召喚
冒頭部分の中編小説として書いていきます
土台の構想が長編なので終わり方は微妙と思われる方もおられるとは思うけど……
気楽にお付き合いしてもらえれば
駅へと続く商店街通りは夕方になれば帰宅の学生や買い物客でそれなりに人が混み合う。
いつも通りの帰り道、佐野 瑠璃斗、神城 雲雀、篠目 清治の幼なじみ3人はいつもの様に帰路の為駅に向かい人通りの多い商店街の道を歩いていた。
そんな彼らの足元が急に光だし、辺りが眩く照らし出される。
「おい、なんだよこれ」
「わ、分からないどうすればいいの」
「くそっ、動けないじゃないか、どうなってるんだ」
3人の足元に描かれていく紋様が完成していくにつれ、光もまたその輝きを増していく。
辺りに居た者も不思議な現象によって様々な反応を見せる。
その場から離れようとする者、野次馬のように集まりスマホのカメラで撮影する者と様々だ。
「おいおい、なんだよこれ、すげぇじゃん」
「なに?なんなの」
「魔法だ!転移だよ、俺も連れてってくれ」
「おい、押すなよ、危ねぇだろ、離れろってっ」
騒然とする中の混乱で弾かれた学生にぶつかり弾き出された少女が紋様の中に尻餅をつく。
3人とは違い動けた彼女、その場から逃げようと自身の手を伸ばし何かを掴んだ瞬間、完成した紋様からの光が上空へと立ち上がり消失していく。
消えた先に彼らの姿は残っていなかったが、その場に動かなくなった1人の男だけが意識を失い転がっていた。
「おぉ!成功ですな、これで我らの国も安泰でございます」
「流石聖女様、これ程の奇跡を起こされてしまうとは」
「今はそんな事より勇者様方を」
煌びやかな彫刻やステンドグラスで飾られた窓、神聖な祭儀上の見える広い空間に4人の少年少女は放り出されていた。
足元には光に包まれた時に見た紋様が描かれており、数人の男と真っ白なワンピースドレスに身を包み額に汗をかきながらも凛とした美女が彼らの目に映る。
「ここ、どこかしら?」
「何が起こったんだ、あんたらの仕業かよ!俺達に何をしたんだ」
「僕達は拉致されたのか、それにしてもこれは非現実的にもほどがあるな」
「えっ……えっ?誰?」
各々が混乱を隠せず状況を理解しえていない様子で声を上げ口を開いていく。
そんな彼らに身なりの良い服に身を包んだ男が状況の説明をし始める。
「勇者様方、私宰相をしておりますサイモンと申します。驚かれるのはごもっとも、されど我らとて苦渋の末の決断なのです」
サイモンと名乗った男は世界が邪龍復活が近い為に危機に陥っている事、その打開策として勇者を召喚を実行した事等を丁寧に説明し終える。
状況を飲み込めない彼らは黙って一通りは話を聞いていたが、話が終わった途端声を荒らげる。
「巫山戯るな、俺達に関係ないだろう、はい分かりましたとでも言うと思っているのか」
「貴方達の都合は分かりましたが、僕達の意思を無視し過ぎですね、得体の知れない場所で急に救ってくれと言われても承服しかねるよ」
瑠璃斗と清治が怒りを顕に口を開くが、サイモンは表情を変えることなく言葉を聞き流す。
「勇者様方のお怒りはごもっともではありますが、どうか怒りをお沈め願いたい、我らとてこうする他道が無かったのです」
二人の言い分を聞いてる振りをして自分達の都合を押し付けようとする態度が見え隠れするサイモン、そんな彼の後ろから二人の前へ歩み寄ってきた男が片膝を着き頭を下げる。
「すまない、私達の都合に巻き込む事勝手すぎるとは重々承知している、しかし、この国の王族として何もせぬ訳には行かないのだ」
「カイベル殿下、王太子である貴方が頭を簡単に下げては国の威信に関わります」
「黙れサイモン、私の謝罪など些細な事だ、誠意を見せねばならぬのは我々の方なのだ」
頭を下げる青年が王族なのだと分かるように話を進め、理不尽に対して混み上がる怒りに釘を刺される少年達。
「私からもお願いします、召喚したのは聖女であるこの私スイレムです。全ての責任は私にあります、勇者様達の罵りは私が全てお聞きします」
そこへすかさず聖女の私が悪いのですと、冷たい石に頭を擦り土下座をしてみせる聖女を名乗る美女の熱弁が始まる。
「ですが、ですがどうかこの国の為、この世界の平和の為にお力をお貸しくださいませんか」
「聖女様まで……私の態度は不適切でしたな、国の支援は惜しまないと我が主君も仰っておりました、どうか一考願えませんでしょうか」
国の中でも重要人物と分かる3人が一様に頭を下げる姿を見せられ、2人としても怒りを飲む込む他ない空気になってしまう。
「わ、分かった、頭を上げてくれ……俺達も右も左も分からない状況だしこれからの事も考えないとだし、なぁ?」
「もう少し詳しく話してもらいましょう、簡単なは返して貰えない様子ですし、起こってしまった事を責めるより先の事を考える方が建設的ではあるしね」
いたたまれなくなったのか瑠璃斗が同意を求めるように背後の3人に視線を向ける。それに頷き清治が助け舟を出すように話を先に進める提案した。
「感謝する、自己紹介が遅れたが私はこの国の王の息子でカイベルだ、ここでは落ち着いて話すには不適切だろう、場所を変えて話し合う事にしよう」
立ち上がり佇まいを正したカイベルが落ち着いて話せる場所へ案内すると、皆を引き連れ祭儀場からの移動を進める。
彼らとしても何時までもこんな場所で立ち話をする気にもなれず相手の提案にのることにした。
「貴女同じクラスの東條さんよね、大丈夫?私達も行きましょう」
「……」
見知った顔の少女に手を差し伸べ、へたり混んだ相手をの立ち上がる補助をする雲雀。
その手を掴んで押し黙ったまま立ち上がる千莉。
(震えている?やはり唐突な事で怖いわよね)
握った手の震えを感じ取った雲雀が千莉を気遣い握る手を強くしながら彼女を連れ皆の後を追う。
状況下で恐怖するのは仕方ないと雲雀は勘違いしているのだが、千莉が震えているのには他にも理由がある事をこの時の彼女が知る由もない。