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救世の姫と彼女の英雄(仮)  作者: みずお
第一章 少女と傭兵
2/4

ノーラン

前回のあらすじ:


乗り物酔い

「ありがとうおっちゃん。助かった」


青年は先ほどまで乗っていた馬車の御者に頭を軽く下げてお礼を言う。


おじさんは白い髭の生えた口としょぼしょぼの目を優しく弓なりに曲げて小さく首を振る。そして軽く手を上げて宿屋へとゆっくり去っていく。


青年は笑みで御者を見送り、姿が宿屋の中に消えると周りを見渡す。


青年が今いるのはノーリンの西門近くに建っている宿屋。先ほどまで一緒だったおじさんの目的地であり、青年たちがおじさんに乗り合いをお願いした旅路の最終地点でもある。


「結構活気あるんだな」


市で賑わう町並みを眺めながら呟く。大陸にあるいくつかの大国と比べると見劣りするのは仕方ないとはいえ、行き交う人々の数は多いし店員の呼び込みも張りがあり勢いがある。


(やっぱり織物や衣服店が多いな)


看板を目線だけで読んでいきながらそんな感想を持つ。さすがに商品は店の中にあるので噂の染物を拝むことは出来ないが。


青年は視線を足元に落とす。


「カグロ大丈夫か?」


足元に蹲る巨漢に声をかける。カグロは野性味あふれる赤髪を揺らし青年に視線を向ける。


「.........大将のせいでしょう。何で大将は元気なんですかい」


「そりゃ出したからからだろ」


「.........ですかい」


青年の嘔吐を間近で見たカグロは話すのも辛そうな様子だ。そっとしておこう。


「城に向かおうと思うが歩けそうか?」


「.........へい」


その言葉を信じて青年は歩き出す。ちらりと後ろを確認して部下たる大男はちゃんとついて来ている事に安堵する。


(しかしやっぱり変だな)


町の様子を直接見たことで今回の依頼に対して持っていた疑問が強くなる。


(依頼の内容は要人護衛と治安維持の協力。だっけか)


傭兵にくる仕事としては別段珍しいものではない。しかも舞い込んでくる仕事の中では比較的危険度の低いものだ。警戒する必要は無い筈なのだが気になることがある。


もう一度町を注意深く見渡す。


玩具や木の棒を振り回し笑顔で走りまわる子供たち。真剣な顔で買い物をする若い青年。道端で談笑する主婦達。甘味処で少女達が姦しくお団子を頬張り、老夫婦が手をつなぎのんびり散歩している。


平和だ。こんな戦乱の世でも穏やかかつ力強く生きている。まったくもって平和すぎる。


だからこそ疑問に思う。


何故こんな平和な国が傭兵隊の力を必要とするのだろうか。


傭兵の存在は国やそこに住む人々にとってあまり好ましく思われていない。それは傭兵が戦や争いの空気を否応無く感じさせる存在であるからだろう。また雇われた身であるにも関わらず、街中で好き放題に暴れる荒くれ者がいるのも傭兵の評価を下げる原因でもある。


以前どこかの国の騎士が傭兵を評してこんな事を言っていた。『やつらは血の臭いに惹かれて集まるならず者達だ。砂漠に潜む死肉を喰らう獣のようだ』と。


まったく酷い言い草だとは思うが同時に成程と胸にスッと納まる心地がしたのも覚えている。


傭兵にくる依頼は戦争や内戦などの血みどろのものが多い。だから先の言は言い方は辛辣ではあるが傭兵の真実の側面を正確に表している。


しかしこのノーリンの街には血の臭いも暴力の気配も無い。路地の暗闇で死に掛けている人もいないし戦争が迫っている刺すような緊張感もない。


(維持しなければいけないほど治安が悪そうに見えないし、戦争してる国がないなら要人警護を増やす理由もないだろーな)


ちらりと後ろを確認する。筋肉隆々の体を猫背に縮ませる頼りになる部下を見る。


(頼りないなー)


相談を諦めて前に向き直り、足取りをすこし緩める。


(偽りの仕事か、それともどっかの国に戦争でも吹っかける用意か、はたまた本当に楽な依頼か.........)


青年は足を止め立派な城門を見上げる。この中で依頼主である城主―――ノーリンの領主が待っている。


青年は城を数秒ほど真剣に見つめた後、瞳をいつもの死んだ魚の目に戻し足を再び進める。


(ま、直接聞けばいいかー)


そうして青年は城内へと足を踏み入れた。

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