006 - 賞金首と冒険者
二日も遅くなって申し訳ありません。
血騒
止まれ、止まれ、止まれ、止まれ
闇が大きくなるに連れ、身体を巡る血が、刃を握る掌が、疼いてくる
声が、闇が、真紅の血に混じり、侵して行く
眼前の人間が、オレのこの掌で屠るべき獲物と化す瞬間――
自身の首を狙う二人の冒険者が、双眸に狩人たる研ぎ澄まされた眼差しを携え現れた。
モンスター達も彼等の強さを野性の本能で感じ取ったのかマンティスやグリューン、果てにはこの台地の主であるシルトセンチまでもが、二人を避ける様にして遠ざかっていく。否、退いて行くと言った方が正しいかも知れない。モンスターという枠の中で生きている奴等は人間よりもその危機察知能力に優れている。その野生が言っている――目の前に立つコイツ等は危険だと。
視界が明滅でもするかのように、戦闘態勢を取れと脳が警鐘を鳴らす。
風が、その場の沈黙を攫うかのように吹き抜ける。心地良い風も今だけはピリピリと空気の振動を伝えるだけで、揺れる木々も、虫や鳥の鳴き声でさえも息を潜め、そんな無音の世界で冷汗が背を伝う。輪郭を零れ落ちる雫さえスローに映り、刹那が永遠に引き延ばされたかのようだ。
ゴクリと、無意識に呑んだ唾でさえも世界に木霊するほどの静寂が身体を引き締めていく。程よい緊張なんてものじゃなく、文字通り肌を刺す殺気が満ち満ちていた。
未だ不敵な笑みを浮かべる二人を前に、戦闘態勢を取る。ジャリッと、ブーツの底が大地を躙る音が静寂を破ると同時、女の唇が動いた。
「言いたい事も無いようだし、ちゃっちゃと戦っちゃおうか?」
その一言に、 喉は枯れ、舌が乾き、心臓の鼓動が大きく跳ね上がる。
唾の欠けたカウボーイハットから覗く薄桃色の髪を靡かせながら、ハンターは胡蝶が如く華麗に宙を舞った。
華麗で流麗。それはまるで落ちて、否、舞う花びらの様に、天を衝くように伸びる摩天楼にも似た木々を渡って矢を放つ。寸分の狙いも厭わないその矢はオレ目掛けて射られ、飛来する。
ハンターとはそもそも、弓手であるアーチャーの能力を更に極めた絶対必中の射手。その標的となった獲物は為す術もなく、その研ぎ澄まされた鏃に貫かれるだけだという。
「剣士を、ましてや上位職が二人掛りでなんて………したくはないんだけどな」
外見通り線が細く、身軽なハンターとは違い、《破砕斧》を持ち上げてはゆっくりとした足取りはしかし、確実にオレへと進めて近づいてくる。どうやったらあんな馬鹿デカい戦斧を持ち上げられるのかが甚だ疑問でならないがしかし、そんなどうでもいい考えを遮断するかのようにブラックスミスの放つ気が近付くほどに迸る。
そもそもブラックスミスは武具の製造を主とする職業。中にはこうして自分で造った武器を手に狩りをこなすものもいると聞くけれど、最早職人の域を超えていた。目の前で放たれるそれは、生粋の冒険者で幾つもの死線を乗り越えて来たことを窺わせる。
冒険者を生業としている奴らは時に人を相手にすることもある。今正にオレの身に起こっているように、賞金首や野盗などの荒くれ者たちを相手取ることが少なからずあるからだ。そして、その経験の有無は天地の差を産む。
知略を巡らせ、相手を見て、どう動くかを先読みする。それは、モンスターを相手にしていては身に付かない経験。オレにとって、意識がないあの時しか人との戦いは無い。更に言えば、あれを戦いと呼ぶべきかも疑問でならない。
まあ今はそんなことを考えている場合ではない。目の前の二人をどうするかだ。
「逃げるのは、無理……いや……」
そんな事を一人黙々と考えていると、当ても無く彷徨っていた左手がアイテムの詰まったポシェットに辿り着く。役に立ちそうなものは何か無いかと掌で感触を探し、ポシェットの中を暴れ回るようにして掻き回す。
