第五章(5)
ゆっくりと息を吐いたラウルは「そういうことかもしれない」と答える。
「俺にとって、君は特別な存在だ。それを好きというのなら、好きなのだろう」
「なるほど。そういうことなら、私も団長さんが好きだってことなんですかね?」
「ん?」とラウルが聞き返す。
「私にとって団長さんは特別な存在です。呪いを解かなきゃいけないのに、呪いを解いたら一緒にいられなくなるって考えたら……」
リネットの胸が痛くなったのだ。今だって、ずきずきと痛む。
言葉も続かなくて、葡萄酒を飲もうと手を伸ばしたところ、それをラウルに奪われた。
「あ、団長さん。何をするんですか」
「君が、いいところで話を終えるからだ。なんなんだ、この焦らしは。続きを言うまで、これはやらない」
「そんな」
葡萄酒のせいもあって気分も高揚しているリネットは、むっと唇をとがらせラウルを見上げた。
するとラウルがちゅっと口づける。
「あ、なんでキスするんですか。おはようのキスの時間ではありません」
「これは、おはようのキスではない」
「だったら、なんのキス?」
リネットが尋ねれば、ラウルも「なんのキスだ?」と首を傾げる。
「いや、それよりもだ。リネットは俺の呪いが解けたあとも、俺と一緒にいたいのか?」
直球で聞いてきた。
リネットはラウルの宝石のような青い目をじっくりと見つめる。彼も同じように見つめ返してきた。
室内はしんと静まり返り、この鼓動がラウルに聞こえてしまうのではと不安になるくらい。
「……はい。できれば、呪いが解けた後も、一緒にいられたらと……思います……」
恥ずかしさもあって、語尾が小さくなっていく。
「つまり、リネットは俺のことが好きだと。そう解釈していいのか?」
「団長さんとこれからも一緒にいたいという気持ちをそう呼ぶのであれば、そうなんだと思います」
「つまり、君は俺が好きだと?」
あまりにも真剣に顔をのぞき込んでくるから、逃げられない。適当に返事をすれば、それすら見抜かれそうな。
「……はい。私は団長さんが好き……です。多分」
言葉と一緒に、心臓まで口から出てきてしまうのではと不安になるくらい、鼓動が激しい。
「最後の多分が余計だが……だったら、何も問題はないだろう。俺の呪いが解けても、俺たちは恋人同士だから一緒にいられる」
「それは、呪いを解くための設定ではなく?」
「だから、それを本当にしてしまえばいいだろう」
そのままラウルが唇を重ねてきた。
これはラウル得意のしつこいキスだ。すぐにリネットの唇を食み、こじ開け、舌を絡めてくる。
葡萄酒の味が、口の中いっぱいに広がる。
まるで食べられるのではないかと思えるくらいの激しい口づけ。いつもの「おはようのキス」よりもさらに濃厚だった。
唇を重ね、二人の熱が高まり、いっそうお酒の匂いが濃くなった。
息苦しくなったリネットは、いつものようにラウルの胸をぽかぽかと叩く。キスをやめろの合図である。
ちゅっと最後に吸い付いて、ラウルは唇を解放した。
「だ、団長さんのキスは相変わらずしつこいです」
リネットは唾液で濡れた唇を手の甲でぬぐう。それに、先ほどから臀部に感じる硬いもの。リネットがお尻をずらせば、ラウルからは「うっ」と苦しそうな声が出た。
「なんで、団長さんのアレが元気になってるんですか! キスが効いてない?」
「いや、キスは効いている。君がかわいすぎて、君に欲情しているだけだ」
「はっ? あっ。もしかして今朝も? だから私のキスで萎えなかった?」
朝と同じ状態だ。症状緩和処置を行ったのに、萎えるどころか元気になっていた。
今朝だって二つの仮説を立てた。キスの効果が薄れた可能性。もしくは、ラウルが「おはようのキスに」感じてしまった可能性。
「団長さん、やはり苦しいんですか?」
「苦しいというか……とにかく、リネットがかわいすぎて興奮してる」
「朝も?」
「正直に言えば、朝も君に欲情した」
先ほどからリネットの心臓はドキドキとうるさい。お互いの気持ちを伝え合ったからなのか。
「団長さん。やっぱり私は、団長さんが辛いと思っていたら、それを取り除きたいって思うんです」
「そうか……」
「だから、手か――」
リネットが言いかけたところで、ラウルがその言葉の先を遮った。
「君の気持ちはわかった。だが、俺だけがそうやって君の気持ちを受け取るのは不公平だ」
「いえ。いつも団長さんにはよくしてもらってますし……」
「なるほど。だが、俺が君にしていることと、君が俺にしようとしていることは異なる。ここは平等に同じようによくなろう」
リネットが驚いて目を大きく見開いたときには、すでにネグリジェの胸元のリボンが解かれていた。
これはラウルが買ってくれたもの。だからいつもの透け透け布地で、前を鈎でとめているものではない。腰のリボンと胸のリボンの二カ所をはずしてしまえば、前が大きく開いてしまう。
「あ、ちょ、ちょっと……」
胸のリボンを解けば、胸元が大きくはだけた。
「いつも思っていたが、下着はつけないのか?」
たゆんとした胸のふくらみが、ラウルの眼前にさらけ出された。
「あっ……団長さん、何を……」
