5月
5月になっても何も変わらなかった。
他の人が輝いて見える。
そして、ゴールデンウィーク。
ゴールデンウィークを一緒に過ごす人もいなければ、行きたいところもない。
精神をすり減らすだけの日々だった。
そして、ゴールデンウィーク最終日。
施設に入所していた父親が亡くなった。
アメリカにいた兄が帰宅。
自分との違いを見せ付けられ、客観的に自分の立場を見る羽目になった。
自分は何もできない。
失敗が怖くて挑戦してこなかった私には、何も残っていない。
こんな私は生きている価値などない。
耐え切れず、心療内科を受診した。
薬を飲みたくないと言う貴子に、高齢の男性医師は言い放った。
「病気か病気でないかはあなたが決めることです。どうしたいの?」
わからないから来たのに。
3千円ちょっとを払って、帰宅した。
次の週は、車の運転が危なくなり、脳神経外科を受診した。
ピル飲んでるから、血栓ができてて、頭の回転が悪いのかも。
結果は異常なし。
ただ、話を聞いていた高齢の男性医師は、優しかった。
「色々見てると、うつに当てはまってしまって」
貴子がぼそりと言うと、うなずいた。
「そうだねぇ。そうなるね」
薬を飲んだ方がいいと思うけど無理強いはしない、とのことだった。
せっかく来たので、薬をもらっていくことにした。
とある薬を出すと言い、医師が事務に規格(ミリ数)を聞いていた。
貴子は薬剤師で、現在の職場にもその薬は置いてある。
「扱ってるのに、規格出てこなかった」
ぼそっとつぶやくと、「何でそんなことで自分を責めるの?」と、直人のようなことを言った。
「また色々あなたのこと教えてね。最後に一つ…」
医師は言葉を切って、貴子に向き直った。
「止まない雨はないから」
貴子はじわっと涙が出てくるのを感じた。
心の底では、これが雨なのか、本当に止むのか、よくわかっていなかった。
何とかしようとしてくれている意思が感じられて、嬉しかっただけかもしれない。
とにかく、5月もほとんど何をしていたか覚えていない。
私はおかしい、仕事クビになるのではないか。
そんなネガティブなことばかり考え、不安定な日々を過ごしていた。