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彼の居場所

彼には居場所がある。

そこは酷く歪んでいる。あるものは


「惨め」

「自己破壊欲」

「惰性」


数えるまでもない。そんなものが固まっているのだ。


彼は動かない。動こうとしない。その場所がいかに歪んでいようが、そこは彼の居場所だからだ。


他人は彼にこう言った。


「もう、いいよ」


彼にはわからない。


「ごめんなさい」


彼にはわからない。


彼はいつもこう考えていた。


「くだらない」


彼は全てを否定した。愛する者も過去も、そして自分のことさえ。


いつも他人はこう思う。


「死ねばいいのに」


彼はそれでも生きていた。


いつも彼はこう思う。


「死ねばいいのに」


それでも彼は生きていた。それが何故かはわからない。理由を求めるまでもなく。そこに彼の居場所はあり、彼は生きていたからだ。


彼は自分を傷つけた。死ぬためだ。生きていたくないから自分を傷つける。


彼は死ななかった。それに理由をつけることはない。それは事実だ。それだけが事実だ。


しかし他人は言う。


「早く死ね」


「死ね」


「惨めに死ね」


しかし、それが事実であり、彼の居場所はそこにあるのだ。なら、何が彼を動かすのだろう?


彼は動くべきだろうか?


何が彼に「良い」と思わせるのだろうか?


彼にとって、自分は他人。他人以外の何ものでもなく、彼からすれば彼は一番遠い存在。だから彼は自分を傷つける。


誰よりも愛した人のためにも、誰よりも愛した自分のためにも。


この歪んだ居場所だけは自分のもの、そしてあの人のものであると証明するべく。


また彼は彼を傷つけた。


終わりはない。苦しいだけ。それを他人は笑うだろうか。


他人は彼を笑い傷つけるだろう。彼はそう受けとった。そうとしか受けとれなかった。


彼はまた彼を傷つける。終わりはない。彼の終わりは本当の終わり。


死にたくない。死にたくない。死にたくない。


死にたくないから彼は飛び降りた。高く、それは高く。落ちた時には全て終わっていた。彼の過ごした時間に意味はない。時間は終わり、そこに彼の居場所はない。


彼は生きてさえいなかった。生かされてさえいなかった。そして他人はこう言った。


「可愛いそう」


「若いのに」


「残念だ」


それは短く細く、視力の悪い人にはわかりづらく、他人である証明を彼の過ごした時間に突きつけた。


彼に時間は与えられない。彼は誰にも関わっていなかった。


彼は他人にとって他人であり、彼にとって彼は他人である。


彼の居場所は誰の居場所だったのか。それがわかるのは彼しかいない。彼しかいないのだが、彼はもういない。


彼の居場所は二度と戻ることのない時間の中にある。

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