置物王子の初恋
「でも……バルフレア夫人が父様ではなく、レイモンド殿を選ばれたのは、レイモンド殿が強かったからですよね!」
置物王子が、盛大な爆弾を投下した。
母様は目を見開き、今にも気を失いそうになっている。
「な、な、な……何のお話です?」
必死に平静を装う母様に、置物王子は真っ直ぐ向き直り、
「父様は、バルフレア夫人に振られたのだと……
王宮中で、皆が笑っています」
そう言い出した。
するとエンジェラ様が、ぐっと拳を握りしめて叫んだ。
「ふん! 言いたい者には言わせておけばいいのですわ!
私は、お父様とお母様は、お互いに想い合っていらっしゃると思っています!
お母様が平民出身だと馬鹿にする者たちの言葉など、私は信じておりませんわ!」
母様は、すべてを察したような表情になると、そっと置物王子の肩に手を置いた。
「バーナード様……
アティカス様が、リリィ様を選ばれたのです」
一呼吸おいて、母様は続けた。
「私が……私のほうが、アティカス様に婚約破棄されたのですよ」
そう言って、優しく微笑んだ。
置物王子は目を見開いたまま、母様を見つめている。
「嘘ではありません。
あなたのお母様であられるリリィ様は、とてもお優しい方です。
アティカス様がこの国のために奔走している間、ずっと寄り添っていらっしゃいました」
母様は穏やかに語る。
「だからこそ、アティカス様はリリィ様を選ばれたのです」
その言葉に、置物王子の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「皆……父様が弱いから、平民だった母様としか結婚できなかったんだって言うんだ……
だから、僕も剣術ができなくて、魔力も弱いんだって……」
小さく呟く置物王子を、母様はそっと抱き締めた。
「それは違いますわ」
母様は、はっきりと言った。
「私の魔力が開花したのは十六歳でした。それまでは、そよ風を起こすのが精一杯でしたのよ。
それに、あなたのお母様であるリリィ様も、光魔法が開花したのは十代になってからだと仰っていました」
優しく微笑みながら、
「もしかしたら……バーナード様は、リリィ様に似て、光の魔法が開花するのかもしれませんね」
そう言った。
「王宮には、悪しき感情を持つ者が多く集まります。
我が家もかつて、ルイスを“私と魔王の不義の子”だと噂されたことがありました」
「えっ!? そ、そうなのですか!?」
目を丸くする置物王子に、ルイス兄様が肩をすくめて言う。
「本当だよ。
まあ、我が家の場合は、父様が即刻犯人を見つけ出して、屋敷から叩き出したけどね。
王宮となると……そう簡単にはいかないだろうけど」
そして母様は、改めて置物王子に向き直った。
「バーナード様。
リリィ様は平民から王妃となられ、敵だらけの中で、アティカス様と共に歩む決意をなされました」
母様は静かに、しかし強く願いを込めて言う。
「ですから、どうか……
バーナード様とエンジェラ様は、リリィ様の味方でいてください。
それが、何よりの力になります」
置物王子は涙を拭い、顔を上げた。
「はい!
僕は強くなって、母様を守ります!」
力強く叫ぶその姿に、母様は微笑み、
「立派ですわ、バーナード様」
と、優しくその頭を撫でた。
――その時。
置物王子の頬が、ふわりと赤く染まったのを、私は見逃さなかった。




