仮説:切り裂きジャック
切り裂きジャック事件を独自視点で考察!
1888年、ロンドンの霧深い夜。街を恐怖が覆う中、ひとりの闇ハンターが狩りをしていた。ハントの対象は、人狼族。人類の亜種で、人の見た目と狼の特性を持つ、ハイブリッドな種族だ。
通常、人の社会に上手く溶け込んでいるが、月夜の晩には人を喰らう性質を抑えきれず、暴走する個体が少なからず存在する。一晩に何人もの喉元に喰らい付き、新鮮な生血を啜り、生肉を噛みちぎり、内臓の歯応えを好んで、腹から引きずり出す。
人類にとって、脅威にしかなり得ない存在を人知れず狩り続けている、闇のハンターが一柱、それが『切り裂きジャック』である。主戦武器は大振りな銀のナイフだが、トドメは必ず銀の弾丸で心臓を狙い撃つ。人狼の命を奪うには、それ以外に方法はない。
静寂を切り裂く悲鳴が、イーストエンドの細い路地から響き渡る。切り裂きジャックは血の匂いを辿り辿って、瓦礫の山に隠れ潜む闇の存在を発見した。言うまでもなく、人狼である。それはかつて、彼の愛する女を貪り食らったモンスターたちの係累だった。
その憎悪が、彼を止むことのない復讐心に駆り立て、人狼ハンターへの道に踏み込ませる決定的な動機となった。
彼の手には鋭利な銀のナイフが握られている。
彼を突き動かす衝動は、理不尽なまでの怒りと悲しみ、そして失われた命への執着だった。それらが渾然一体となり、彼自身もまた怪物へと変貌せざるを得なかった。
発見されたことを察知した人狼は、素早く逃亡を図ったが、それを許す切り裂きジャックではない。
開戦、血みどろの戦いが始まった。ジャックは人狼の鋭い爪をかわし、その腹部に深く銀の刃を突き立てる。裂かれた皮膚から流れ出すどす黒い液体を躱しながら、背中のホルスターから、スラリと長い細身の銃身を抜き出す。彼は、銀の銃弾を装填済みのマルティニ・ヘンリー銃で、人狼の心臓を正確に狙い撃った。
月齢は朔を越えたばかりの上限の三日月で、満月にはまだ遠く、弱体化していた人狼はあたりまえのように即死した。前のめりに倒れた人狼を蹴り上げ仰向きにさせると、ジャックは腹を割き、胃を切り裂いて中を改め始めた。そこから、人の遺骸が見つかれば、たとえそれが肉片でしかなくても回収して、丁寧に供養する。
しかし、遺族を探したりはしない。見つかることは稀であるし、何より遺品の入手ルートについて説明のしようがないからだ。人狼ハンターはかくの如く闇の存在なのである。
肉を切り裂く鈍い音と、腹圧によって飛び散る臓物。彼はためらうことなく、血にまみれた手で人狼の体内を遠慮なくまさぐる。そして、ついにその手は柔らかな感触を捉えた。
血と臓物にまみれた、ラズベリーひと粒分ほどの小さな身体。それはとうに息絶えてはいたが、彼はそっと抱きしめ十字を切った。見た目は人間の女と変わらないメスの人狼の生態として、妊娠八週頃の人間の胎児の丸飲みを特に好む傾向にあることは、ハンターの間では知らぬ者はおらず、ハント後は必ずこの確認作業を行うのが常だった。
『切り裂きジャック』の復讐は、その後も続く。
彼の名が、後生に歪んだ形で伝承された理由は謎だが、一説には人狼側のプロパガンダによるものではないかと、今でもスコットランドヤード内ではまことしやかに囁かれ続けている。
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