「逃げようなんて思わないでね」
怖気の奔るその声よりも早く、風切音が耳朶を叩く。
視線を上げ、ハンターを見遣ろうとした瞬間、一握りの希望と安心を取り出そうとしたポシェットを丸ごと、放たれた矢に攫われて持っていかれた。
この小さな的を狙えるなら、今の一撃でオレの眉間にその鏃を突き立て殺す事もできたろうにと、そんな愚痴にも似た感想を一人独白する。
力の差から来る余裕か、それとも唯戦って決着を着けたいだけか。一歩も引かない勝気や気性の荒いものが多い冒険者にあって、礼儀を重んじる奴らなんだなと場にそぐわない事を考えるも、再びその考えは断たれた。
「アイル=セディリア、リズ村と騎士団員の殺害……その証拠の為には生きて連れ帰る事。少年、大人しく捕まる気はないか?こっちも好きで戦いに来てるわけじゃないんだ」
その巨大な戦斧を両手であるとはいえ軽々と振り回すも、それは躱せる速度で戦いを避けるように薙ぎ払われる。
木々や草木をものの見事にまるで何も無かったかのように、全てを亡きものに、屠るように全てを根こそぎ奪っていく斧の刃は鈍い銀色を放つ。目に映る光は姿形を変え、瞳に映るそれは幻覚のように殺気へと形を変えていく。
「アンタらに言ったってどうせッ……信じはしないんだろう……ッ…!!」
ツヴァイハンダーで巨大な斧の刃を、身体全体とそれを支える地面の両方とでその衝撃を受け止めるがしかし、身体は半ば強引に引き摺られるようにして後退し、踏ん張っている足が大地に減り込み罅を奔らせる。
身体が軋むように悲鳴を上げ、交差する刃がギシギシと音を掻き鳴らす。まるで一進一退の鍔迫り合いでも行っているかのような錯覚に襲われるけれど、これはただの一競りに過ぎない。
「……なら、力で捻じ伏せるしかないか」
火蓋というものが目に見えて実在するものならば、今正にこの瞬間に落とされただろう。
残念そうな言葉が言い終わるが早いか、ブラックスミスの目つきが変わり、纏う雰囲気も苛烈なものへと変貌を遂げる。まるで、さっきまでの男と入れ替わったかのよう。
同時に、相方の戦闘態勢を察知してか、鼓膜を穿つ音を響かせながら放たれた矢が男を援護するように頭上を乱れ舞っては、オレ目掛けて降り注ぐ。
「金だけが目当ての冒険者にッ……やられてたまっかよおおおぉぉぉぉーーーーーー…!!」
ツヴァイハンダーの肉厚で太い刀身を盾にしながらハンターへと突き進み、奴が移り渡る木々を力任せに薙ぎ倒す。森の精エルフを思わせる軽やかな舞で樹上を渡るハンターは、足場を物ともせずに弓を構え、射った。
四肢を僅かに掠め取る痛みに顔を顰めながら、両の掌に握る身の丈ほどの大剣を只管に、力任せに、自分を軸にして大車輪にも似た回転撃を繰り返す。
深緑の天蓋がそこだけすっぽ抜けたようにぽっかりと空に穴を開け、棲家を荒らされた野鳥たちが騒がしく飛び立って行く。それだけの事があっても、二人の瞳には変わることなくオレが映っていた。
「まだ子供みてーな剣士の何処にこんな力があるんだか……」
「ガキだからって舐めてたら痛い目見るってんだよッ……!」
ブラックスミスの一撃一撃の攻撃力とも呼べる破壊力は高いけれど、それを産み出す超重兵器たる戦斧の大きさが幸いして、弓は勿論剣程のスピードも出ないのが唯一の救い。通常のそれよりも何回りも大きいのだから、振るっているだけでもその腕力の凄さが伝わって来る。
とはいえ、スピードではオレが勝っている。小回りで錯乱してヒットアンドアウェイの戦法以外に迎え撃つ手はないだろう。
身体が漸く意識に着いて行く事が出来たのか、不謹慎にも数分前の自分とは思えないほどに安堵と安心感が身体を満たし、表情が綻んでいるのが判る。
「今、この速度なら避けれると思っただろ?」
