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猛吹雪

 

 帝都から離れる事を優先した為、桜吹雪一行は最悪な状況に陥っていた。


「ねぇ、もう干し肉飽きたよぉ」


「確かに流石に歯が痛てぇな」


「仕方ないやろ、早く離れる為に簡単な依頼しか受けずに来たんやから」


「私のせいですよね……」


 戦闘慣れしていないセンリ、そんな彼女を気づかい依頼の難度を下げていたのは事実だろう。


「いや、ええねんそれは、節約せんうちらも悪いんやから」


「桜吹雪名物、猛吹雪」


「よくあるんだ、うち金欠パーティーとも呼ばれているからね」


 確かにここへの旅路は殆どが乗り合い馬車、街につけば宿暮し、3食食事付きとなかなかの暮らしをしている。


 冒険者ならば夜営や日に1食等も良くあること、彼らの能力が高いのは分かるが受けた依頼からすればそんな贅沢を出来る状況ではない。


(そういえばセンリの装備を買った後の残りも預けて居るんだよな?)


(あれはもうないらしいよ、私の宿代とかもあったし)


 確かに物価が以上に高いこの国で金貨はあっという間に消えるだろう、高級店へと入ればだが。


「センリ、私にも白パン分けて」


「全然構わないよ」


 泣きついた千鶴の脳天に一気に落とされる拳、彼女はそのまま地面とキスをする事になった。


 顔面が地面へ食い込む勢いに見ているこっちまで肝が冷える。


「甘やかさんでええよ、元はと言えばこの2人が悪いんやから」


 旅を始めた頃から2人の扱いが、他とかなり違うかった事には気がついていたが、その理由を詮索してはいけない気がしてセンリも自ら聞こうとはしていなかった。


「こいつらあの町で結構なつけ作ってたんや、離れるに当たって全部精算したんやけどうちらの旅費にくい込んでな」


「仕方あるまい、まさかすぐに離れる事になるとは思ってもいなかったんだからな」


 新たな門出にとかなりはっちゃけたそうだ。

 何時もの事であり2人も依頼を受ければ問題ないと踏んでいたのだが……ここで誤算があった。


 異常に高い物価のせいと、思った以上に住み心地の悪い環境が数日で離れる方針へと切り替わったのである。


「急遽離れる為に依頼の報酬でツケ払いに行ったら全然足らんでな、うちらの予備金に少しセンリからの預かり金も使わせてもろてたんや」


「あはは、そんなに溜まってたんですか」


「到着後の休みを飲み明かしで使い切っていたからね、後先考えずに飲んだくれた結果予想よりも高くついたものだから大変な額を請求されてましたよ」


「自業自得だ」


「だってぇ、何時もの5倍は高かったよ、あんなの詐欺じゃん」


「いつも言うとるやろ、ちゃんと下調べせぇて」


 千鶴と劉禅は騒ぐ事が好きらしく周りを巻き込み盛大に行うらしい、横の繋がりを作れる利点もあり誰も止めはしないのだという。


(お祭り男女か、いや、ただの呑んべぇな気もするな)


(どんなに侘しい食事でもお酒だけは何時も用意してますもんね)


 念話の会話にも慣れたセンリが笑うのを堪えて俺に語りかける。


「そろそろ旅費もキツくなってきたし大物狙いせなあかんね」


「彼女も慣れた、いい頃合い」


「もうすぐ国境近いし、大きな街がある、そこで数日稼ごうか」


 シャイリン、ロン、ライオットの3人が地図を睨みながら食後に今後の方針を話し合い始めている。


(大分スキルレベルも上がったな)


(あまり実践はさせてもらってない気がしますけど……)


(ん……いや、かなりしてるよな)


 ここまでの道中、最初こそ採取主体の依頼を受けてくれていた桜吹雪のメンバーだが、それなりに魔物との戦闘も少なからずあった。

 メンバーの補助があったとはいえセンリの戦闘センスはなかなかだと好評だったりする。


 人型の魔物に躊躇なく首をはねとばした時の彼女の度胸には感嘆したが、あれは彼女の中では訓練としての認識なのだろうか。


(全然ですよ、もっと胸が熱くなるような戦いもしてみたいです)


 強い相手を求めるとは彼女には戦闘民族の血でも流れているのだろうか、バトルジャンキーでない事を切に願いたい。


(その分危険になるんだが……此方としてはそれなりにスキルを充実させて安全マージンをだな……)


(お父さんですか!シンエイさんは度胸が足りないんですよ、付いてるんですか?)


 何をとは聞き返さない、何より俺はスキルになっているので答えはノーとしかいえないのだ。


(ちょっ……センリちゃんはしたないわよ!女の子がそういう事言っちゃいけません)


(またはぐらかそうとしてますよね)


 元は地味子を絵に書いたような彼女だったが、うちに潜んでいたのは男勝りな性格だった。

 これまでにも強気な性格は見え隠れしていたが、男達に囲まれて怯えていた少女は見る影もなくなっている。


「センリ次の街では討伐主体の依頼を受けようと思うんやけど、どうする?」


 話し合いが纏まったのかシャイリンから声が掛けられ、俺はまだ早いと伝えようとするが、彼女からの無言の圧力を念を通してひしひしと感じる。


(……はい、いいと思います)


「私も参加します!挑戦しないとですから」


「流石センリ、男前だよね戦闘になったら目つき変わるのは伊達じゃない」


 酔っ払い女、うちの子を戦闘狂のように言うのはやめてくれ、自覚しだしたら歯止めが聞きそうにないんだよ。


 酒瓶片手に豪胆に飲みながら口を開く千鶴へ無意味と分かっていても苦言を主張しておく。


「それじゃ、ゼグルムの街で皆で資金稼ぎやな」


 こうして桜吹雪の懐事情の猛吹雪対策が決定した。

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