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リアルファンタジー  作者: あきお
第一章 終わりの始まり
1/1

「暑い……」


そう呟きながら柴崎春雄(しばさきはるお)は額を袖で拭った。


しかし、袖も汗で湿っていたのだろう。余計濡れてしまった。


止めどなく溢れる汗。それはこの猛暑だけが原因じゃない。


ちらりと、右手を見やる。


そこには、一つのおにぎりが握られていた。


おにぎりを握る手は春雄の体の何処よりも汗で湿っていて、パッケージはビショビショだった。中身は無事だが。


春雄はこのコンビニで万引きをしたのだ。おにぎり一個。


今犯した犯罪を誰かに悟られるのを恐れていたのである。


(いいや……落ち着け俺……)


深呼吸して、自分を落ち着かせる。


(バレる訳がねぇ……俺は誰にも見られる事も無く、仕事をやったんだ……バレる訳がねぇ……だから落ち着け。俺)


と、思った矢先……


「ちょっと君。右手見せてよ」


びくりと体を動かし、振り向く。


背後には、ガタイのいい男が立っていた。


エプロンを来てるからコンビニの店員なのだろう。


コンビニ店員のエプロンには体が合わないいい体つきだ。


(……とか、分析してる場合じゃねぇ!!)


春雄は全力で駆け出した。おにぎりを握ったまま。


「あ。待てッ」


背後から、男の声がした。構わず走る。


春雄は、元々足の早い方では無かったが、危機的状況に陥ると底力を発揮するタイプなのだ。火事場の馬鹿力ってやつか。

全力疾走しながら……そして、時に、そこらのジジィやババァ。妊婦だろうか。腹の膨れた女。自転車に乗ったガキを次々に押し倒しながら、これまでの人生を振り替える。


殆どの事に負け続け、常に底辺の人生を歩んできた春雄は他人と関わる事を嫌っていた。


皆、格が下の春雄を見下し、優越感に浸ってる。そう感じたからだ。


親や教師にも見捨てられた春雄は、この世の殆どが嫌いだった。


……とここまで考えてた事を脳内から打ち消す。


(なんだこれは。まるで走馬灯じゃないか。漫画だったら完全な死亡フラグだぞこれ)


等と、考えながら、交差点を飛び出した。


男の「危ない!!」という声とトラックのクラクションが重なって聞こえた。


刹那、全身に激痛が走った。


……と思いきや、すぐに楽になった。


と、同時に周りの車の音や、春雄が押し倒して来た人々の悲鳴。笑い声。話声……全てが聞こえなくなった。


今、春雄に残った感覚は視覚だけ。



(あ)


春雄の目の前に春雄と全く同じ服装の人間の足が見えてきた。


(あー。はいはい。そういう事ね)


その体は首から上が無かった。


よく見ると、指も数本無くなっていた。


そう。つまり死んだのだ。トラックに跳ねられて、ド派手にグチャッと。


で、今現在自分は首だけの身なのだ。


視覚しかないのはちょっと謎だが。


頭部を失った春雄の胴体から大量の血が吹き出した。


そして、その場に倒れた。


野次馬が生首(はるお)に近づいて来た。


皆、写メを撮ったり、自分から見ておいて目を伏せたり、嘔吐したり……と野次馬のリアクションは様々だ。


野次馬の中に先ほどの男が居た。


細く微笑んで生首(はるお)を見下ろしていた。


(何だよ見るんじ ゃねぇ よ 。お れは見世 物 じ  ゃ  ね  ぇ       よ)


そこで春雄の意識は途絶えた。

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