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お望み通り脱出

「シンエイさん、あれで良かったんですか?」


(バッチリ完璧や、目立ち過ぎずしっかり空気となっていれたぜ東條ちゃん)


 彼女の頭の中で声を響かせ、拍手音までつけて賞賛してみせる。


「あの、ちょっとうるさすぎるんですけど……頭痛くなっちゃいますよ」


 急に頭の中でどんちゃんされるのはやはり煩わしいものがあるようだ。

 思念が横入りしてくる感覚に異様な嫌悪感を持ってしまう、それには経験があるし自重せねばと胸に誓おう。


(胸所か肉体も無くなっちまってるんやけど)


「んっ?なんのことですか?」


(いやいや、こっちの話)


 俺は今、彼女のスキルとして自我を持つ事となっている、どうしてそうなったかは双子の女神からしっかり説明されたのだが、今はそれより重要な事がある。


(さて、これからの事をしっかり話し合わねぇと)


「はい、どうしたら良いんでしょう、このままここに居たら危ないんですよね」


(出来ることなら追放に持っていきたかったんだけどな、勇者君達の擁護が強すぎて流れを断ち切られちまったし)


「みんなで逃げる事は出来ないのかな?」


 俺事、スキル【シンエイ】の保持者東條千莉ちゃん、大人しそうに見え根暗なのかもしれないと見た目で判断していたが、口を開けばハキハキと自分の意見も言えるしっかり者だったようだ。


(彼らは当分は今のままここに居た方が良いやろね。曲がりなりにも勇者だし、逆に逃げ出せば追ってを向けられる可能性も高いし)


「それでも危ない人が居ること位は教えてあげた方が……」


(何も知らない方がいい事もあるんだ、下手な警戒するよりも身の安全を第一にした方がいい事もあるし、後々手助けの方法は見つけるって事にしとこ)


「私だけ危険から離れるのは心苦しいです」


 彼女の言い分も分かる、だが此方としても第一優先は保持者の彼女なのだ、運命共同体の彼女が危険に晒される事だけは俺も容認しかねる。


(そこは飲み込んで貰うしかない、俺だってまだ右も左も分からん状況やし、助言を受けたのもこの国を脱出する事を優先にってだけなんだ)


「そうだとしても危ないと分かってて放置するのは後味悪いですよ」


(それは俺もそんなんだけど……東條ちゃん誰か来たみたいや、お話は後でにしよ)


「はい、わかりました」


 俺の中には女神から貰ったスキルが存在しているが、その全てを把握している訳では無い、初期に与えられた真鑑定や念話が使える事が分かっている程度、そのうちの1つ気配察知に反応が出た。


 廊下にコツコツと此方へ向かう足音が聞こえてくる、他3人とはかなり離れた場所に案内されている彼女の部屋。

 近づいてくる者の目的は十中八九ここに間違いないだろう。


 コンコンと扉を叩く音が部屋に響く。


「はい、なんでしょう?」


「東條様、スイレムです早急にお話したい事がありまして」


(あの聖女様か、ここは誘いに載ってみようか)


 俺の念話に頷きで応え彼女が扉に近づいて声をかける。


「聖女様、今開けますね」


 内側から掛けた鍵を開け扉を開けた先にはあ、哀れむ顔と焦りを見せる聖女の姿が目に入る。


「東條様、私どうしても貴女を助けたくて……」


「どうかしたんですか、凄く慌てているように見えるんですけど」


「貴族派の人が話していたのです、貴女の事が漏れてしまったようで、力のない貴女は邪魔になるからと」


 彼女の動揺を隠さない態度は迫真の演技ではあるが、慌てていたたまれなく人間が向かう速さの足音でもなかったと思うのだが。


「何をされるか分かりません、今のうちに逃げてください、門番には話を通してあります、僅かばかりですがお金も用意させて頂きました」


(追い出したいだろうな、城を脱出出来るならここは話にのっておく方が良いかもしれないぞ)


「そ、そんな、私どうしたら、勝手に消えたら皆にも心配かけてしまいますし」


(あれ?念話届かなかった?東條ちゃんどうする気だ)


 彼女の反応に俺も慌てる、これでは話がややこしくはなりはしないだろうかと不安が込み上げてくる。


「勇者様達には私から説明しておきます、今は猶予がないのです、すぐにでも追っ手が来るかもしれませんし」


 聖女の言葉が終わるなり複数の足音がこちら側へ迫る音が響いてくる。


「わ、分かりました、でも、私どこは向かえばいいか」


「あちらから裏門へ続く庭園に降りられます、神官を待機させているのでその者に従ってください」


「聖女様、ありがとうございます、何れこの恩はお返ししますね」


 金貨の入った袋を受け取り、スイレムの指し示した廊下の先へと駆け出す東條ちゃん、上手く事が運び脱出の方向に話が進んでしまった。


「スイレム様、逃がして良いのですか?後々面倒事になったりしませんか」


「問題ないでしょう、私に恩義を感じていたようだし、監視だけつけて起きなさい」


「かしこまりました、では計画通りに進めます」


 離れた場所でそんな話がされている事は知る由もないが、案内役と出会ってからはスムーズに城の外へと抜け出すことが出来た。


「東條様、御者を手配しております、お疲れとは思いますが一刻も早く帝都を抜け出して下さい」


「はい、色々ありがとうございます神官様」


 用意された簡素な馬車は夜の帝都を走り去り、彼女を乗せたまま数十分後には帝都の門をくぐり抜ける。


(いやはや、なんだかあっさり抜けられちまったな)


「あぁ言うのは逃げ出すように種を仕込んでいるものです、それに恩義を感じているように見せておけば警戒される事も無くなるかもですよ」


(俺まで騙されちまったぜ、東條ちゃんは女優の才能があるね)


 馬車の後方に腰掛け、御者との距離を取り話を聞かれないように彼女が小さな声で話しかけている。


「異世界モノには良くある展開じゃないですか、追放する為には手段を選ばないって、それに、3人には知られたくないからこそ当分は手出しもないと思いますよ」


(いやはやお見逸れしました、とりあえず今は休んで起きな、何かあれば俺が起こしてやるから)


「すみません、少し休まして貰いますね」


 馬車の後部に頭を預けすぐに寝息を立て始める眼鏡少女、思っていたよりも度胸も胆力もあるようだ。


 無事脱出は出来たものの何があるか分からない、彼女のこの先の為にも今はゆっくり休んでもらう事としよう。


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