「君に一つだけ教えておこう。男が女に服を贈るのは、それを脱がせたいという意味だ」
ラウルが触れてくる。予想していなかった刺激に、思わず腰が跳ねた。
「反応が初心だな」
「なんで胸を触るんですか!」
「俺が触りたいからだ。それに、気持ちいいだろう? 君の過去がどうであれ、今は俺のものだという証をつけたい。君のすべてを俺でいっぱいに満たしたい」
とにかくラウルが身体中に触れ、舐めてくる。
「どうして……そんなとこ……」
やめて、とリネットがラウルの頭を掴む。
「リネット?」
「なんで、そんな赤ちゃんみたいに……」
ラウルも驚き、いつもより多めに瞬く。
「こういうことはあんまり聞きたくないのだが……こうやって触られたことは?」
「あるわけないじゃないですか!」
リネットはその隙に、はだけた胸元をしまった。
ラウルもどうしたものかと、顔をしかめる。コホンと空咳をした。
「いいか? 俺は今、君にめちゃくちゃ欲情している」
「はい、どうぞ。団長さんの元気になったソレを、私に突っ込むんですよね?」
ごほっとラウルが噴いた。
「まぁ……言い方はちょっとアレだが……。とにかく、リネットを愛し尽くして、一つになりたい」
「では、どうぞ」
リネットがネグリジェの腰リボンを解こうとしたところで、ラウルはその手を掴んだ。
「ちょっと待ってくれ」
なぜかラウルは動揺している。
「その……君は、キサレータで側妃という立場にいたんだよな?」
「はい」
「それでその……身体を弄ばれていたと……」
リネットは目を細くして不機嫌な表情を作るが、ラウルはおかまいなしに言葉を続けてくる。
「つまりその……皇帝は元気になったアレを突っ込んでいたと? それだけか?」
「それ以外に何があります?」
「ある!」
ラウルはリネットを横抱きにしたまま立ち上がる。
「我慢がきかずに、ここで物事をすすめようとした俺がバカだった」
「ちょ……団長さん。どこにいくんですか!」
「どこって、ベッドに連れていくだけだ。ベッドで、君をすみずみまで愛してやる」
ラウルの瞳は腹を空かせた肉食獣のようにぎらぎらしていた。
リネットをベッドの上にぽふっと転がしたラウルは、「いいか、よく聞け」と言いながらリネットを覆いかぶさるようにして膝をつく。
「これから俺が君にする行為は、君を愛する行為だ。俺がどこを触っても文句を言うな」
「どこをって……さっきのように、胸も?」
「そうだ。それに胸以外にも触る。ありとあらゆるすべての場所を触る予定だ」
大真面目に肯定され、リネットも困惑する。
「どうして胸を触るんですか?」
「俺が触りたいからだ。それに触り心地がいい。さっきも触れたが、君の胸はふにふにっとしていていつまでも揉んでいたいくらいだ。それに、君自身も気持ちがいいだろう? こう、何か、感じることはなかったか?」
「感じる……?」
リネットがきょとんとしたままラウルを見上げれば、彼は身もだえしそうになるのを堪えるような、そんな表情をする。
「皇帝が憎いと思っていたが……今は、微妙な気持ちだ……。とにかく、これから君を感じさせてやる」
両手をにぎにぎとするラウルの動きが怖い。
「俺が何をしても、受け入れろ。俺は君を傷つけたりはしない。ただ、君に感じて気持ちよくなってもらいたいだけだ」
「団長さんのほうはそれでいいんですか?」
「いい。君に気持ちよくなってもらわなければ、俺を受け入れることができない。無理やり俺を受け入れれば、怪我をしてしまうかもしれない。だから黙って俺に身を委ねろ」
あまりにもの迫力に、リネットは「は、はい」と頷くしかなかった。
「では、いつもよりしつこいキスをする」
ラウルの口づけが落ちてきた。それは重ねるだけのやさしい口づけ。
「やはり、君の唇はやわらかい」
ラウルは吐息とともにそうささやき、唇を柔らかく食んだ。そのまま唇の形をなぞるかのように、舌を這わせてくる。
組み敷かれたリネットの身体が、ひくっと跳ねた。
キスの間、ラウルの手はリネットの頬を包み込む。まるで捕らえた獲物を逃がさないようにしっかりと。
「おはようのキス」よりも強い疼きが、背中にびりびりと走る。
それでもラウルはリネットの唇を解放しない。
今までされたことのない激しい口づけに翻弄されているリネットは、ネグリジェの胸と腰のリボンを解かれたことなどに気づかない。
すっとラウルが顔を引いたときには、リネットの素肌が外気に晒されていた。さらにラウルは器用に脱がせ、ネグリジェが一枚のシーツのように広がる。彼にとって、リネットの服を脱がすことなどお手の物。
「団長、さん……って、なんで?」
リネットは慌てて胸元を両手で隠す。
「リネット。俺の名前はわかるか……?」
なぜ、突然そのようなことを尋ねてくるのか。
「知ってますよ、ラウル・ハリー」
「だったら、いつまでも俺を団長と呼ぶのはやめろ。俺は第七騎士団の団長だ。となれば、他にも六人の団長がいる」
少し怒ったように言い放ったラウルは、そのままリネットの手をとった。親指をぱくっと咥える。そのまま彼は宣言したように、リネットの身体を愛し尽くした。




