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無能だと追放された令嬢、実は世界唯一の「土楼建築士」でした  作者: ☆もも☆


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第十話:スラムの再生、土の香りは人を癒やす

「桃花様、どうかご再考を。

 王宮では、すでに上級魔導士専用の

 研究棟をご用意しておりまして――」


「要らないわ。

 興味も、価値も、感じないものに

 時間を使うほど暇じゃないの」


私は、使者の差し出す金と爵位と名誉の詰まった“王命状”を、

鼻先で笑い飛ばした。


その瞬間、使者の顔が――

貴族特有の、肥えたカエルのような表情に歪んだのが見えて、

ちょっとだけスッキリした。



そして私が選んだ拠点は――


王都の最果てに位置する、通称《灰の街》。

汚水の流れる溝と、ボロ布のようなバラックが

無秩序に連なり、腐敗したゴミと絶望の臭いが立ち込める場所。


「桃花、こんな掃き溜めのような場所でよいのか?

 王宮に行けば、美味い供え物も、

 羽毛のベッドもあったろうに……」


肩の上で、おじいちゃん猫がしきりに尻尾を揺らしている。


「おじいちゃん、風通しが悪くて陰謀の臭いがする場所で、

 どうやって建築なんてできるのよ。

 ここなら……まだ“土の匂い”がする」


そう、私は“死んでいる構造”には興味がない。

欲しいのは、“生きた場所”だけだ。




私は、灰の街の中心――

今にも崩れそうな廃墟の上に立ち、

一握りの魔法粘土を手にした。


「――《土の福音アース・リノベーション》」


魔力を帯びた土が、静かに地面へと染み込んでいく。

まるで、大地が私の呼びかけに応えて、

長い眠りから目覚めるように。


ほどなくして、下水が変化を始めた。

腐臭を放っていた水脈が、

内部から“清らかさ”を取り戻し始めたのだ。


「な、なんだこの……あったかい風……?」


周囲の住人たちが、

信じられないものを見るように、

私の周囲に集まり始める。


吹き抜けていく空気が、柔らかくて、やさしい。

泥と絶望で埋もれていたこの街に、

“春”のような温もりが流れ込んでいた。




翌日から、変化は加速度的だった。


「お姉ちゃん、ここ……あったかいね!」


「咳が……もう何日も止まらなかったのに……

壁の側にいるだけで、楽になる……」


私は答えない。

ただ、粘土を手のひらでこね、

壁の芯に“循環の術式”を練り込む。


感謝の言葉なんて要らない。

建築士は“語らずして応える者”。

構造が機能していれば、それで十分。




一方その頃、王都の中央区では、

笑えない騒動が起きていた。


「な、何!? 魔導ビルに住む貴族たちが、

 次々と体調を崩しているだと!?」


「魔力障害、精神混濁、記憶の欠落……

 原因不明の症状が連鎖している!? 

 対処魔術が効かない!?」


皮肉なものだ。


魔導の最先端を誇った高層ビル群が、

今や“魔力中毒デッド・オーラ”の温床と化している。


「“光”を求めて作られた建物が、

 “命”を奪っているだなんて……」


と、ある若い医術士が頭を抱えていたっけ。




そんな折、再び王宮からの使者が、

仰々しい馬車とともに現れた。


「桃花様、お願いです。

 灰の街での“魔法建築”技術を、

 どうか王都の再開発事業にお貸し願えませんか……!」


彼の装いは、前回よりさらに豪奢だった。

金糸のローブに、巨大な宝石がぶら下がった胸章。


……正直、そのまま捨てれば

十人くらい養えるレベルの無駄遣いだ。


私は、彼を門の外に座らせたまま、首だけ出して言った。


「まずはその服を脱ぎなさい。

豪華なだけで、何の機能もない。……“構造として無駄”よ」


「えっ……?」


「土を捏ねなさい。素手でね。

 そうしたら、話くらいは聞いてあげてもいいわ」


使者の顔が、トマトよりも赤くなる。


だが、それが“正しい選別”なのだ。

この場所に来るのなら

――“建てる者”としての覚悟を持ってくるべきだ。



灰の街の広場に、今日も子供たちの笑い声が響く。


彼らが遊ぶ土壁のベンチは、

私が寝る前にそっと練り直した“癒やしの構造”。


夜にはほんのりと温かく、

朝には地熱を利用して草の香りを漂わせる。


「(桃花よ……お前は、ここをどうするつもりじゃ? 

 ただの一角では収まらぬ気がするぞ)」


「そうね。……まずはこの街全体を、

 ひとつの“土楼”に仕立てるわ」


「(ほう……それはまた、大きく出たな)」


「当然よ。ここは始まりの場所。

 あの冷たくて空っぽな塔を、

 “本物の家”で包み込む第一歩なんだから」


私は粘土に魔力を込めながら、空を見上げた。


かつて私を嘲り、追い出した者たちが、

いつかこの土に膝をつく日を夢見て。




ご覧頂き、ありがとうございますm(_ _)m

本日は、最終話12話まで投稿します。

よろしくお願いします☆

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