僅かだが、眼前で斧を振り被る男のスピードが上がる。目を凝らして見れば、蜃気楼にも似た湯気が男から沸々と立ち昇っている。
「俺だけの技だ。体内の熱を自在に操り、各器官をその熱源で操作することで運動神経の限界を一時的に、僅かだが高める……ま、見れば判る通り、速くなったってことだ」
村の先生に聞いたことがある。
ヒトの身体は体温だけを一定に保つために働いているわけではない。細胞や養分などをコントロールするためにだが、それは同時に枷でもある。その枷を外すものがコレだ。正に、火炉で武具を製造する職人だから為せる技。
だけど、だからどうした。
「アイツはこんなもんじゃっ………ねぇーんだよおおおぉぉぉーーー!!」
シエルの速さを考えたら、幾ら速いと云えどコイツの方がよっぽど現実的だ。意識の外へ弾き飛び、瞬きも赦さない速度で攻撃を繰り出す彼女の剣戟に比べたら、身体が喚くほどでも無い。
力は力。それ以上でもそれ以下でもない。力に力をぶつけたら弱い力が押されて潰れるのは至極当然。だから、受け流し、往なす。
巨人の腕が如く大上段から振り下ろされた斧の一撃を切っ先で触れ、刀身を徐々に傾け受け流す。火花を散らす鉄塊をそのまま滑らせ、戦斧の下に潜り込み相手との間合いを一気に詰める。破砕斧を掻い潜り、さらけ出されたがら空きのボディに右下段からの逆袈裟を飛燕の速度で振り上げる。
「その力、危険だけどこっちは二人なんだよね」
隙を突くその一瞬を狙い、振り上げるツヴァイハンダーを牽制する様に矢が足元へ何本も雨のように降り注いで突き刺さる。僅かに逸れた、いや、逸らされた矢に不覚にも視線を奪われる。
その一瞬の鈍行を逃さず、巨大な影がぐんぐんとその大きさを増しながら自分へと落ちて来る。
一動作無くなるということは、優良な選択肢が一つ消えるという事と同義。必然的に、コンマ数秒の鈍行によって回避行動が選択肢から外れ、余裕が消えたことによって身体に僅かなタイムラグが産まれる。
「このッ……」
纏まらない考えの中で、振り下ろされた巨大な鉄塊を真正面から受け止める。が、抑え切れない衝撃が刀身を伝って身体を奔り自由を奪う。
拮抗などという言葉は生温く、斜交いというにはあまりにも一方的。肉厚の刃は刃毀れこそしないものの、唸る戦斧の前では僅かにその衝動を抑えることしか敵わない。
無論、その刹那を見逃すことなく、眼前で斧を今一度振り翳す男が叫びを上げる。斧の刀身に映る表情は戦慄を呼び、捻り出された音吐が身体を打ち震わす。
「ティニア!」
「言われなくても!」
ブラックスミスの咆哮にも似たそれを聞くや否や、樹上のハンターが反応して矢を番え、放つ。
ギリギリと弦がはち切れんばかりの音を鳴らし射られたそれは今までとは違う、放たれた矢は確実にオレを狙って空中を突き進む。殺意の込められたその矢は瞳により大きく映り、空気を裂いて飛翔する。
放たれた矢の速さは凡そ時速三百キロメートル。これは世界で最も速いハヤブサのそれと同じ。
大剣を持っているのはまだしも、バカデカい戦斧を振り回す男を相手にしながらハヤブサを躱すことなど不可能。迫るそれを避けようにも意識だけが先走り、肝心の身体は空回りする。
揺さぶられるように身体が揺れ、鈍い音が右足の太腿から体内に駆けて巡り、数瞬の内にそれが痛みへと変わる。身体が泣き出したかのように赤い鮮血が吹き出し、どんどんと力が抜けて行く。糸の切れた人形みたいに膝がガクりと崩れ落ちる。
「その脚じゃ今までのようには動けないだろう。いい加減諦めたらどうだ?」
太腿に深々と刺さる二本の矢に視線を移してブラックスミスが呟く。
握る斧に力をそれ以上込めることなく、だが力を抜くこともせず―――斧をゆっくりと持ち上げると、宣告するように目と鼻の先へと差し出した。
