第二話:鉄の街の砂上の楼閣
「……なんなの、この建物は。正気なの?」
鉄と硝子の異世界に迷い込んで数日。
私は、唯一の相棒であるおじいちゃん猫と共に、
街の建設現場を見上げていた。
そこでは『魔導建築士』と名乗る男たちが、
最新の魔導デバイスを手に、巨大な鉄骨を
魔法で浮かせて積み上げている。
空高くそびえ立つ、針のように細長いビル。
見た目は華やかだが、私の目にはそれが
「死を待つだけの危うい棒」にしか見えなかった。
「おじいちゃん、見てよ。
あんなに重心が高くて、窓ばかり大きくて。
大地の怒りに触れたら一たまりもないわ」
膝の上体を揺らす三毛猫が、ふん、と鼻を鳴らす。
「全くだ。地の気も通っておらんし、
あんな硝子張りでは夏は蒸し風呂、冬は氷室じゃ。
建物自体が窒息しておる。人の住む場所ではないわい」
その時ーー
現場を指揮していた若い魔導建築士が、私の独り言を聞きとがめた。
仕立ての良い魔導服を着た男は、小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「おい、そこの小汚い娘。
今、うちの設計にケチをつけたか?
これは最新の『空間拡張魔法』と『高硬度合金』を組み合わせた、
王都でも最先端の超高層マンションだぞ。
君のような浮浪児には一生縁のない代物だ」
「最先端だか何だか知らないけど……」
私は一歩前に出た。
かつて一族に冷遇され、泥にまみれて土楼の隅々を掃除し、
土の厚みや風の抜け方を肌で覚えてきた。
一族に「無能」と蔑まれながらも、
私は誰よりもあの一族の城を愛し、読み解いてきたのだ。
「基礎が浅すぎるわ。
あんなに上ばかり重くして、地震が来たらどうするの?
それに、あの魔法の接続部分……魔力の循環が滞って、
澱みが溜まってる。
あんな頼りない家、私ならタダでも住みたくないわね」
「なんだと……!? 庶民の分際で、魔導建築の権威を愚弄するか!」
男が激昂し、魔法の杖をこちらに向けた。
威嚇のつもりだろうが、
その瞬間に私の視界に「青い回路」が浮かび上がる。
転生してから備わった、この世界の『魔力構造』を見抜く目。
(……あら。
これ、土楼の『三合土』の配合よりずっと単純じゃない)
おじいちゃん猫がニヤリと笑う。
「桃花、やってしまえ。
こやつらに、本物の『守り』というものを教えてやるのじゃ。
お前の執念を、土の記憶をぶつけてやれ!」
「言われなくても!」
私は無意識に、コンクリートの地面に指を突き立てた。
あの一族を見返すために。
今度は絶対に壊れない、誰も追い出されない、
自分だけの居場所を作るために。
「――応えなさい、大地の脈動。構築せよ、
『円環の土壁』!!」
ドォォォォォォン!!
地響きと共に、
工事現場の地面が爆発したかのように盛り上がる。
私が呼び出した、
分厚くて圧倒的な質量を持つ「土の壁」が完璧に
そして無造作に男が放った魔法の光を飲み込んでしまった。
「な……なんだ、この壁は!? 魔法を通さない、だと!?」
呆然とする建築士たちをよそに、
私は冷たいコンクリートから生えた、
瑞々しく温かな土の壁を愛おしそうに撫でる。
「鉄だの硝子だの、薄っぺらなのよ。
家っていうのはね、大地に抱かれてるみたいに、
住む人を癒やせなきゃダメなの。
――やり直しね、魔導建築士さん」
これが、私の「建築魔法」の第一歩。
最新魔導を「古の知恵」で叩き直す
私の新しい人生が始まった瞬間だった。
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