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学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで  作者: 野谷 海
第4章 ヤンデレヒロイン

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第49話 しかえし(雪乃視点)





 

 

 夏休みに入って1週間が経った頃、私はある人との待ち合わせ場所である、学校の中庭にやってきた。


 私が到着してからすぐに、その人は現れる。


「雪乃、いきなりどうした? お前から呼び出されるとは思ってなかったからビックリしちまったよ」


「千秋君、来てくれてありがとう」


「それで何の用だ?」


「千秋君は、私のどこが好きだった?」 


「いきなりなんだよ。まぁ、まずは顔だな。あとは、勉強もできるし、お嬢様だし……ってどうしたんだよ。まさか俺とヨリを戻したいとかって話か?」


「もしそうだったら、どうする?」


「そりゃ嬉しいよ」


「じゃあ私ともう一度、お付き合いしてくれる?」


「お、おいどうしたんだよ本気か?」


「答えて……」


「わ、分かった。すぐに杏とは別れる。あいつにはそろそろ飽きてきてたし、それでいいか?」


「そう……やっぱり、そうなのね……」


 思わずため息が漏れた。


「は? なんでそんな顔すんだ、嬉しくねーのかよ?」


「そうね、嬉しいわ……これで容赦なくお別れができるもの」


「お別れ? 俺らもうとっくに別れてただろ?」


「平さん、聞いたでしょ? もう出てきていいわよ」


 私の呼びかけで、校舎の陰に隠れていた平さんが姿を見せた。皮肉にもまるで、別れを告げられたあの時の再現のよう。


「まるちゃん、酷いよ……」


 涙を流しながら、平さんは言う。


「なんで杏がここに……雪乃、お前の狙いはなんだ? 俺を嵌めたのか!?」


「千秋君、私には今、好きな人がいるの。その人と先に進むには、どうしても過去を清算しておきたかった」


「花守のことかよ? お前あんな奴にほだされるなんてどうかしてるだろ」


「あなたには、彼のことを語って欲しくないわ」


「ああそうかよ。もういい、お前らをこの学校にいられなくしてやるよ」


「どうするつもり?」


「花守はボコって、お前には変な噂を流してやる。元彼の俺が発信源なら信憑性が上がるからな」


 我慢ならなかった私はケラケラと笑ってしまった。


「やっぱり、小さい男……こんな奴の為に死のうとしていただなんて、本当に私ったら、バカみたい……」


 沸点を超えた千秋君は、声を荒げた。


「おいてめぇいい加減にしろよ? 何が狙いだ言ってみろ?」


「だから言っているでしょう? お別れを言いにきたって。平さんや飛鳥さんからあなたの本性を聞いて、目が覚めたの。だからあなたにはきちんと罪を償って貰うわ」


「花守の、アップルパイの件のことを言ってんのか? そんな昔のことを掘り起こしたって、もう証拠なんてどこにも残ってねーぞ?」


「残念だけど私、あの時のアップルパイが入っていた袋を、実はまだ隠し持っているの。きっとあれからはあなたの指紋も、毒物も検出されるはず。平さんもあの時のこと、警察で証言してくれると言ってくれた。私も人のこと言えた人間ではないけれど、過ちは償わなければいけないと思う。私を振ったことに対してじゃない。今となってはそんなこと、どうだっていいわ。けれど、花守君を殺そうとしたことだけは、なにがなんでも許せない」


「おい……」


「いつも味方になったくれたであろうあなたのお姉さんも、今回の件に関しては全て私と花守君の判断に委ねてくれたわ」


「おい待てって!」


「たぶんこれが明るみに出れば、あなたは少年院に行くことになるでしょうね。でも、そんなことしても誰が喜ぶ訳でもない。だからね、千秋君。私からお願いが2つあるの」


「なんだよ……」


「ひとつは、次もしも花守君に手をだしたら、私があなたを地の果てまでも追いかけて必ず殺すから、大人しくしていて欲しいってこと」


「は? 殺す? お前何言ってんだ?」


「それからもうひとつは、この町を出て、学校も転校して、全てを1からやり直してほしい。あわよくばもう2度とこの町に戻ってきて欲しくはないけれど、それだと飛鳥さんが悲しむだろうから、4年に1度くらいは里帰りを認めるわ」


「人の話聞いてんのかお前!」


「さっきからうるさいわね。これはあくまでお願いだけど、あなたの顔を見ていたら、私はいつあなたを殺してしまうか分からない。そんな結末、あなただって嫌でしょう? なんならこれが脅しじゃないってこと、今あなたの指を何本か切り落として実践してみせても構わないけれど、どうする?」


 私が隠し持っていたハサミを取り出すと、千秋君は尻餅をついて倒れ込んだ。


「お前……どうかしてるぞ……」


「そうよ。恋をしているの」


「狂ってるよ……お前」


「ええ、そうよ。恋焦がれているわ」


 会話にならないと思ったのか、千秋君はこれ以上ひと言も発することはなかった。


 こうして彼は誰にも別れを告げず、夏休み中に転校届をだして、この町を去った。


 でも、この事実を知っているのは、私と平さん、そして飛鳥さんの3人だけ。


 3人で話し合った結果、この件を花守君には伝えないことに決めた。


 余計な心配も罪悪感も与えたくなかったから。


 これが私の、過去との決別。


 これから未来へと進む為の、第一歩。


 既に私の中では、揺るぎない決意が固まっていた。



 ――私は、花守春人に、恋をしている。


 

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