いつでもその掌で止めをさせるだろう距離まで近づき、いつでもその斧を振り下ろせるようにオレを見据え、そしてそれを待つ様にハンターも弓を構えている。
「矢が数本刺さるだけで戦いが終わるんなら、そんな簡単な事はねーんだよ………ッ!」
抜かなければ失血の量は抑えられるだろうけれど、このままでは動くこともままならない。未だ矢が刺さる傷口から毒々しくゆっくりと流れ出る真紅色の血。それに浮かび上がる苦痛に歪むオレの顔。
どちらにしろ動かなければやられるのは変わらない。
太腿に深々と刺さる矢に手を伸ばし、触れるだけでも激痛がオレの意志を挫いていく。掌に力を込め、矢を一気に引き抜けば血が止め処なく溢れ、代わりに少しだけ痛みが和らぐ。
「クリード、もういい加減にしなよ」
「わぁーったよ、しゃーないな全く……ってことで少年、気を失わせてでも連れてかせて貰うぜ。悪く思うな」
ハンターが樹上で足をブラブラしながら気だるそうに呟く。勝負はもう決着した、そう言いたげな台詞に反論しようと睨み付けるも、それはあしらわれる様に流された。
放たれる言葉が巨大な戦斧を伝い、ビリビリと振動を増していく度にそれが確かなプレッシャーへと変わっていく。プレッシャーが大気を鳴動させ、そしてそれがオレの身体を震わせ、熱を帯びていく。
《 やめろ…っ…この体はお前のモンじゃない! 》
頭の中で必死に抗い続ける。果たしてそれが利くかどうかなんてことは判らないけれど、何もしないよりはましだと自身に自分に向けて叫びを上げていた。
「連れてける……もんならなっ……!」
眼前の二人に、否、彼等よりも、意識を持って行こうとする声の主に向けて声を張り上げる。
破砕斧を受け止めたまま体躯を屈ませ、ブラックスミスが一瞬ぐらついたその隙に後ろへ数歩下がる。直後にオレがいた場所へ振り下ろされた斧を足場にして駆け上がり、空中に跳ぶ。
「後ろからこそこそとッ……」
大木の枝に悠々と腰を下ろすティニアにツヴァイハンダーを薙ぎ払う。
「フロウ!」
「鷹……っ!?」
聞き慣れない言葉がその口から発せられると同じくして、それが女狩人への行く手を阻んだ。
大きな翼をはためかせ、その雄大なる姿は大空の覇者。
通常よりも大きなその鷹は、彼女を包んでしまいそうな大きな両翼に、研ぎ澄まされた爪と牙。獰猛な眼だがしかし、その巨躯からは考えられないくらいに懐いている。
ハンターなどの狩人は動物を一匹連れ歩き、それをパートナーにすると言うが。フロウと呼ばれたその鷹は、言われた事だけを忠実にこなすと、主の肩に止まり嘶きを上げた。
「がっ………」
鷹に邪魔され攻撃は空振り。行き場を無くした身体が地面に音を立てて沈み、肺から空気と共に血が吐き出される。追い討ちの様に背中に衝撃が奔る。
「少年、お前に勝機は無い」
斧の刃ではなく、水平に傾けた巨大な鋼鉄部分で鈍器の如く殴り掛かったのか、その一撃は身体の骨を粉々にしたかのようだった。立ち上がる身体に、その衝撃と脚の出血がこれ以上は無理だと語り掛けた。
「くっ……そが……」
《 力を、貸してやる 》
負けることではない。また奪われることに対して吐かれた言葉を聞いているかのように、返事が頭蓋に木霊する。逃れられない――このままではあの陰惨な光景が繰り返されるのは目に見えていた。
その声に抗う為に直感が身体へと起させたその行動は、逃走。
「その脚で逃げるか」
勝つ力も何も無いのなら血が流れていようとも、この身が粉砕していようとも、この脚で逃げるしかない。たとえ自分の脚が千切れ様ともだ。それが唯一許された《声》からの逃げ道で、彼等を守る方法。
二人の放つ殺気よりもその血生臭さに反応して、鈍い足取りの傷ついた人間を食らう為、風と共にシルトセンチの足音が近付いてくる。
