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救世の姫と彼女の英雄(仮)  作者: みずお
第一章 少女と傭兵
3/4

女の子

前回のあらすじ:


もらいゲロ(未遂)

「カグロは大丈夫かねー......」


青年は城内の縁側に立ち尽くしため息をつく。


カグロは無理をしていたらしく、城内に入り幾許もしないで体調不良の限界を迎えた。


今は案内の女性に頼み、彼を厠に連れて行ってもらっている。


彼の尊厳の為に言っておくが決壊はしてしない。向かってる間も我慢出来たかどうかは知らないし知りたくも無いが。


本当は自分も付いていくべきなのだが男と厠とか気持ち悪いし面倒だし気持ち悪い。そこで体よく案内の女性に押し付け、別れたこの縁側で女性が戻ってくるのを待っている。


(すまない。恨むなら俺達の案内に君を指名した上司を恨んでくれ)


カグロの体調不良の原因が自分にある事を棚に上げ、見たことの無い彼女の上司に責任転嫁し謝罪する。


「あー良い天気だわー」


縁側に差し込む陽気にあてられて、青年はのほほんと突っ立っている。


「.........あー」


無意識に情けない声が青年の口から漏れる。目を細めて脱力する。


(脳が蕩けて馬鹿になりそうだ。何か依頼とかどーでもよくなってきたわー)


ここが依頼主の城で毅然とした態度をとらなければならないのは理解しているが、長旅で疲れて緊張を保ててないのかもしれない。

青年が元来持つ野放図な性格にそれらが加わりより一層やる気の無さに拍車が掛かる。


(早いとこ領主に謁見して用事を終わらせるか)


庭に植えられている木―――庭に趣きを与えるための庭木なのだろう。桃紅色に染まった釣鐘状の花を沢山つけているその木が不自然に震える。


(不審者か?)


咄嗟に腰に手を伸ばし、しかし何かを掴もうとしたその手は空振りに終わる。そこで青年は城内に入る際に武器を預けたことを思い出す。


(素手でも闘えないことはないが..........)


警戒を怠らず木に近づく。足の裏が汚れるが仕方ない。


近づくにつれて、枝に大きな布が引っ掛かっているのが見えたのに始まり、それが服であるのに思い当たり、服の中身が入っているのに最終的に気づいた。


豪華な服装をした女の子がいるというのが正しいのだが、女の子よりも服の存在感が大き過ぎるので女の子のおまけ感がどうしても拭えない。


女の子はその小さな腕に子猫を抱きかかえて途方に暮れている。


表情は半泣きで大きく可愛らしい瞳に涙を湛えて細く綺麗な眉尻を下げている。


(..........降りれなくなったのか?)


状況を鑑みるに子猫を助けようとしたのだろう。


確認と安心を得るために声を掛ける。


「おい。大丈夫か?」


「ひゃっ!!!?」


絹を裂いたような小さな悲鳴を漏らし、小さな肩を小動物のごとく震わせる。


怯えを映す瞳を青年に落とし、また体を震わせる。


怯えた悲鳴と視線により二度ほど胸を抉られたが青年は何とか持ち直し質問を繰り返す。


「大丈夫か?もしかして降りれなくなったのか?」


なるべく優しい声音を心掛ける。


その甲斐あって女の子から返事が返ってくる。


「は、はい。..........登ることはできたのですが、その..........下を見たらこわくなって」


女の子の瞳に溜まった涙が溢れそうになる。


慌てて青年が女の子を落ち着かせる。


「わーっ!泣くな泣くなっ!助けてやっから無闇に動くな!!」


女の子がいるのは地面から四メートル弱程の高さにある枝の上。枝は太さも十分あり折れる心配は無いだろうが決して安定した足場とは言えない。


落ちたら女の子の細い体ではひとたまりもないだろう。


「受け止めるから飛び降りろって言ったら出来そうか?」


「む、むりです..........」


下を向くのも怖い有り様だからその答えは予測出来た。


女の子は縋るように子猫を胸にきつく抱きしめる。その子猫は暢気に鳴いている。こいつは自分が原因であるこの状況を理解しているのか。


「..........足場を探して持ってくるまで待てそうか?」


弱々しい否定。見捨てられると思ったのか悲しい瞳で青年を見る。


そんな目で見ないで欲しい。罪悪感が胸に生まれるじゃないか。


「あ゛ー分かった。少し待ってくれ」


「?」


怪我する危険は残るが方法が無いわけではない。


青年は身軽に木に登ると女の子が乗っている枝に出来るだけ近づき、


「片手猫から離せるか?」


「は、はいっ」


「んじゃその腕を俺の首に回してくれ。落ちないようにしっかり力入れとけよー」


「んっ」


女の子は数瞬躊躇う素振りを見せたが素直に青年の言に従う。


不安定になった女の子の体を胸に抱いて安定させ、女の子の腰に片手を回して支える。


「ひゃっ!?」


その時女の子が小さく息を飲んだが青年は気にしない。


青年は彼女を支えるのとは逆の手で枝を掴み、両脚を幹のこぶにしっかりとくわせる。


(抱えては降りれないなー)


子猫を包み込むように正面から抱き合う青年と女の子。青年の胸に顔を擦り付けるぐらいに密着した彼女に青年は注意を促す。


「ふわっとするから舌噛まないようにしろよー」


「えっ、きゃあっ!!」


女の子を抱えたまま地面に飛び降りる。着地の衝撃を女の子に伝えないように気をつける。


「..........大丈夫か?」


無茶したかな。と女の子を気遣わしく見やる。


「は、はい。大丈夫、です」


女の子はどもりながらなんとか返事をする。


女の子は青年の胸の中から彼を上目遣いに見上げ、はにかみながら薄紅色の唇を綻ばせる。


「..........ありがとうございます、お兄さんっ!」

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