番外編 和島学園七不思議 File1
5月のはじめ、長い連休が明けてすぐのこと。園芸部顧問である叔母に頼まれ、放課後に部員全員で部室の片付けをしていた。
掃除がひと段落したところで、重々しい表情で夏樹ちゃんが切り出す。
「皆さんはこの学園の七不思議をご存知ですか……?」
転校生で友達も少ない僕には、全くの初耳だった。
「この学校にそんなのあるの?」
「昨日、お父さんから聞いたんです……お父さんもここの卒業生で、その当時から噂されてたって……」
「私も聞いたことないけれど、それ何年前の話なの?」
と、冬月さん。興味を引く話題だったのか、こんな稚拙な会話に混ざってくるなんて意外だと思った。
「お父さんは今年で40歳ですから、たぶん、25年くらい前ですかね……」
まるで思い起こしたように、飛鳥さんは小刻みに震えながら語り出した。
「わ、私もお母さんから聞いたことがあるわ。確か……生物室の人体模型がひとりでに動き出したり、夜の屋上に人影が見えたりってやつよね……」
「もしかして飛鳥先輩、怖い話とか苦手ですか? 実は僕もあんまり得意じゃなくって……」
「ええ……お母さんからその話を聞かされた夜は、1人でトイレに行けなくなっちゃったの……」
「え……それ、どうしたんですか……?」
「奈良丸に一緒についてきて貰ったんだけど……すごくウザがられちゃって……」
千秋の名前が飛び出した瞬間、冬月さんの体が確かに反応していたことを、僕はしかと見ていた。飛鳥先輩もすぐにそれに気付くと、慌てた様子で話を戻す。
「そ、それで夏樹ちゃん……その七不思議がどうかしたの?」
夏樹ちゃんは、眩しいくらいに目を輝かせながら、ズイッと顔を突き出しながら言う。
「あたし、気になります! みんなでその噂を検証してみませんか!?」
「嫌だ!」
「絶対ムリ!」
「いいわね」
僕と飛鳥先輩はすぐさま否定するが、冬月さんだけはなぜか乗り気だった。
「飛鳥さんはともかく、花守君は男でしょ? 将来デートでお化け屋敷へ行った時に、そんな様子じゃ嫌われちゃうわよ? あ、でも、そもそもあなたにはそんなお相手いないものね? ごめんなさい、私が軽率だったわ」
日頃の鬱憤を晴らすかのように、冬月さんは僕へ悪態をつく。
「ひ、否定は出来ないけど、冬月さんだって苦手なものくらいあるでしょ?」
「そうね。例えば、あなた……とか」
嘲るような薄ら笑いを向ける冬月さん。
「今日も絶好調で何よりだよ……」
僕と冬月さんのいつものやりとりが全く耳に入っていない様子の他2名は、なにやらボソボソと独り言を呟いていた。
「夜の学校……吊り橋効果……結婚……」
「お化け屋敷……くっつき放題……」
2人が一体何を呟いているのかは分からなかったけど、僕はひとまず安心していた。
「で、でも飛鳥先輩も否定派で助かりましたよ。このままだと多数決に負けちゃうところでしたし……」
黒ニーソに包まれたスラっと伸びた脚がいつもより内股気味の飛鳥先輩は、手をモジモジとさせながら申し訳なさそうに言う。
「私……勇気出してみようかしら……」
「え……?」
この件の発案者である夏樹ちゃんも、飛鳥先輩の突然の心変わりを後押しするように捲し立てる。
「そ、そうですよね! 春人先輩の苦手を克服するチャンスですし!」
僕は最後まで反対していたけど、各所の鍵を預かる僕がいなければ始まらないと、3人のお姫様から同時に詰め寄られ続けること30分。とうとう僕はそれに了承してしまった。
こうしてこの日の深夜――我ら園芸部一同はゴーストハントへ向かうことと相成った。




