モブの私が婚約破棄に介入したら
「レイナ・フォートハルト! 貴様との婚約を破棄する!」
会場内に聞こえるぐらいの大声がして私は振り返った。
そこには既に人が集まっていてザワザワしていた。
(あれって確か王太子様よね、その隣にいるのは同じクラスの……確かモニカ・テレスリー男爵令嬢よね?)
私は状況を確認しつつ中心人物達に見入った。
あ、私はコレット・クラスフィーヌ、男爵令嬢です。
今日は王家主催の貴族学院卒業前のパーティーで参加している。
因みに婚約者がいる令息令嬢は同行を許可されているが私は婚約者がいないので1人で参加、悪いか?
だって我が家は没落寸前の男爵家、いつでも爵位を返上して平民になれますよ、ていうくらい生活カツカツなのだ。
そんな家に婿に来る人なんていると思います?
貴族学院には婿探しもあったんだけど早めに諦めて領地の繁栄の為に必要な知識と人脈作りに方向転換をした。
まぁ人脈作りは成果は出なかったけど、知識は手に入れたので実家に帰ったら汗水掻きながら働くだけ、こんな華やかな社交の場なんて出る暇はない。
だから、最後の社交の場なので楽しもうと思っていたのにこの騒ぎだ。
(まぁあのモニカって子も玉の輿狙いなのは知っていたけどまさか王太子に手を出すなんてねぇ……)
命知らずとは正にこの事だ。
だって王家の結婚は王命で決まっている、それを邪魔する事は王家に喧嘩を売っているのと同じ事。
自滅への道を転げ落ちている事に気付いていないのは本人達だけ、レイナ様も呆れている。
「……理由を聞いてもよろしいですか?」
「貴様は我が愛しの恋人であるモニカを虐めた! それ以外に理由は無いだろう! それに大階段から突き落としただろうっ!」
「私、怖かったんですぅ……」
涙目で王太子様に寄り添っているモニカ嬢。
まぁ男性ならコロッと落ちてしまうだろう。
しかし、私は王太子様の発言に気になる事があった。
「あの〜、1つよろしいでしょうか?」
私はおずおずと手を挙げた。
「なんだお前は?」
「私コレット・クラスフィーヌというしがない男爵令嬢です。 今、階段から突き落とされた、て言いましたがそれっていつの頃ですか?」
「いつの頃? 半月前の事だ」
「半月前ですか? でしたらモニカ様は今この場にいるのはおかしいですね。 大階段から転げ落ちたとしたら半月で治るぐらいの怪我ではすまないですよ、見た所モニカ様はかすり傷すらしてないみたいですけど」
私の指摘に会場内は『そういえば……』みたいな空気が漂った。
「あの大階段から転げ落ちたら軽くて骨にヒビが入ったり、打ち所が悪ければ命を落としかねないですよ。 実際過去に死亡事故があったぐらいですから」
『あぁ、俺も聞いた事がある』、『先輩や先生に聞いた事があるわ』という声が聞こえる。
王太子様は顔色が悪いしモニカ様は顔が真っ赤である。
はぁ、とレイナ様は溜息を吐いた。
「殿下、私の事が気に入らないのは知っていますしそちらのモニカ嬢と良い仲になっているのも知っていました。 ですがこの様な公の場で婚約破棄を宣言するなんて……、しかも私を悪人の様に仕立て上げようとするなんて……、公爵家から正式に抗議をさせていただきます」
そう言ってレイナ様は私の事を見た。
「コレット・クラスフィーヌと言いましたね、助け舟を出してくれてありがとうございます。 後ほどお礼をさせていただきますわ」
「い、いえ……、ちょっと気になっただけですので……」
「いえいえ、おかしいと思う事を指摘するには勇気が必要ですわ、殿下は絶対に間違いを認めませんし指摘すると逆ギレする始末……、こんな方が将来の王になるかと思うと些か不安しか無くてお父様ともこの婚約を続けるかどうか相談していましたわ」
あ、やっぱり不満があったんだ。
「まぁ今回の件で正式に婚約は解消になるでしょうし、殿下も国王様から何らかの処分を下されるでしょう」
「はぁっ!? ち、父上がっ!?」
「えぇ、国王様が学園内での殿下の行動を知らない、と思っていたんですか? 常に報告が上がっているんですよ。 私、王妃様とのお茶会の時に謝られているんですよ」
あ、王太子様、顔面蒼白になった。
その後、警備兵達が入って来て王太子様とモニカ様を連れて行ってしまいパーティーはお開きになった。
そんな騒動があった数日後、私はレイナ様に呼び出され公爵家に来ていた。
「先日は本当にありがとう」
「いえいえ、私みたいな男爵令嬢が口を出して良いか、と思ったんですが」
「貴女のあの発言で完全に空気が変わりましたし私も反論出来る勇気が出ました」
そして、その後の話を聞いた。
まぁ予想通りだったけど、王太子様は国王様から強い叱責を受けて王太子の座を剥奪され辺境に飛ばされた。
モニカ嬢は男爵令嬢の立場でありながら元王太子を誘惑した、と言う事もあり特別更生施設に強制的に入れられた、という。
「修道院ではないんですね」
「修道院に入れたら迷惑をかけるでしょうしね」
レイナ様の発言に確かにと思った。
「貴女とは今後とも友好的な関係を築きたい、と思っているわ」
「それはありがたい話です」
「それで困っている事はないかしら? 出来る限り援助をしたいのだけど」
「困っている事、まぁいっぱいありますが……、まずは私の結婚相手ですかね」
そして、私はレイナ様の紹介で公爵家の遠縁にあたる方とお付き合いして結婚する事になった。
その方は優秀な方で崖っぷちだった我が家の財政を立て直した。
レイナ様とも学園卒業後も友好な関係が続いた。