母様と置物王子
「まぁ! バーナード様、エンジェラ様。いらしていたのですか?
中にお通しもせず、申し訳ございません」
エントランスで騒いでいたせいで、母様が現れてしまった。
(チッ……門前払いならぬ、入口払いする予定でしたのに……)
心の中で悪態をついていると、
「フィオナ?
まさか、お二人をこのままお帰しするつもりだったわけじゃ……ないわよね?」
母様が、引き攣った笑顔で私を見た。
「えへっ」
と笑って誤魔化そうとすると、
「えへっ、じゃないでしょう!
まったく……誰に似たのやら」
と母様がぼやく。
その言葉に、使用人たちが肩を震わせて笑っていた。
「?」
疑問の視線を向けていると、
「バルフレア夫人、お願いがあるのですが……」
と、置物王子が口を開いた。
(な、何を言い出すおつもりですの!?)
驚いて置物王子を見ると、母様は彼と目線を合わせるようにしゃがみ、
「どうなさいました?」
と、優しく微笑んだ。
すると置物王子は、意を決したような顔をして言った。
「僕は……レイモンド殿に、魔法と剣術を習いたいのです!」
母様は思わず目を丸くした。
「ですが……バーナード様には、優秀な家庭教師がいらっしゃいますよね?」
戸惑いながらそう返す母様に、置物王子は必死に言葉を続ける。
「僕は……僕は……
レイモンド殿の、魔法と剣術の合わせ技を学びたいのです。
今、その二つを同時に扱えるのは、レイモンド殿だけだとお聞きしました!」
その言葉に、母様は困ったように微笑んだ。
「では、バーナード様。ひとつ、教えてください。
なぜ、そこまでの力が欲しいのですか?」
母様の問いに、置物王子は真っ直ぐに母様を見つめて答えた。
「僕は、この国の王子です。
いずれ、この国を治めることになります。
その時、僕が弱ければ、人はついてきません」
一度、言葉を区切り――
「……父様のように、守られてばかりの王には、なりたくないのです!」
そう言い切った。
すると母様は、同じく真っ直ぐに置物王子を見つめ、
「バーナード様。それは、違いますよ」
と、きっぱり言った。
「確かに、あなたのお父様――アティカス様は、飛び抜けて強いわけではありません。
ですが、弱くもありません」
母様は静かに続ける。
「大切な人を守るための剣を、きちんと持っておいでです」
厳しい表情で、置物王子を見つめた。
「誰からどんな話を聞いたのかは分かりません。
ですが、アティカス様は素晴らしい国王です。
あなたのお父様だったからこそ、魔王は和平を結んだのですよ」
そして、はっきりと告げた。
「弱い人の痛みや気持ちが分かる――
それこそが、アティカス様の強さです」
珍しく厳しい口調の母様に、置物王子は両手を握り締め、俯いた。
「フィオナが旦那様から魔法を教わっているのは、
魔力が強すぎて、他の方では怪我をさせてしまうからです」
母様は穏やかに続ける。
「旦那様は、人の魔力を自分の身体を通して正常化させることができます。
それに――フィオナは娘ですから」
その言葉に、置物王子は俯いたまま、唇を噛み締めて黙り込んだ。




