。
「お金で働く兵隊の事だな」
「?でもこのお城の皆さんもお給料はもらってますよ。お城の兵士さんもようへいさんですか?」
ユーナは好奇心が掻き立てられるのか自身の疑問を青年にぶつける。
青年はユーナの澄んだ瞳を正面から見返し、純粋な問いに誠実に答える事にする。
(組織構成の人員。職務内容による差異。そもそも根本的な存在の在り方。とかは言っても分からないし、そんな答を期待してる訳ではないよな
青年は顎に手を添え数秒押し黙ると、自分の考えを口にする。
「そうだな。俺が思うにどこに誇りを持っているかじゃないか」
「..........誇り、ですか?」
「信念と言ってもいいしもっと分かり易く戦う理由とかでもいいな」
「..........」
ユーナは青年を真摯に見つめながら膝の上の子猫を優しく撫でる。丸くなっている子猫は一度だけ白い尻尾を動かすとまた眠りに落ちる。
その光景を微笑ましく思いながら青年は続きを口にする。
「国の兵士達は国や民を守る為に戦っている。勿論その中には家族や恋人、友人も入っているだろうな」
「.....そうですね」
ユーナは思い当たる節があるのか、嬉しそうに柔らかく微笑む。
白魚のようなほっそりとした人差し指を小さく可憐な唇に当てる。
「ではお兄さんのようなようへいさんは何の為に戦っているのですか?」
「自分の為だよ」
青年があっさり言い放つ。
「生きる為に金を求め、生きる為に他人を殺し、生きる為に戦場に出る」
泥臭いだろ。と自身の矛盾した生き様を語る。
ユーナは穏やかに首を横に振ると、
「生きようとする事は間違った事ではないと思います。それは誰にも否定される事ではありません。必死に生きようとする姿をわたしは眩しいと思います」
(眩しいのはこの子の笑顔だよなー)
まさしく穢れを知らないユーナに青年は笑いかける。
「ありがとな。傭兵の話は俺の個人的な考えだから参考程度にしとけな」
この少女は聡い。自分で見て感じた事を信じた方がいいだろう。
「す、すみません!わたし何にも知らないのに分かったような口を利いてっ!」
青年はわたわたと慌てるユーナの頭を優しく撫でる。
ユーナの髪はさらさらと絹のように滑らかな肌触りで心地よい。
ユーナが驚いた顔をするが青年だって驚いている。
(まさか俺が幼女趣味だったとはっ!!)
一生知りたくない自分の情報だった。唯一救われたのは、ユーナに嫌がっている様子が無いことだ。
「知らないといえば、わたしお兄さんのお名前を伺っていませんでした。宜しければ教えて貰ってもいいですか?」
(そーいや言ってなかったな)
青年が名乗ろうと口を開く。
「フニャーーーーッ!!」
「わっ、きゃっ!」
ユーナの膝の上で大人しくしていた子猫がいきなり暴れる。
子猫はそのまま庭を走り出す。
「あっ、えと、...そのっ!」
女の子は青年を見て、猫が走り去った方向を見てまた青年を見てを繰り返す。
青年は助け舟を出してやる。
「追いかけた方がいいと思うぞ。また木に登ると厄介だからな。その前に捕まえてやってくれ」
「すみませんお兄さん!ありがとうございますッ!!」
ユーナは礼儀正しく頭を下げ、ぱたぱたと追いかける。
ユーナの姿を目で追い見えなくなると、青年は廊下の角に視線を移す。
角からしきりに頭を下げる大男と柔和な笑みでそれに応じる女官が歩いてくる。
「すいやせん大将。お待たせしやした」
女官に下げていた頭を青年に向けるカグロ。
「体は大丈夫か?」
「へい!」
「そうか良かった。ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」
青年も女官に謝罪する。女官はいえいえと軽く振り、手で廊下を示して先導を再開する。
女官の後ろを付いて行きながらカグロが青年に問いかける。
「大将は何をしてたんですかい?」
「ん?」
青年は少し考え、軽く笑い言った。
「木登り好きの猫達に遊んでもらってた、かな?」