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ロイヤルマリッジがじれったいので、私いやらしい雰囲気にしてきますね?  作者: 鴇田 孫


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第8話 恋の始まりをかき回す風

 中庭にて、ちっと足をのばしたアルフレッドと畑の様子を見て帰る途中のエリザベスは偶然に顔を合わせた。


 「あ、アルフレッド様」

 「エリザベス嬢……ああ、ハゥラ嬢とまた一緒だったのか?」

 「いえ、……少しお花を見ておりました」

 ぎこちない挨拶。二人のあいだに漂うのは、過去と立場と未練の混ざった空気。

 会話はいつも途中で止まってしまう。どちらも傷つくのを恐れて、次の一歩を踏み出せないでいた。


 そんな空気を――見事にぶち壊したのが、例の娘だ。

 「おー! お二人とも、いい雰囲気じゃないですかー!」

 王城にやってきたばかりの娘は、空気というものを知らない。

 手に花籠を持ち、にこにこしながら二人の間に割り込んできた。

 「このバラ、エリザベスさまのお好きな色なんですよね? ほら、陛下。摘んでお渡ししては?」

 「え、いや、私は――」

 「照れてる場合じゃありませんって! 女性は花を貰うと嬉しいものですよ!」


 エリザベスの頬がわずかに赤くなる。

 アルフレッドはたじろぎながらも、花を受け取り、口を開いた。

 「……お前の言うとおりだ、ハゥラ。エリザベス、この色が似合うと思う」

 「あ…………ありがとう、ございます」


 小さな一言と、小さな花。

 だが、それだけで二人の心の距離はほんの少し、動いた。


 中庭の風が、ふわりと吹く。

 その風の中心で、ハゥラは両手を腰に当てて笑った。


 「ふふっ、恋の花も、ちゃんと陽に当てて育てなきゃ枯れちゃいますよー!」


 セオドールがその様子を遠くから見て、ため息をつく。

 「……あの娘、王城の秩序を混ぜ返す風のようだな…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「……また、殿下を困らせたそうだな」


 中庭で水やりをしていたハゥラの背後から、低い声がした。

 振り返れば、セオドールが腕を組んで立っている。


 「えー? 困らせたなんて言い方やめてくださいよ。

 アルフレッドさん、ちょっと顔がほころんでましたもん。嬉しそうでしたよ?」

 「……あれは困惑の表情だ」

 「似たようなもんですって!」

 

 ハゥラは悪びれもせず、土のついた手をぱんぱんとはたいた。

 その仕草にセオドールは眉をひそめつつも、どこか目を逸らした。


 規律と沈黙に慣れた彼にとって、ハゥラの存在は落ち着かない。

 だが同時に、見ていると奇妙に気が緩むのだった。


 「セオドールさんも手伝ってくださいよ。これ、アルフレッドさんのお部屋の前に植えるんです」

 「……私が?」

 「そうです。恋の手伝いは、男の方が真剣にやらなきゃ」


 「……恋の、手伝い?」

 「はい! エリザベスさまが通るたびに、きっと花を見て笑ってくれます。

 そしたら陛下も嬉しくなるでしょ?」


 セオドールは言葉を失う。

 真面目な騎士にとって、“恋の手伝い”などという任務は存在しない。

 だがハゥラはまるで当然のようにジョウロを差し出した。


 「はい、お願いします。ほら、ちゃんと根本に水あげてくださいね」

 「……まったく」


 不器用に水を注ぐセオドール。

 隣で屈託なく笑うハゥラ。


 その光景を、たまたま通りかかったアルフレッドとエリザベスが目にする。

 二人とも、思わず足を止めた。


 「……楽しそうですね」

 「ええ。……あの二人、妙に息が合っているようだ」

 「ふふ。羨ましいですわね」


 照れ隠しのように言うエリザベスに、アルフレッドは小さく微笑んだ。

 ほんの少し、距離がまた近づいた気がした。


 そして――

 風に揺れる花々の中で、ハゥラは気付かぬまま、自分の胸の奥にも、なにか小さな芽が根を張り始めていた。

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