だが、一閃――逃げているのは確か。だが、それでも《声》が徐々に身体を支配していくのが判る。その証拠に、シルトセンチの身体も堅固な甲羅ごと一撃で引き裂き、何も無かったかのようにそのまま走り抜ける自分がいた。
「はぁっ……はぁっ……!」
喘鳴な呼吸と打ち鳴らすかのような鼓動が耳障りで仕方ない。
脚の出血がさっきよりも多量に見えるが、身体の感覚が無いのか全く痛みを感じない。それでも血は流れ出ている事に変わりはなく、感覚が無いまま地に平伏す。それでも唯、もう人を殺したくない一心で地を這う。
「終わりだ、少年」
瞬間、背後にクリードの声が響く。
ドクン……ドクンッ………━━━
《 ―――……を受け入れろ 》
《 ……オレの身体は、渡さ……ねぇッ!! 》
残念そうに、声の主は呟いた。
眠れ、頭蓋にその一言だけを響き渡らせ、それは四肢を奪っていく。
「う…っ…ぅぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーー!!」
意識がぐるりと一回転するかのように暗転すれば、地を這いずり回っていた身体がいつのまにか地の上に立っていた。太腿から流れ出ていた出血は止まり、痛みが麻痺していたさっきとは違い、傷が癒えているかのような錯覚さえ覚える程に身体が軽くなっていた。
それを後押しするかのように、熱を帯びていた身体が熱を発しているかの如く白熱する感覚で満たされれば、支配されているあの時と同じ力が漲って来ていた。
「なっ…目が赤く………――」
赤い目に魅入られたかのように動きを止めた、否、止められたクリードの腹から大剣の刃がずぶりと突き抜ければ、まるでその瞳に染められたかのような真紅の血が無残にも噴き出す。
「だか…ら……言っ…のに……!!」
感情では何とでも言える。が、身体はそうはいかない。
自身の思考とは裏腹に、自身の望む行動とは全く真逆を指し示すかのように醜悪な大剣を振り翳す。
「クリードオオォォーーー!!」
オレが勝手に出歩いたばかりに。
狙われている事も忘れてたから。
「フロウ!」
怒号のような叫びに反応する鷹が自身へと向ってその巨大な鉤爪を振り下ろすがしかし、羽ばたく音はすぐさま墜落するそれに変わって飼い主を絶望に突き落とす。
《 終わりだ 》
「いや…っ…ぃやあああぁぁあああぁあああーーー!!」
ティニアの叫びがそうしたかのように腹に衝撃が奔れば、瞼が落ちるのと同じ速度で意識が遠くなっていく。
「あなた達は?」
遠のく意識の中にいたのは、確かにシエル。動けないはずのシエルがオレの上下左右が逆の世界に立っていた。
「クリ…ク、クリ……ドっ…」
その声の先に、血塗れで倒れている一人の男を見つけた。どうやら二人でアイルを襲ったらしい――ってことは賞金目当ての冒険者か。 冒険者にしろ、お尋ね者にしろ、こんな状態で放っておく訳にも行かないことには変わりは無いのだけれど。
男性の息が在る事を確認して、一息前の自分とは裏腹に安堵の溜息を一つ吐き捨てる。
「大丈夫。あの人も治すから、一緒に着いて来て」
差し出した掌に、ゆっくりとティニアの掌が差し伸べられるが、酷く震えているのが判る。それに冷たかった。倒れ込むアイルを見て、昨日、一昨日の事を思い出せば、仲間がやられ、相当な恐怖に駆られたのは明らか。
安心とは別に自身を悩ませるそれに心の中で頭を抱えながら、今は如何でも良い事だと言い聞かせては頭をふるふると振り回して。
「じゃ、行こうか」
シエルが何かの羽を宙に投げると、手を繋いでいた全員がふっと消える。
舞い落ちる羽が、木の葉のように地へと舞い降りた時には、その場は打って変わって静寂に包まれていた。
妄想の中では、グレートアックスの大きさは二~三メートルくらいの大きさです。イーリスは和弓な形で藤頭半ばから上関板の部分を翼に模した形でこれも二メートルくらいの大きさ。