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学園を放火しようとする闇堕ちした学年一の美少女をヤンデレヒロインに更生させるまで  作者: 野谷 海
幕間 古今東西春夏秋冬

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番外編 和島学園七不思議 File4




 我ら園芸部一行は音楽室を離れ、次なる調査ポイントへとやって来た。それは学校の怪談といえば、一二を争う程に有名な『トイレの花子さん』が住むという女子トイレ。


 今回は場所が場所だけに僕が入る訳にもいかず結果的には助かったけど、今やそんな事どうでもよかった。


 その理由は、先刻の月明かりに照らされながら優雅にピアノを演奏する白雪姫の姿が、僕の脳裏に焼きついて離れてくれなかったからだ。


 あの音楽室での映像が脳内で勝手に何度もリピートされ続ける不思議な現象に、僕はほとほと困り果てていた。


 女子トイレの前で原因不明の堂々巡りに悩まされていると、3人のお姫様が文字通りお花摘みから戻ってくる。


「何か収穫あった……?」


「ここの花子さんは休憩中みたいね」


 冬月さんはまたも肩透かしを食らったような顔をしていた。



 3階建てのこの学校にあるトイレの数は全部で3つ。各階に1箇所ずつ設置されていて、その全てを1階から順に回ろうとしていた。


 1階の調査を終え2階へと向かう道すがら、夏樹ちゃんは気落ちしたように問う。


「花子さんってどんな女の子なんでしょうか……?」


「有名なのは、赤いスカートを履いたおかっぱの小さな女の子ってイメージだけど……」


「早く、見つけてあげたいです……」


「な、なんで……?」


「だってこんな暗い学校でずっとひとりぼっちだなんて、可哀想じゃないですか……あたしも昔、病室でひとり過ごすのは、すっごく寂しかったですから……」


「そっか……そうかもしれないね……」


 都市伝説や幽霊の類にまで感情移入してしまうねむり姫の内面の美しさに、僕も心を洗われたようだった。



 2階の女子トイレに到着すると、冬月さんは急にしおらしくなる。


「あ、あの……ここは私が1人で見てくるから、みんなは耳を塞いで少し待っていてくれないかしら……?」


「わ、分かったよ……」

「うん……でも雪乃ちゃん、暗いから気を付けてね?」


 僕と飛鳥先輩は瞬時に察したが、夏樹ちゃんは、やっぱり夏樹ちゃんだった。

 

「あ、もしかして冬月先輩、おしっこしたくなっちゃいました?」


 白雪姫は純真無垢なねむり姫へキッと鋭い視線を送ると、「わざわざ口に出すんじゃねーよ」と言わんばかりの凄まじいプレッシャーを放ちながら、夏樹ちゃんの頭をグリグリと鷲掴みにした。


「い、痛いです冬月せんぱ〜い……じゃあ、あたしも一緒にしますから許してくださいぃ〜」


「あなたも女子なら少しはオブラートに包んだ言い方をしなさい? それとなんで一緒にトイレをするのが贖罪になるわけ?」


「だってぇ、これで平等じゃないですかぁ〜……」


「はぁ……まぁいいわ。花守君、耳塞がなかったら殺すから」


「そうですよ春人先輩、絶対に音聞かないで下さいね!?」


 2人がトイレへ入ろうとすると、飛鳥先輩も慌てて口を開いた。


「ね、ねえ春人、私も今の内に2人と一緒に行ってきてもいいかしら……?」


「も、勿論です。どうぞおかまいなく」


 こうして結局、3人の姫が仲良く連れションへ行ってしまい、僕は女子トイレの前で1人になった。耳を塞いで真っ暗闇の中で1人きり。さっきは考え事をしていたから何も感じなかったけど、この状況、冷静に怖すぎない?



 ジッとしていると、闇に呑まれそうだ。


 何も聞こえない――何も聞かせてくれない。


 僕は、窓越しに空を見る。田舎の夜空は星が綺麗で、さっきの歌を思い出すと、かすかな勇気が生まれた気がした。


「ワッ!!」


 突如背後から響く、耳を塞いでいても聞こえる大音量。


「ぎぃやぁあああ!!」


 僕は仰天し、天井を突き破らん勢いで跳び上がった。


「言いつけ通りちゃんと耳は塞いでいたようね。褒めてあげる」


 どうやら声の主は、白いハンカチで手を拭きながらニンマリと僕を見下ろすイタズラ好きの白雪姫だったようだ。


「冬月さん……子供みたいなことするのやめてよ……本当に死ぬかと思った……」


「この程度で死ぬのなら、私の今までの苦労は一体なんだったのかしら?」


「ははは……言われてみれば確かに……今まで起きた事の方が、これの何倍も刺激的だね……」


「なぜ笑っていられるの? 薄々感じてはいたけれど、やっぱり花守君ってマゾヒストなんじゃない?」


「そうかも……しれないね……」


「ふふ……こんなにもあっさり認めるだなんて、あなたは本物の変態ね……」


 僕たちは、暗闇で声を殺して笑い合う。


 僕と冬月さんの秘密を知らない飛鳥先輩と夏樹ちゃんは、不思議そうに顔を見合わせてキョトンとしていた。


 

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