こうふく
「ほらほら起きてよ。食べてすぐに横になんかなったら――」
「『牛』になる、だっけ?」
彼女からの決まり文句を軽くかわし、ぼくは床へと転がり伸びをした。
引っ越したばかりの部屋はがらんとし、彼女はペタンと床に座ってぼくが作ったラーメンを食べている。
ラーメンには、近くのコンビニで買ったウインナーと野菜を入れた。
ラーメンにウインナー。
意外とこれがいけるんだ。
――若くもないのにみっともない。親戚に顔向けできやしない。
あの人たちから見ると、ぼくらは酷くふしだらな関係になってしまうようだった。
冗談じゃないと思いつつ、自分自身にもしみ込んだあの人たちの掲げる正しさと常識に潰されそうにもなった。
それが悔しくて、二人で逃げた。
「ねぇ、またなにか難しいことを考えているんでしょう」
にゅっと彼女がぼくを覗きこんでくる。
耳に掛けた髪に、白髪が見えた。
「人は考えてこそ、なんぼのもんでしょう」
ふくれた腹をポンと叩く。
「あらら、牛じゃなくて、タヌキになったのね」
彼女もぼくの腹をポンと叩いた。
幹線道路沿いの七階の部屋。
窓からは、灰色の道が上下に走っているのが見える。
都会の外れの古いマンションだけれど、カーテンがまだない大きなガラス窓からは、ぼくたちを祝福するような秋のやわらかな陽が差し込んでいた。
心は凪いでいた。
あたたかく静かで、満ち足りてもいる。
「ふたりで楽しく生きてやろう」
ぼくの言葉に彼女は目を細めると、泣きそうな顔で大きく笑った。




