表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

旅立ち

兄様の話を聞いて、正直なところ、内容はすべて理解できたわけではありませんでした。

けれど、兄様がただのマザコンではない、ということだけは、はっきりと分かりましたの。


トボトボと部屋へ向かう廊下を歩いていると、偶然、父様と鉢合わせました。


「フィオナ、少し良いかな?」


その雰囲気から、お説教だと察知した私は――


「お腹と頭が痛いから無理!」


そう言い残して、全力で逃走いたしました。


「フィオナ!」


父様の声を背中で聞きながら、私は兄様の言葉を思い出していたのです。


兄様は、前世の話をした後で、こう呟きました。


「それでも……もし、エンジェラ様が僕との婚姻を望むのなら、

僕はその想いに報いなければならないと思っているんだ」


「どうしてですの!

エンジェラ様とのことなんて、私とオーレリアでいくらでも邪魔しますわ!」


そう叫んだ私に、兄様は珍しく厳しい顔をして言い放ちました。


「ダメだよ、フィオナ!」


その声に、私は思わず背筋を伸ばしました。


「いいかい、フィオナ。

この国には身分制度がある。家庭教師の先生から、習っているよね?」


頷く私に、兄様は続けます。


「王族を頂点に、その下に僕たち公爵家がある。

今は幼いから許されているけれど、あと数年もして今と同じ態度を取っていたら、不敬罪になるかもしれないんだ」


「……不敬罪?」


「そう。そうなれば、フィオナだけの問題じゃなくなる」


首を傾げる私に、兄様は静かに言いました。


「父様は今の仕事ができなくなるかもしれない。

下手をすれば、家族全員が断罪されてしまう」


その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられました。


すると兄様は、私の頭を優しく撫でて――


「分かってくれたなら、それでいい」


そう言って、微笑んだのです。


「僕たち貴族は、領民の手本となる存在でなければならない。

僕は、フィオナが領民に愛される公女様になってほしいんだ」


その優しい言葉に、私はただ、頷くことしかできませんでした。


それでも、この日を境に――

サボりにサボっていたマナー講習や歴史の勉強を、きちんと受けるようになりました。


あの日、お説教をしそびれた父様も、私の変化を静かに受け入れてくださっていました。


そこで私は、どれほど自分が無知で、小さな世界の中で生きていたのかを、痛感したのです。



月日はゆっくりと流れ、兄様は十六歳になりました。


「いやーっ!

ルイスちゃんと離れるなんて、絶対にいやーっ!!」


魔法を使える者は、貴族であろうと例外なく、学びの場へ出ねばなりません。

それなのに、母様は兄様をぎゅっと抱き締め、わんわんと泣いていらっしゃるではありませんか……。


私が呆れた顔で見ていると、


「フィオナは平気なの?」


と、母様が振ってきました。


本音を言えば――行ってほしくありません。


……でも、兄様が私に求めている答えは、きっと違う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