表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで  作者: 野谷 海
第4章 ヤンデレヒロイン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/75

第42話 生殺し





 ――僕は夢を見ていた。


 なぜ夢だと分かったのか。


 それは、白雪姫こと冬月さんが囁くような声で僕に甘えてきていたから。最初は半信半疑だったけれど、次第に要求がエスカレートしだして、膝枕をねだられた時点で夢だと確信した。


 案の定、自室で目覚めた僕は深い溜息を溢す。


 なんだか、身体がダルいし重い。

 

 そういえば昨日、僕はとうとう冬月さんに告白してしまったんだ。ただ好きだと伝えるだけで、これほどのエネルギーを使うだなんて、想像もしていなかった。


 まぁ厳密に言えば、まだ直接好きだと言葉にした訳ではないのだけれど。それでも、異性として好意を持っていることを、確かに伝えた。


 そして彼女は僕に、チャンスをくれたんだ。

 

 その期待に、なんとしても応えたい。

 

 だから僕は、強くならなくちゃいけない。

 


 準備をして学校へ向かうと、まだ集合時間より少し早かったというのに、校門には既に夏樹ちゃんの姿があった。


「おはようございます、春人先輩……」


「おはよう、ホントに早いね」


「だって、もし先輩たちがこのままカップルになっちゃったら、この朝の活動もダメだって言われちゃうかもしれないじゃないですか。だったら今の内に春人先輩を独り占めにできるこの時間を、大切にしたいんです……」


「そっか……夏樹ちゃんらしいや」


「春人先輩、やっぱり好きです。大好きです」


 ニコリと笑うその穏やかな表情が、チクリと刺さる。


「ど、どうしたの……? 何度も言わなくても、もう十分に伝わってるよ?」


「あたしに振り向いてくれるまでは、何度だって言いますよ? もう我慢しないって決めたので」


「もちろん嬉しいんだけど、それだと僕も反応に困るというか……」


「じゃあ、これからいっぱい困らせてあげます。春人先輩が悪いんですからね?」


 眼鏡越しから伝わる、真っ直ぐ伸びてくる眼差しに、今度はグサリと胸を抉られてしまう。


「分かった。ありがとう夏樹ちゃん」


「お礼を言う時は、あたしの告白を受け入れる時だけにして下さい、勘違いしちゃうので。あ、あとごめんなさいだなんて、もってのほかですからね!」


「え、じゃあ、なんて言えばいいの?」


 後ろで手を組んだねむり姫は、僕の周りをゆっくり一周しながら、おちょくったように言う。

 

「そうですねぇー。言葉はいらないので、ほっぺにチューとか、ですかね?」


「僕、そんなチャラくないよ?」


「知ってますよ、冗談です。でも――」


 突然爪先立ちになった夏樹ちゃんの顔が接近してきたのが横目に映ったかと思えば、彼女の小さな唇が、僕の頬に触れた。


 ――生ぬるくて、こそばゆかった。


 彼女はすぐに身を引いて距離をとると、真っ赤に染まった顔で続ける。

 

「あたしからする分には、まだ、自由ですよね……?」


「……」


 僕は呆気にとられてしまい、どう返すべきか考える余裕すらなかった。


「もちろん初めてだったので、責任、とってくれますか……?」


「い、いや責任って……でも、いくら払えばいいかな、慰謝料的なやつ……」


「あたしのチューは安くないんですから。でも春人先輩にだけは特別に、無期限で無料サービス中です……」


「そこは期限つけときなよ。今後自分を安売りしたことを後悔する日がくるかもしれないよ?」


「そうですね……じゃあ、春人先輩に彼女ができたら期限切れにして、別れたら、また復活させます」


「それだともしも僕と夏樹ちゃんがいつか付き合うことになったとしたら、キスする度に毎回お金とられちゃうね」


「あ、本当ですね、盲点でした!」


「それと……気持ちは嬉しいけど、今度からはもうこんなことやめてね? 僕、本気なんだ、冬月さんのこと」


「ごめんなさい……つい勢い余って調子に乗っちゃいました……今度からは、ちゃんと許可とってからにします……」


 少ししょんぼりとさせてしまったけれど、この線引きを曖昧にしてしまえば、みんなが不幸になることくらい明白だ。


「分かってくれてありがとう。じゃあ、そろそろ行こっか」


「はい。あの、き、嫌いにならないで下さいね……?」


「当たり前だよ」



 この日の放課後、僕が家に帰ろうとすると、今度は白雪姫が校門に背中をもたれて待ち構えていた。


 どうしたの? と尋ねると、彼女はどこぞの家出少女のような台詞を口走る。

 

「今晩、あなたの家に泊めてくれないかしら?」


「は……!? な、なんでですか……?」


「だって、もしかしたら今後恋人になるかもしれない人がイビキや歯ぎしりのうるさい人だったら嫌だもの。だから事前に確かめておきたくて」


「も、もしも、うるさかったら……?」


「父の知り合いの医師に診せて矯正してもらうわ」


 思っていたよりも平和な解決策に、僕は安堵する。


「よ、良かった、てっきり殺されるのかと思った。というかそれ、隣で一緒に寝るってことだよね……?」

 

「そうなるわね」


「何かされるとか思わないの……?」


「何かあればすぐ殺せるよう、枕元にナイフを忍ばせておくわ」


「あ、そこはまだブレてないんだね……」


「当たり前じゃない。あなたは私に対して数々のセクハラ行為を働いてきた前科があるのだから。結婚も、ましてやまだ交際すらしていない女性に手を出すような不埒な男を、私は恋人になんて絶対に選ばないから、殺されて当然よ」


「むしろ、そっちをメインで査定されてたり……?」


「あなた、やっぱり勘が鋭いのね。花守君は見かけによらず性に対して貪欲なところがあるから、そこは私にとってかなり重要な判断材料なの。結婚するまで……その、アレを……我慢できる人かどうか……」


 目を背けながら頬を赤らめる白雪姫。

 なんだこの人、バチクソ可愛いんですけど。


「そっか……まぁ冬月さんの言いたいことは分かったよ。叔母さんに聞いてみるから、もしダメだったらごめんね?」

 


 その場で電話をかけると叔母は二つ返事で「いいけど、ゴムはつけろよ?」と、怨念こもった声でそれだけ言い残して電話を切った。


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